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四季-移ろいゆく季節の中の変わらぬ狂愛- 第2.5話(裏)

第2.5話(裏) 季節の変わり目
 とあるワイドショウの収録後
  〈食人鬼に関する考察〉

希築きづき教授、まぁた思っても無いことをテレビで云ってましたね」
「私は狂人だぞ? 読むものは一度は精神に異常をきたすと云う物語を読んでもすでに狂人だからな、狂わない」
「それってどこのドグラ・マグラですか」

 癲狂院てんきょういんの一室。
 そろそろ秋が近づいてきたので心地よい風を感じる季節だ。
 だが、この癲狂院の窓は開かない。

 希築教授が座る診察台のような場所から少し離れたところにある椅子に座る青年ーー海崎うみさき 美咲みさきーーは、いそいそと室内を掃除しながら希築教授との会話に勤しんでいた。

「で、本当の所どうなんです?」
「いやぁ、本当に僕の好みの殺人鬼、もとい食人鬼だよ! 人が人を食うと云うその甘美な響きに魅せられた人は少なくないだろう」
「いや、少ないと思いますよ」
「……冗談だ」

「まぁ、共食いの一種だ」
「まぁそうでしょう。だって、人が人を食べるんですから」
「そうじゃなくって、カニバリズムとか人喰いとか、そういう高尚なモノじゃなくって、ただの共食い」
「どう云うことですか? その違いがわからないです」
「カニバリズムとか人喰いって云うのは、人間が人間であるが故に同族を食べることを指す。詰まりそこには理性が少なからずあり、罪悪感や高揚感、意味や理由がある」
「犯人はなんの感情もなく、意味も理由もなく、食べたってことですか?」

「そこも少し違ってね。詰まり、本能的な共食いだよ。カマキリが有名だが、クモやサソリなどが配偶者を食べる話は聞いたことがあるだろう?」
「あれですよね、出産に備えて栄養を蓄えるため的な」
「そうそう」
「そしたら、犯人は妊娠した女性ってことですか?」
「まぁ、想像妊娠とかかもしれないけれどね」
「テレビで教授がバラバラ殺人犯と食人鬼の動機が似ているって云ってたのって、詰まり両方とも殺した相手を愛していたってことですか?」
「そう云うこと」
「そんなことあるのかなぁ」

「美咲くん、所詮人間の感情なんて電気信号の結果に過ぎないんだよ?」

 希築教授は楽しそうに微笑んだ。

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