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「未来のために」第3話


第3話 「探索」


 陽射しが眩しかった。コロニーを出て、レオは久しぶりに浴びる太陽の光を全身で感じているかのように両手を広げ目を閉じていた。そんなレオの様子を見て伊折が言った。
「久しぶりだろ、陽にあたるの」
「うん」
「気持ちいいだろ?」
「うん、すっげぇ気持ちいい!」
「ははっ」
 伊折とレオは無邪気に外を走った。レオは走りながら思いきり外の空気を吸い込んだ。懐かしい太陽の匂いに身体が喜んでいるような感じがしていた。
「最高だよ伊折、ありがとう」
「はは、喜んでいるところ悪いけど、そろそろ気をつけろよ。どこにドラクレア軍がいるかわからないからな」
「あ、そうか、わかった」
 二人は横に並んで歩き出した。
「生存者がいたとして、日中は建物の中にいるはずだ。だから建物をよく見て、窓に光が入ってこないように施されている家を訪問する。もし人がいたらコロニーに誘うんだ。いいか?」
「うん」
「よし、じゃあ気になる建物があったら教えろよレオ」
「わかった……」
 こうやって二人の日中の生存者探しは始まったのだった。

 人も動物もいない静かな町。
 二年前、こんなことになるとは誰も予想していなかった。当たり前のように生活する人々。子どもたちは当たり前のように学校に行き、大人たちは当たり前のように働いていた。太陽に近いこの星は有り余る太陽エネルギーのおかげで町は著しく発展していた。あらゆる星の者たちがこの星に興味を示し、多くの人々が訪れてはさまざまな技術を残していった。結果この星は最新のテクノロジーを有し町は賑わい人々は誰もが裕福で、未来都市として理想のモデルとまでされていた。
 それが今となってはその面影すらどこにもなかった。まるで何百年も前から人などいなかったと思うほど町は朽ちかけていた。緑豊かだった美しい町はもうどこにもない。植物も枯れ、残ったのはただ静かにそびえ立つ建物と砂だけだった。
 伊折もレオも、この変わり果てた世界に悲しみと怒りを感じていた。なぜこんな世界になってしまったのか。この二年間のやり場のない怒りを、生存者を探すという原動力にするしかなかった。

 それから二週間ほど過ぎた頃、探索からの帰り道でのことだった。その日も何も収穫はなく、閑静な住宅地の中で二人が肩を落としている時だった。
 ――ゴトゴトッ
 聞き慣れない音に伊折とレオはすぐに顔を見合わせた。
「今の音……」
「しっ」
 伊折は人指し指を自分の口にあてた。そして小さな声で言った。
「あの角の家だ。気をつけろ」
 伊折はポケットから銃を取り出してかまえていた。レオもポケットに手を入れたまま銃をそっと握った。足音をたてないように少しずつ音がした方へ進む二人。
 角の家までくると二人は深呼吸をして息を整えた。伊折はレオに目で合図をすると、そっと門を開け中を覗いた。
 伊折が一歩ずつ、慎重に中へと進んで行く。
 その時だった。「わぁっ!」という叫び声とともに伊折の体が宙に浮いたと思うと、家の外で待っていたレオの目の前を通りすぎていった。
「痛ってぇ……」
 体ごと投げ飛ばされた伊折は地面に倒れ、お腹を押さえていた。
「大丈夫!? 伊折っ!」
 レオはすぐに伊折のもとに駆け寄った。
「レオ気をつけ……」
 そう言おうとして伊折は一瞬言葉を失っていた。家の中から出てきたのは、ツインテールの髪型の可愛らしい女の子だった。
「へっ!? 女の子!?」
 伊折もレオも、あまりの驚きで動けないようだった。
 そんな二人を女の子は怒ったような顔でじっと見ていた。
「こそこそと入ってきてびっくりしたじゃないですか! あなたたちは何なのですか?」
 レオは慌てて立ち上がると、何を思ったのか女の子の前に行き頭を下げていた。
「すみませんでした。僕たちは怪しい者ではありません。生存者を探しているところでした。僕は本城レオと言います。こっちは越名伊折。君の名前は?」
 レオが丁寧に挨拶をすると、女の子の表情もやわらいだようだった。
「……私はツバサです。この時間に外に出られるということは、お二人共クロスってわけですね?」
 レオは振り返って伊折を見た。伊折はお腹を押さえながら立ち上がり、レオの肩につかまった。
「君はクロスのことを知っているの?」
 レオがそう聞き、伊折はツバサという女の子の目を覗き込んでいた。
「あれ? ツバサの目は赤くないぞ」
 伊折とレオは顔を見合わせ首をひねっていた。
「私はアンドロイドです。ヴラドウィルスは関係ありません」
「えっ?」
「アンドロイド?」
「はい」
 二人はツバサを上から下までなめるように見た。
「アンドロイドがいるのは知ってたけど……」
「僕も、実際に見るのは初めてだよ」
「すげぇな」
「うん」
「それで? 生存者を探してどうするおつもりなのですか?」
 物珍しそうに自分を見ている二人に向かってツバサが聞いた。
「えっ? ああ、生存者を探して俺たちのコロニーに避難させたいんだ。人を実験台にしているドラクレア軍から守るためにね」
「ふーん」
「ねえ、ツバサも僕たちのところにおいでよ。一人じゃ寂しいでしょ?」
 レオがツバサに言うと、ツバサは本当に驚いたというような顔をした。
「え!? いいの?」
 レオと伊折は目を合わせた。
「いいよ! いいに決まってるじゃん! じゃあ早速帰ろう! 日が暮れる前に」
「……うん」
 そして三人は並んで歩き出した。
「あの……さっきは蹴っちゃってごめんなさい」
 ツバサがどこか恥ずかしそうに、伊折に向かって謝っていた。
「ん? ああ、いいよあれくらい。こっちも脅かして悪かった」
「銃が見えたから思わず……」
「そうだよな。ごめんな」
「ふふ、あははっ……」
「おい、何笑ってんだよレオ」
「だってさ、さっき伊折が僕の目の前をサーッて飛んでいったんだもん。すごい力だね、ツバサって」
「はい、アンドロイドですから」
 ツバサは得意気な顔をしてみせた。
「あはっ」
「ハハ」
 伊折もレオも、アンドロイドとはいえ人と出会えたことが嬉しくて、楽しかったのだ。





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