勉強不足
抗ガン剤は昔は患者の命を奪うほど強烈な危険な薬だった。
私の若いころは、この薬で死んだ人の話が珍しくもなかった。
私は点滴抗がん剤を実際に打った人間として、
いかに自分が勉強不足で人任せだったかを
告白したい。
医師はごく普通に抗ガンん剤を使う。
副作用についてはたくさんプリントをもらった、たぶん。
よく読めばいろいろなことが書いてあるのだろうが、
その時は、厖大な同意書に署名することに忙殺され、
あまり読んでいなかったような気がする。
それは私の責任?
プリントの『同意』欄に署名したから、
私の責任?
少しは責任があると今では思う。
もう少し賢い患者になるべきだった。
いまとなっては遅すぎたが。
大切なことは
私自身が副作用について勉強し
とことん質問すべきだったということ。
私は医師任せだった。
「半数以上の人は全く副作用はありません」
と書かれたプリントをもらったが、
私は質問しなかった。
深く考えずに、プリントを信じてしまったのだ。
ところが娘は違った。徹底的に予習していたのだ。
「もうすぐ80になる人に若い人と同じ治療をして大丈夫でしょうか」
質問した娘に医師は答えなかった。
「80以上の人に抗癌剤治療が効果があるかどうかデータはない、
と新聞に書いてありましたが」
さらに聞く娘に医師は答えなかった。
「余命2年延ばすための抗がん剤治療で命1年縮むとしたら、いっそ、しないほうがいいのではないでしょうか」
医師は答えなかった。
傍で聞いていて、この質疑応答は娘の勝ちだった。
娘は徹底的に勉強していたのだ。
インターネットや本や友人の体験談から、
医師との応酬のあり得るパターンをすべて
ノートにメモしていた。
結局、私が一番勉強不足でバカだった……。
終わり
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