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小説集

27
自作の小説を纏めています。
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#短編

オレンジの本(掌篇小説)

オレンジの本(掌篇小説)

*昨日公開した漫画の原作小説です。

 電車に乗っていると、ある人物のリュックサックの中からオレンジが溢れ出てくる。乗客たちはそれを拾いはじめる。オレンジには本のタイトルが書かれている。どうして本のタイトルなのかわかるのかというと、人々はその文字を見て、直感的にオレンジが本であると思ったからである。つまり、本(オレンジ)に文字が書かれているということは、本のタイトルである。
 リュックサックの持ち

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蟹走り(掌篇小説)

蟹走り(掌篇小説)

背中合わせで腕を組み、蟹走りをしている人たちがいる。その腕を組んだようすは学生の頃に体操でやったものと似ているが、それに加えて蟹走りをしているのである。
 私がぼうぜんと見ていると、見知らぬ人から「ペアになってもらえませんか」と言われる。私は背中合わせで蟹走りすることなどしたくはなかったが、その人が素敵な人だったので、つい了承してしまう。
 私たちは背中合わせになり、腕を組む。相手の方が背が高く、

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書雨(短篇小説)

書雨(短篇小説)

Chapter01

 海の方から本の匂いがしてきたのを、八尾鳥アオリは感じた。しかし気のせいだろうと思い直した。なにしろ広くはないこの借家には、数千冊の蔵書があるのである。
 いっぽうで、いつも身近にあって感覚が麻痺しているに違いない本の匂いを、あらためて感じるというのは少し妙な気もした。そして湿度が高いので匂いが留まりやすくなっているのだろうとも考えた。
 彼人は、そのまま日課の読書を続けてか

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グドュグドュ(掌篇小説)

グドュグドュ(掌篇小説)

 グドュグドュという得たいの知れないものがいる。
 おおむね人の形をしていて、身長は二メートルから三メートルくらいである。真っ黒で服は着ておらず、その黒色を見ると、数字がオーバーフローしているような印象を受ける。
 彼らは、ほんの三年前に突如として現れ、いつも五体か六体で目撃される。どうして五体のときと六体のときがあるのか、五体のとき一体は何をしているのかはわからない。
 ある日ブラジルで目撃され

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ページの人(短篇小説)

ページの人(短篇小説)

Chapter01

 頭から紙が生えるというと、言葉遊びのようでややこしいので、ページが生えると表現することにする。
 羽千鳥(はちとり)もとりの頭皮は、生まれてずいぶん長い間なにも生えてこず、つるつるとしたままだった。
 しかし5歳2か月のときに、白く小さな突起物ができ、それがみるみる成長して文庫本くらいの大きさのページになった。また、このページには文字らしいものが書か

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