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四季-移ろいゆく季節の中の変わらぬ狂愛- 第1話

【あらすじ】
物語は、黒猫「ハル」の独白から始まる。
続けて、物語はバラバラ殺人事件の犯人「ナツ」の独白へ続き、そして食人事件の犯人「アキ」の独白へと流れる。

彼らはなぜ罪を犯したのだろうか。
ワイドショウでは、何が語られるのだろうか。

そして物語は白猫「フユ」の独白によって締められる----と思いきや、春から始まる四季の最後の大晦日、真犯人とも云うべき人物が自白する。

第1話 春〈黒猫の考察〉

 私はひとつ、欠伸をした。
 我が主人の膝の上である。
 縁側の日向に胡坐をかき、本を読み耽るこの人物が、私の主人である。
 この主人はおそらく人間としては珍しく、私のような猫に本の読み聞かせをしてくれる。普通は、自分の子孫にするものだろうに。
 しかも、それも絵本などと云うものではなく、文学と云うものだ。
 人間は面白い。
 過去には酷く賢い猫が居て、人間語でこの主人の好む本と云うものを執筆し、あまつさえも有名になった猫がいると云う。

 名は――確か無いのだったか。

 至極賢い猫だが、間抜けでもあったようだ。彼は多々、人間を解っていない表記が目立つ。それが解る私の方が賢いのかも知れぬ。
 しかし私は人間語を記せぬ。最も、彼が今生きておらぬのだから知恵比べとは行くまい。

 ――まぁ良い。

 私は主人を見る。
 名もなき猫の主人と――否、もう彼の話は止そう。兎も角、私は名も無き人間語で本を執筆した彼を尊敬していると云う事だ。

 さて。

 この我が主人は柔和で優しい笑みを持つ。ぽかぽかと至極良い天気に昼寝をせずに居られるとは、名も無き彼同様にこの主人も尊敬に値する。
 私は再び、私を襲う睡魔に抗いながら主人の横に陣取った。
 この家には私の他にもう一匹の猫が存在する。名はフユと云う。ちなみに私の名は此の温かく美しい季節である春と同様の名を、主人から承っている。

 フユは矢張り冬と云う季節と同様に真っ白い毛並みを持ち、私は全く季節とは関係がない黒い色をしている。然し私は私のこの黒い毛皮を気に入っている。同様に主人も私の黒い毛皮を気に入ってくれているらしい。フユよりも可愛がられていると思うのだが、それは些か己にとって良いように考えすぎやも知れん。

 私は睡魔に襲われながら思案する。
 私はどうやったらあの名も無き猫より賢いと証明が出来るのだろうか? あの本を聞いてから私はそればかりを考えるようになっていた。あの本の矛盾や考え違いを指摘できるのだから、私は彼よりも賢い筈だ。

 然しにして私は彼より確かに劣っては居る。私は本を書けない。人間語を記す術がない。彼は此の手でどうやって書いたのだろう? それが私にとって一番の謎である。
 自分の手を見ても足を見ても、人間の記す為の道具、「鉛筆」やら「筆」やらを持つことは叶わぬ風に出来ているとしか思えぬ。だが、彼に出来たのだから私にも出来る筈だ。
 然しにして、彼はそれが当然とでも云う様にその方法を本の中で記しては居らぬ。ならば至極簡単な方法であり、実際は当然のことであり、私が見落としているだけなのかも知れん。

 だから私はずっと思案し続けているのだ。

 私の主人と主人の細君は至極仲が良いと私は思う。名も無き彼の主人と主人の細君は余り仲が良さそうではなかったが、時代なのかも知れぬ。
 時に、私が思うのはこの家への訪問者が至極少ないことである。これが普通の家庭であるのか如何なのか、私は全く想像がつかない。私は主人に此処に連れて来られるまで野良であったから、そう云った家庭の事情と云うものは全く解らぬ。それにしても全くと云って良いほど此処への訪問者は居らぬ。

 これが普通なのか如何なのか、他の家で飼われてみなければ解らぬことであるが、然し私は私の主人を好む。故に中々此処を出てゆく気には成れんのだ。これも主人の人徳なのやも知れぬ。
 何しろ、我が主人は優しい。それに男前であると我ながら自慢したい。人間にはどう捉えられるか解らぬが、少なくとも猫の目で見ては男前だ。自慢の主人である。

