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【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 文月


私の息子、ターちゃん(当時6歳)とアーちゃん(同じく4歳)の一年間を、絵本風に綴ってみました。

文月《ふみづき》  (7月)   カマキリ、ターちゃん警察
葉月《はづき》   (8月)   セミ取り、お願い
長月《ながつき》  (9月)   自転車、写真
神無月《かんなづき》(10月)  かけっこ、えのぐ
霜月《しもつき》  (11月)  ミカン狩り 七五三
師走《しわす》   (12月)  クリスマス、大掃除
の予定です。

カマキリ

「あいつ、何かいいことがあったのか」
 ターちゃんのことです。パパは、朝食のパンをかじりながら、ママに尋ねます。
「今日の生活課の授業は、屋外観察だって」
「いっぱい、虫、捕まえるんだ」
 ターちゃん、満面の笑みです。
「バーカ」
 パパはあきれ顔です。

 昼過ぎ、満面に笑みを浮かべて学校から帰って来た、ターちゃん。得意げに、ママの目前に虫カゴを突き出します。ママは、恐る恐る覗きます。
「あら、カマキリ一匹だけなの?」
 ターちゃんは、慌ててカゴの中を探します。
「あれっ、バッタが逃げちゃった」
「一緒に入れていたの。じゃあ、カマキリに食べられちゃったのね」

「へーっ」
「でも、よく捕まえられたわね」
「友達がカゴに入れてくれたんだ」
 ターちゃんは、カマキリが大好きです。かくして鎌を振り上げた勇姿がカッコいいんだそうです。
 でも……。
 ターちゃんは、カマキリにさわれません。目が怖いのだそうです。

「今日も行くの」
 呆れ顔で見送るママ。土曜日はパパと、カマキリを捕りに出かけます。見つけて網をかぶせるのまでが、ターちゃんの役目。いつもカゴに入れるのは、パパです。
「早く」
 網をパパの方へ差し出します。

 でも。パパは、なかなかカゴに入れてくれません。
「早くってば」
 カマキリは、網を抜け、柄を伝ってターちゃんの方へ向かってきます。鎌を高く持ち上げて、もう少しで……。

 ターちゃんは、網を投げ出して、逃げてしまいました。


ターちゃん警察

 ターちゃんは今日泣きながら帰ってきたそうです。
 学校でいじめられた?
 違います。
 クラスでは、ターちゃん警察と呼ばれていて、なかなか人気があるらしいのです。

 ターちゃん警察って?
 それは……。
 ターちゃんは、なくし物を探したり、教室に飛び込んできた虫をまみ出したりと、それはそれは大活躍。
 いつの間にか、みんながターちゃん警察と呼ぶようになったのだそうです。

 それはさておき。

 ピンポーン。
 ママがドアを開けると、両手で絵の具の箱を持って、その上に虫かごを乗せ、ほとんど顔が見えない状態で、ターちゃんは立っていました。

「まあ、どうしたの?」
 ターちゃんは汗びっしょり。汗で目が染みても両手がふさがって拭けないし、かといって荷物を投げ出すわけにもいかず、持ち前の頑張り屋だけで帰り着いたのでした。
 ほっとした途端、我慢していたものが溢れたようです。
 涙は、汗と負けず嫌いが混ざったくんしょうでした。

 その話を聞きながら、38度の熱がありながらも、おちおち寝てはいられないと頑張っているママの姿が、だぶって見えるパパでした。



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