【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 文月
カマキリ
「あいつ、何かいいことがあったのか」
ターちゃんのことです。パパは、朝食のパンをかじりながら、ママに尋ねます。
「今日の生活課の授業は、屋外観察だって」
「いっぱい、虫、捕まえるんだ」
ターちゃん、満面の笑みです。
「バーカ」
パパは呆れ顔です。
昼過ぎ、満面に笑みを浮かべて学校から帰って来た、ターちゃん。得意げに、ママの目前に虫カゴを突き出します。ママは、恐る恐る覗きます。
「あら、カマキリ一匹だけなの?」
ターちゃんは、慌ててカゴの中を探します。
「あれっ、バッタが逃げちゃった」
「一緒に入れていたの。じゃあ、カマキリに食べられちゃったのね」
「へーっ」
「でも、よく捕まえられたわね」
「友達がカゴに入れてくれたんだ」
ターちゃんは、カマキリが大好きです。威嚇して鎌を振り上げた勇姿がカッコいいんだそうです。
でも……。
ターちゃんは、カマキリに触れません。目が怖いのだそうです。
「今日も行くの」
呆れ顔で見送るママ。土曜日はパパと、カマキリを捕りに出かけます。見つけて網をかぶせるのまでが、ターちゃんの役目。いつもカゴに入れるのは、パパです。
「早く」
網をパパの方へ差し出します。
でも。パパは、なかなかカゴに入れてくれません。
「早くってば」
カマキリは、網を抜け、柄を伝ってターちゃんの方へ向かってきます。鎌を高く持ち上げて、もう少しで……。
ターちゃんは、網を投げ出して、逃げてしまいました。
ターちゃん警察
ターちゃんは今日泣きながら帰ってきたそうです。
学校でいじめられた?
違います。
クラスでは、ターちゃん警察と呼ばれていて、なかなか人気があるらしいのです。
ターちゃん警察って?
それは……。
ターちゃんは、なくし物を探したり、教室に飛び込んできた虫を摘まみ出したりと、それはそれは大活躍。
いつの間にか、みんながターちゃん警察と呼ぶようになったのだそうです。
それはさておき。
ピンポーン。
ママがドアを開けると、両手で絵の具の箱を持って、その上に虫かごを乗せ、ほとんど顔が見えない状態で、ターちゃんは立っていました。
「まあ、どうしたの?」
ターちゃんは汗びっしょり。汗で目が染みても両手がふさがって拭けないし、かといって荷物を投げ出すわけにもいかず、持ち前の頑張り屋だけで帰り着いたのでした。
ほっとした途端、我慢していたものが溢れたようです。
涙は、汗と負けず嫌いが混ざった勲章でした。
その話を聞きながら、38度の熱がありながらも、おちおち寝てはいられないと頑張っているママの姿が、だぶって見えるパパでした。
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