「ねぇねぇ」
 微睡んでいたので、夢か現か解らぬ状態で、背後から声が聞こえた。
 誰かと思えば、我が主人の細君である。
 現であるようだ。
「私のペンダント、知らない?」
 ソワソワと、細君は困ったように云う。

「もしかして、カフェに忘れてきちゃったかい?」
「そんな、私が、そんなことするはずないと思うんだけれど…」
「探してきてあげようか」
 ぱぁっと、細君の表情が開ける。
「いいの?」
「それくらい、お安い御用さ」

 ふむ、本当に我が主人は男前である。

 そのまま直ぐに身支度を整え、主人は玄関へ行く。
「ホント、ごめんね…」
「そんなに謝らなくていいのに…あ、だったら、縁側の本、片付けておいてくれるかな」
 主人がそう云うと、細君はクスリと笑う。

「もう、ナツってそこだけは変に大雑把だよね」
「読んだら直ぐに、次の本を読みたくなっちゃうんだ」
「その割には、本、結構乱暴に扱うよね。なんか穴空いてた本もあったよ?」
「ほら、ぼく愛用のナイフの切れ味試したくってさ」

「ふふ、まぁいいわ。お片付けならやっておくわ。だから、よろしくね」
「あぁ」
 私は、主人と共に外へ出た。

 主人は散歩をしているかのように、重大な出来事では全くないかの様に、気楽に道を歩く。
 私が野良だった頃もこの道を歩いたことがあるが、矢張り生活に困らない飼い猫である今は、道や町の姿が違って見える。不思議であるが心境の変化などと云うものはそんなものなのだろう。
 住宅街と云うのだろうか、左右には人家しかない。大小様々、と云いたい所だが主人の住む家と大差ない家が連なっている。デザインが違うだけで大きさや規格は殆ど変わらぬ。何故人間はこのようなものに住みたがるのか。猫には全く良く解らぬ。

 無言でてくてくと歩いてゆく主人の後ろを歩きながら、私は主人のことを考える。
 主人は全く以て、細君以外の人間と殆ど話すことがない。出掛ける時間帯も中々、人の居ない時間帯を選んで居るようなので、若しかしたら人間が好きではないのかも知れない。今の時間帯も住宅街には殆ど人がいない時間帯である。学校とやらや会社とやらに行っている人間が多いので、家に居ないらしい。
 家を持つ意味も解らなくなってきたな。

 主人や細君のように家から殆ど出ることはなく過ごすのならば家が必要である意味が解る。然し殆どその場に居ないのに家を持つとは、酔狂とでも云うか。全く全く、解らぬ。
 むむ。
 私は其処まで考えて気付く。

 此処まで解らぬことが多いのは、矢張り私はあの名も無き猫よりも劣っているのだろうか? 人間を理解しようとすると解らぬことが多すぎる。
 つらつらとそんな適当なことを考えていると、どうやら主人の目的地に着いたらしい。
 目的地のカフェと云うものを私は顔を上げて見上げる。

 ーーここは、非常に異質な場所だ、と私は感じた。

 『000』と表記されたそれを、何と読むのか私には解らぬ。故に零零零ゼロゼロゼロとでも呼ぼうか。
 主人はその000の扉を開けて入って行った。カラン、と涼しげな鈴の音が鳴る。

「いらっしゃーい!」
 カフェと云うものはもっとお洒落な人間がいる所なのではないか、と私は思わず思った。思って仕舞った。猫である私が思うに、その声が聞こえるのはもっと威勢の良い、八百屋とか、そう云った場所なのではないのか?

