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【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 水無月

潮干狩り

「あーあっ、やっちゃった」
 ぬかるみに足を取られたアーちゃん、しりもちをついてしまいました。
「気持ち悪いでしょ。着替えに戻ろう」
 こんなこともあろうかと、着替えは用意してあります。ママに手を引かれて、とぼとぼと休憩所まで引き返す、アーちゃん。

 今日は、パパの会社の催し物に参加して、浜松まで潮干狩りに来ています。

 前日。
「潮干狩りって、何?」
 アーちゃんの、質問責めが始まります。ターちゃんが一所懸命説明していましたが、ターちゃんとて生き物図鑑でしか知らないこと故、上手く伝わりません。
「行けば、分かるよ」
 ターちゃん、結局、説明は諦めたようです。

 海に着いて、まず二人はその広さにビックリ。
「すごいだろう。さあ行くぞ」
 準備ができると、小さな舟で、堤防に囲まれた中にある洲まで運んでもらいます。

 舟を下りるや否や、きょろきょろと足元を見回していたターちゃん。
「あっ、ヤドカリ」
 ターちゃんは、それまで図鑑でしか見たことがありませんでした。小さなプラスチックのバケツに海水を入れ、その中に放ちました。
「すごいなあ、カッコいいなあ」
「ターちゃん、すごいね、すごいね」
 アーちゃんの賞賛に、ターちゃん、鼻をふくらませ得意満面です。

 先を歩いていたママは、見つけたあさり貝を浅く砂に埋めて、アーちゃんを呼びます。
「この辺りを掘ってみたら」
 プラスチックの熊手がぎこちなく動くと、砂の中から貝がのぞきました。
「あっ、あった。貝だ!」
 ターちゃんが横から、
「アーちゃん、分かった。これが潮干狩りだよ」

 半分遊びながらの潮干狩り。小さな網袋に一杯詰めた貝と、山盛りの思い出が収穫です。

 ママは、泥だらけの洗濯物の袋に、ため息一つ。二つ。


プール

「どう?」
 ママに背を押されて、アーちゃんが、パパの部屋に顔を覗かせました。水泳帽子をかぶり水泳パンツをはいて、浮き輪を腰にちょっぴり恥ずかしそうです。

 明日は、幼稚園のプール遊びの日です。園庭の隅に、屋根付きの温水プールができました。雨が降っても、多少肌寒い日でも、子供達がプールで遊べるようにとの園長の心遣いですが、アーちゃんには多分に迷惑なだけのようです。
 アーちゃんは、既に2回もズルしています。今度こそプールに入れようと、ママはあの手この手を考えます。

 次の日、パパが帰宅しました。
「アーちゃん、パパとお風呂ーっ」
 ママは、そそくさとパパの元に走り、
「プールのことは聞かないでって、アーちゃんが言ってるから。そしたら一緒に入るって」
 と耳打ちします。

 後で聞いたら、幼稚園に行く前から、アーちゃんはぐずっていたそうです。ママは、それを何とか言いくるめて連れて行き、先生に頼みました。
「朝からいやだと言っているんですが、それとなく言って、足だけでもいいので、プールに入れるようにお願いします」
「わかりました。でも、アーちゃん、言い出したら、がんとして聞かないんですよね」


 変なところばっかり似てるな。

 これには、耳の痛いパパでした。


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