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彼女の春巻き(6)
この小説は、過去にTwitterで上げた140字短編小説を書き直したものです。
彼女の春巻き(6)
あれから20年……。
僕達の食卓から『春巻き』が消え、代わりに子供達の好物が並ぶ様になった。
ハンバーグ、オムライス、唐揚げに甘口のカレーライス。
子供が好きな王道料理が並ぶ騒がしくも賑やかな家族の食卓。どれもとっても美味しいけれど、偶に無性に食べたくなる。
パリパリの皮、溢れ出すジュワッとした餡、口の中で咀嚼した時に鼻に抜ける胡麻油の香りーー。
何度か頼もうかとも思ったけれど、日々の子育てや家事に忙しく動き回る妻を見るとその言葉を掛けるのは憚れた。
ただでさえ忙しいのに、あれ程手間の掛かる料理を作ってくれだなんて……とても頼めない。
この頃の僕は彼女の影響ですっかり料理好きになっていて、レシピさえ有れば大抵の料理は作る事が出来る様になっていた。勿論『春巻き』だって作れた筈だ。
だけど……。
(妻の得意料理を僕が作るのは、何か違う気がする……よな?)
ーーと、僕は『春巻き』を作る事をやめた。
きっと僕が好きなのは、妻が僕の為に作ってくれた、あの『春巻き』なんだ。
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