 然しその声を発した人間を見ると、八百屋とも違う。
 三十前後の女性、彼女は胸の谷間が見えるほど黒いワイシャツの前を開け、白いエプロンを掛けている。非常にシンプルな姿である。

「やあ、マスター。コーヒーで」
「はいよー」
 どうやら主人はここで一服して帰るらしい。
 …と思ったが、コーヒーが届く前に、主人はとある人間の元へ歩み寄った。

「こんにちは。神崎かんざきさん」
 そう云って主人は一人の人間の向かいの席へと腰掛けた。
 そこはその人間の特等席とでも云うべき場所であるような雰囲気が漂う。        他の誰もがその席へと座らぬような。
 年齢で云えば主人と同等程度か。
 男性か女性か解らぬような風貌をしている。

「こんにちは。えーと…」
 主人の言葉に人間――神崎はそう答えた。主人とは面識があるのではないのか? それなのに名前を憶えていないとは、知り合ったばかりなのだろうか。
「ああ、えーと、ナツで結構です。ここの常連さんですよね」
「そうですね。ふふ、だから、僕は知らなくても僕のことを知っている人は、確かに沢山いる気がします」

 他人行儀な言葉遣いからして、二人は知り合って間もないようだが、一体なぜ主人はこの神崎と云う名の人間に話しかけたのだろうか。
「さて。回りくどく云う程ぼくは貴方のように会話が好きではないので、単刀直入に云わせて戴きます」そう云って主人は柔和な笑みを神崎に向けた。「ぼくの、ぼくの連れが持っていたペンダントを返して下さい」
「何のことでしょう」
 神崎はすかさずそう応えた。

 全く嘘の無い笑み。本当に何か解らないと云う表情。勿論、ワザとらしく小首を傾げたり表情を作ったりなどしていない。全く自然だ。
「カプセルの入ったペンダントですよ。ピンク色の。可愛らしいペンダントです」
「さて。少なくとも僕は持ってないですが」
「そうですか?」

 主人がそう応えた時丁度、先刻主人がコーヒーを頼んだ人間がやってきて、コーヒーをテーヴルに置いた。確かマスターと主人が呼んでいたと思うので、私も彼女をマスターと呼ぼう。
「はい、お待ちどー。神崎、お代わりは?」
「あ、お願いします」
「了解っ」

 そう云ってマスターは一度戻って、――何と云うのだろうか、コーヒーがたっぷりと入った大きな器で、神崎の前にあるカップの中に並々と注いだ。
「あれの中身を知っていて、貴方だったら欲しがると思っているのですが」
 ふふ、と神崎が笑う声がした。
「僕のこと、よく知ってるんですね」
「この喫茶店では、貴方は有名でしょう」
「この喫茶店は、有名ではないですからね」

 一体どう云うことなのだろうか? 猫である私には全く理解ができない会話である。
 この神崎と云う名の人間の顔をもっとよく見てみたいと、私は主人の膝の上へとジャンプして上った。膝の上からテーヴルへ前足を置き、神崎の顔を見る。
 ほう。
 まぁ、何処にでもいるような人間だな。
 まじまじと顔を見るが、特にそれ以上の感想は出てこなかった。

 そしてそうやって神崎を見る為にテーヴルへと乗り出した私に、「可愛い猫だね」と神崎が云うのと、「おい、ハル。上に登っちゃダメだ」と主人が云うのはほぼ同時だった。
 ふむ。主人がそう云うのならばそうなのだろう。私は主人の云う通り、前足を引っ込め、乗り出した体を引っ込め、いつもの様に主人の膝の上に丸くなった。いつもいる場所であるので至極落ち着く。

「黒猫っていいね」
 神崎が云う。
「可愛いだろう? ハルと云うんだ」
 其処で言葉を区切る。何故かと思えば、そう云えばペンダントの話が中断していたことを私は思い出す。
 それを主人も神崎も承知である。
 「解ってるよ」くすくすと笑いながら、神崎は云う。「ペンダント、ね…あれ、凄く欲しくて。あんなの中々手に入らない」
「だから困っているのですよ」
 主人は微笑む。

「そう。でも、僕も欲しいんだ。何かあった時の、為にね」
 それは、先程の嘘を認めたと云うのだろうか。
 全く、隠す積もりもないように思える。
「でもあれはぼくの大切な人のものなんですよ。返して欲しい。と云うか、あれを返して貰えないと家に帰れなくてね」
「奥さんでも待っているんですか?」
「そのようなものだよ」

