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「未来のために」第4話


第4話 「アップデート」


 コロニーに帰ってきた三人はすぐに二階の食堂へと向かった。
「腹へったぁ」
 伊折がキッチンの夫婦にむかって叫ぶ。
「はいはい、すぐ準備するからね」
 キッチンからママの声が聞こえた。その時ちょうど、教授と麗子先生が食堂に入ってきたところだった。
「まあ可愛らしい。あなたがツバサね」
 麗子先生がツバサを見るなり駆け寄った。
「私は楠美麗子っていうの、よろしくね」
 麗子先生とツバサが握手をした。
「俺は神山悟史だ。よろしくなツバサ」
 教授もツバサに挨拶をしてから、二人は席に座った。
「よろしくお願いします」
 ツバサは嬉しそうに頭を下げていた。
「あらあらまあまあ、アンドロイドね?」
 料理を持ってきてくれたママは、ツバサを見るなり笑顔でそう言った。それを見ていた伊折は不思議そうな顔をしていた。
「ママ、見ただけでツバサがアンドロイドだってわかるの?」
「ええ、わかるわ。こうなる前にやってたお店でアンドロイドを雇っていたのよ。髪型は違うけど、顔はその子に似ているわ。ツバサっていうのね、私はママよ。よろしくね」
 ママはなんだか嬉しそうにしていた。
「ママさん、よろしくお願いします!」
「ねえあなた、アンドロイドのツバサだって」
 ママがマスターを呼ぶとマスターもキッチンから出てきてツバサを見た。
「おお、なんだか懐かしいな。よろしくなツバサ」
「よろしくお願いします」
 ツバサもなんだか嬉しそうな表情をしていた。
「そうそう教授さん、後でツバサをネット回線に繋いであげるといいわ。アップデートすれば、ツバサにいろいろな情報が入ると思うわよ」
 ママが言うと教授は何度もうなずいていた。
「なるほど、わかりました」

 食事を終えると教授は研究室にツバサを連れて行きネット回線に繋いだ。
「アップデートを開始します」
 ツバサはそう言うと目を閉じて動かなくなってしまった。
「これはまた、時間がかかるかもしれないな。まあ明日の朝には終わってるだろう」
 教授の言葉で伊折とレオは自分の部屋へ戻って寝ることにした。

 朝、伊折に起こされたレオは伊折と研究室に向かった。
「おはよう、早いね二人とも。ちょうど今、アップデートが終わったところだよ」
 教授がツバサからコンセントを抜いた。
「ツバサ、大丈夫か?」
 伊折がツバサを覗き込む。
「はい、大丈夫です。ここから北へ五キロの大きな建物に人が住んでいるようです。回線が使われています。それと、ドラクレア軍はどうやらクロスを探してクロスの生き血を飲んでいるようです。クロスの血を飲むとクロスと同じように目が赤くなって太陽の光が平気になる、と書かれたデータがあります。ただしその効果は一日程度。なのでクロスを見つけるのに必死になっています」
 ツバサがひと息で話した。
「生き血を!?」
「ひでぇな」
 伊折とレオは恐怖を覚えていた。
「ツバサ、ドラクレア軍の基地はどこにあるんだい?」
 教授が聞いた。
「おそらくここから南へ十キロ、突き当たりを西へ十五キロの山奥かと」
「うーん、ということは基地はガルサ山にあるのか」
 教授はパソコンで地図を見ながらそう言った。
「生存者がいるのは……大きな建物となるとおそらく……ここ、このグレイスホテルじゃないかな」
「わかった。飯食ってから行ってくるわ。なあレオ」
「うん」
「ああ、頼んだぞ、二人とも」
 そして伊折とレオは食事を済ませ、いつものように探索の準備をしてから外へ出た。
「なんだ?」
 コロニーを出ると伊折が驚いていた。目の前にワゴン車が停まっていたのだ。低空飛行ができ車よりも速く移動できるもので、かつてのこの星では欠かせない乗り物だった。だがヴラドウィルスがまん延したばかりの頃、混乱した人々が低空交通法を無視し事故が多発した。よって政府はこの低空飛行ができる乗り物を廃止とした。
「これ、もしかして、ジェットワゴンじゃん! えっ、これ使っていいの?」
 興奮して戻ってきた伊折に教授はキーを渡した。
「昨夜見つけて太陽の光が入らないようにフィルムを貼っておいた。好きに使ってくれ」
「やったね! ありがとう教授」
「おう」
「レオ、行こうぜ!」
「うん」
 伊折とレオはジェットワゴンに乗り込みエンジンをかけた。
「待って、私も行きます」
 その時ツバサがワゴンに乗ってきた。
「ツバサ、大丈夫か?」
「はい。お願いします」
「ん、わかった。じゃあ出発だ!」
 なんだか嬉しそうにはしゃいでいるような伊折を見ていると、レオも自分が楽しくなっていることを感じていた。

「ここか……」
 グレイスホテルの前に到着した三人は、ワゴンを降りるとホテルを見上げた。窓は全て塞がれていて、中は全く見えなかった。
「なるほどな」
 伊折は納得した様子だった。
「気をつけて下さい。監視カメラで見られています」
「えっ?」
 見ると確かにツバサの言うとおり、入り口のドアの上から丸いカメラがこちらを見ていた。
「すみません、俺たちは近くのコロニーから来ました。怪しい者ではありません。少しお話しさせて下さい」
 レオはカメラにむかって喋った。
「レオ、これむこうに聞こえてんのか?」
「……たぶん?」
「おーい、俺は伊折でこっちはレオとツバサだ。誰かいるんだろ? 中に……」
 ――ガチャ
 伊折が叫んでいるとすぐに鍵が開くような音がした。
「おっ、話しがわかるヤツじゃん。お邪魔しようぜ」
 伊折を先頭に三人はドアを開けて中へと入った。二重になっているガラスのドアを閉めてから、太陽の光が入らないのを確認したレオ。それを待っていたかのように目の前の玄関ホールの自動ドアが開いた。照明の明かりの中、伊折が一歩前に進んだ。
「止まれ!」
 ――カシャ――カシャ
 左右両側に銃をかまえた男が一人ずつ立っていた。
「わあ、なんだよ」
 三人はとっさに両手を上に挙げた。
「あの……」
「喋るな!」
 正面から体格のいい、髪を後ろで束ねた屈強な男が近づいてきた。
「俺はこのコロニーのリーダーのジンだ。クロスがこんなところに何しに来た」
「……」
「答えろ! 何しに来たんだ!」
 伊折は上げていた手を下ろしてため息をついた。
「あーもう、なんだよオッサン。喋るなって言ったり答えろって言ったりどっちだよ」
「あはっ」
 伊折の言葉にレオは思わず笑ってしまった。
「では私が答えます。ドラクレア軍から人々を守るためにこの二人は生存者を探しています。ここから五キロ先のコロニーで一緒に暮らすためです。ヴラドウィルスの抗体と治療薬を研究しています。ドクターもいます。美味しい食事もあります。私たちのコロニーに来ませんか?」
 ツバサはまたひと息で喋っていた。
 リーダーのジンが合図をすると両側の男は銃をおろした。
「……アンドロイドか?」
「はい」
 ツバサが返事をした。
「今の話しは本当か?」
「なんで俺たちが嘘をつかなきゃなんねぇんだよ」
 伊折がふてくされている。レオは大きなこのホテルの中を見渡しながら聞いた。
「あの、ここには何人くらいの生存者がいるのですか?」
 ジンはレオの顔を見つめたあと、振り返って歩き出した。
「……ついてこい」




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