さよならシャボン(21) 春雪
Story : Espresso / Illustration : Yuki Kurosawa
冬には凍てつく風が吹き付け、枯れ木同然だったものたちが、今は春を告げている。
鮮やかなピンク色の花を、枝の先の先まで細かく、隙間無く咲かせている。
毎年観られる光景でありながら、毎年この時期になると『綺麗だ』『花見だ』と話題になる。
よく飽きもせず、毎年花なんぞに時間を取るものだ。
いや、大抵の人間は花見にかこつけて、酒盛りやらをして騒ぎ立てたいだけなのだ。
実際、始まってみれば花そっちのけで飲めや食えやの大騒ぎ。
そこには花を楽しむ、なんて品のある輩は誰一人居ない。
雨や風で花が散り、口実がなくなるまでこの騒がしい日が続く。
しかし、今日はそうではない。
相変わらず、昨日と変わらず鮮やかな花弁を広げている桜。
今日はその、穏やかな春の顔に加えて、場違いな冬が顔を見せている
北風小僧、なんて言葉では済まされない、季節外れの暴風雪だ。
びゅうびゅうと、五月蝿いくらいに風が鳴き、顔に吹き付ければ痛いほど冷たい雪。
桜が咲き、吹雪いている中で、太陽も顔を出し、二つの季節が同居している光景の違和感を更に強めている。
こんな状況では、流石に騒ぎ立てる口実にはならないらしく、先程まで騒いでいた連中も大慌てで片付け、車に乗り込んでいく。
そんな、尻尾を巻いて逃げ帰るような様子に、鼻を鳴らし、嘲笑ってやる。
こんな珍しい風景を見ないで帰るなんて、矢張り『花見』なんてものに意味はないのだ。
歩く道には既に人の姿はなく、雪と花弁が混じり合った暴風が、我が物顔で闊歩している。
そんな中、一人歩いていることに、どこか優越感のようなものを覚える。
今、この景色を目にしているのは自分だけ。
寒風と春風を同時に浴びながら、一歩踏み出す度に風に溶けていく感覚は心地よい。
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