 唯のペンダントの話にしては少し異質である気がする。
 人間が可笑しいのか主人と神崎が可笑しいのか良く解らない所だ。何せ、野良だった頃会った人間と主人は多少、違うのだ。雰囲気と云うか物の考え方と云うか。
 だから私は主人のことを尊敬し好きだと思っているのだ。己が普通の猫ではなく、あの名無しの猫と同等以上になりたければ普通の猫として過ごしている訳にはゆくまい。異質になりたければ異質の近くに居れば良い。
「仕方がないなぁ」

 神崎はそう云って、手をテーヴルの下へやった。そして己の隣に置いてある鞄の中をごそごそとやり、何か――恐らくペンダントを探している。
「嘘など吐く必要はないのに」
 主人はそれを受けて矢張り微笑む。
 この笑顔は全くの本当の笑顔に他ならないことが、私には少し不思議だ。悪意も嫌味もその笑顔には含まれていないのだ。
「でも欲しかったんです」
 神崎はそう云って、細君が常に首に掛けているペンダントをテーヴルの上に出した。ピンクのカプセルにシルバーのチェーン。確かに細君のペンダントだ。私も見たことがある。

 それがそれほど大切なものであるのかと、私は知らなかった。
「確かにこれは全く以て、普通に過ごしていたら手に入らないものですからね」
 主人がそう云うが、それは高価だと云う事なのだろうか? 人間の社会を運営するにあたって金と云うものが存在することを私は知っている。その金と云うものと交換して物を手に入れるのだ。このシステムに当たっては人間を評価してもいい。物々交換よりも余程建設的である。猫も見習えば良いのに、と思うが金を作る技術がないし、何よりも持ち歩くことが出来ない。

 猫が進化しなければ金と云うシステムは導入出来ないと云う事か。ふむ。
 それにしてもそのペンダントも高いものではないような気がする。それともあれか、中々手に入らない類の――プレミア物とか云うものか。
 其処まで考えて、私は私が人間社会をよく知っていることに対して満足する。普通の猫では此処まで知るまい。今の世の中テレビと云うものが存在し、そのテレビから多くの情報が寄せられる。その情報を元にすれば多くのことを知ることが出来る訳だ。だから私は知識の幅が広い。そう自負している。

「そうですね。少し、貴方の奥さんが羨ましいな。そしてそんな奥さんと一緒になった、貴方も」
「ふふ。まぁぼくはそれが返ってきただけでもう満足なのですけれど」
 そう云って席を立とうとする主人を、神崎は呼びとめる。
「宜しければもう少し僕の相手をして戴けませんか?」
「いいですよ」

 少しの躊躇いののち、主人は体の向きを神崎へと戻した。私はその主人の少しの動きで床に落ちそうになったが、慌てて重心をコントロールしたので大丈夫だった。猫は人間に比べて其処ら辺が優れている。
「有難う御座います。例えば人を殺すと云う事について。僕は悪いことだとは思わないのですよ。だって、何故人を殺してはならないのかと問われたら、答えは一つじゃないですか。日本皇国憲法でそうやって決まっているからでしょう。それ以外に全く人間を殺してはいけない理由などこれっぽっちも存在しないのです」
 お、驚いた。いきなり他人に対してそんな話をするのは礼儀として一体どうなのだ? テレビを見る限りそんなものは存在しないような気がするのだが。

 然しそんな言葉に主人は嫌な顔一つせずに応じる。と云うことは普通のことなのだろう。
 生き死にに関する話をするなど、猫には考えられぬことだ。大体、野良の話と云えばどこどこで集会が開かれるとかどこどこの家でご飯が貰えるとか、どこどこではご飯を漁ることが楽だとか、そんな話しかしない。
「でも、その人間を失った時に哀しむ人が存在するでしょう。ぼくは…少なくとも失うと哀しい人を一人、失いました。その人は決して帰ってくることはありません。もうぼくと言葉を交わすこともありません。それは、酷く哀しいことなんですよ」

「理解はできます。その対象からの新しい情報が必要である、と云う事ですね。確かに死んだ人間と再び会うことは不可能です」
「矢張り、死そのものが良くないことだと、ぼくは思いますけれどね」
「でも、ですね」神崎は続ける。「死んだ人をずっと愛し続けるその人間性と云うものに、僕はちょっと惹かれます。素敵だと思います。無いものを愛する。例えば長年数として認められなかった、インドで発見されたゼロや全ての集合の部分集合であるφ。それらを愛する数学者と同様なんですよ。そう思うんです。無いものを愛する。僕には――不可能です」

「そうですか」主人は云う。「話がシフトして仕舞っていますが、矢張り僕は殺人は良くないと思います。本当に、ぼくは彼女を失って哀しいのです…」
 彼女。それは細君以前の女性のことだろうか? 人間は子孫を作る相手を見つける為に複数人の異性と交流することがあるらしい。ここら辺の概念と意味がいまいち解らないのであるから何とも云えない。相手を好くと云う行為が子孫繁栄以外にも存在すると云うのだが、人間ではない私には到底理解できないものなのだろうか? ここら辺も研究の余地がある事を、私は確認する。

「殺人が許される世の中は矢張り安心して暮らせません。其れが根本にあるのでしょう。少なくとも日本皇国には。だって人間が安心して暮らせるのが国家です。国家を作るのに憲法が必要となる。その憲法に沿って作られる法律に殺人は非であると書かれている。詰まり、人間が安心して暮らせる為に、殺人を行ってはいけないのですよ。それが殺人が駄目な理由だと、ぼくは思いますよ。神崎さん」

「確かにそうですね。解っていると思いますが、僕はもっと根本的な殺人を話しているのですよ。国家以前の、もっと原始的な意味での殺人と云う行為。僕は何故か解りませんが、殺人や食人なんて云うアングラなモノゴトに興味があるのです。何故でしょう? これが異常であることはなんとなく解りますが」
 矢張り神崎はそのまま笑顔を浮かべる。何だか気持ちの悪い笑みだ。勿論その笑みの性質は純朴である。然しその純朴である笑みと神崎の行っていることの均衡が取れないのだ。だから気持ちの悪い笑みであるような気がしてならない。

 その後も、主人と神崎は殺人の是非について語り合う。
 しかし、主張は常に平行線であり、交わることはなかった。
 私としても難しい。
 だが、だが神崎の言葉は興味深かった。

 私は、テレビと云うものを見るのが好きだ。
 特に「サスペンス」と云われるものが好きで、それはどうやら謎解きのようなものだった。
 そこに出てくる「刑事」や「探偵」と云うやつは非常に面白い。
 それら事件を解決する者たちは、その作中で一番頭が良いのだ。

 ーーそう、例えば。
 もし事件が起こり、それを私が解決できたら、あの名もなき猫より賢いと云えるのではないか。
 と、思いはしたが、主人も云う通り、この日本皇国では殺人など滅多におきぬ。
 だからこそ、「サスペンス」という娯楽が存在するのだろう。
 娯楽は、娯楽なのだ。

「ありがとうございます。楽しかったですよ」
 と、つらつらとそのようなことを考えていると、主人が席を立った。
「もし、機会があれば是非に」
 神崎も、そう云って、なぜか私に手を振る。

 主人は、目的のものを手に入れられたから、取り敢えずは良かったとしよう。
 私としても、面白い人間に会えて良かった。

 帰宅すると、今か今かと待っていたかのようにーーきっとそうなのだろうーー細君が玄関で出迎えた。
「大丈夫、回収してきたよ」
「ありがとう!」
 満面の笑みで、細君はそう云った。

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第1話 春〈黒猫の考察〉
第1.5話(表) 季節の変わり目 とあるワイドショウ〈バラバラ殺人鬼に関する考察〉
第2話 夏〈狂愛の果て〉
第2.5話(表) 季節の変わり目 とあるワイドショウ〈食人鬼に関する考察〉
第3話 秋〈狂愛の意味〉
第3.5話(表) 季節の変わり目 とあるワイドショウ〈#$%&~<>に関する考察〉
第4話 冬〈醜き人間共についての考察〉
第1.5話(裏) 季節の変わり目 とあるワイドショウの収録後〈バラバラ殺人鬼に関する考察〉
第2.5話(裏) 季節の変わり目 とあるワイドショウの収録後〈食人鬼に関する考察〉
第3.5話(裏) 季節の変わり目 とあるワイドショウの収録後〈#$%&~<>に関する考察〉
第5話 一年の終わり〈とある人物の自白〉

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