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彼女の春巻き(2)

この小説は、過去にTwitterで上げた140字短編小説を書き直したものです。


彼女の春巻き(2)

「さぁ、今日は君をギャフンと言わせてやるからね!」

帰って来た彼女はそう僕に告げると、早速とばかりにキッチンへ向かう。

「うわっ、随分と買い込んできたね!?」

沢山の野菜、見たことの無い調味料、サラダ油に……胡麻油? 油って二種類も必要なの??

予想外の大荷物に驚いていると、彼女は呆れた様に僕を睨んだ。

「だって君んちってさ、油もなければ調味料すら無いんだもん。鍋やフライパンはあるのにさ」

彼女が棚から取り出して見せたフライパン、僕が一人暮らしをする時に親から持たされた物だ。

「毎日インスタントばかりなんでしょう!」
「ーーうっ、いや、弁当だって食べてるよ!」

「お弁当って、コンビニのでしょう? そんなんじゃ栄養が偏るっ! お味噌汁ぐらいはちゃんと作って食べた方がいいよ」

普段の食生活を彼女に知られてしまった……。

(調理器具は一式揃ってるからバレないと思ったのに……)

レトルトやインスタントしか作らない僕には想像も出来なかったが、どうやら料理ってのは道具だけあっても出来ない物らしい。

しかし、そうだな。確かに彼女が言う様に味噌汁ぐらいは作れた方が良いかもしれない。

(出汁の取り方、もう覚えてないや)

家庭科での調理実習で習った記憶はあるが、その内容は既に薄れてしまった。わざわざ学び直すのもまた面倒臭い。

そんな僕の心情を察したのか、彼女は僕の顔をジッと見上げると、

「何なら私が毎日作ってあげようか? なーんてね!」

そう言って、僕の胸を指で突いて彼女が笑った。

(それは……凄くいいな)

彼女と暮らす毎日ーー想像しているうちに何だか急に恥ずかしくなってきた。火照る顔を見られぬ様に、僕はわざと彼女に背を向けて声を掛ける。

「えっと……その、僕も何か手伝おうか?」

ーー思えばあの時、もしかしたら彼女も照れていたのかもしれない。

「う? わっ、わっ」

僕の背中に自分の頭をグリグリと押し付け、彼女はそのまま僕をキッチンから追い出しこう言った。

「ノーサンキュー! 君には夕食が出来上がるまでキッチンへの立ち入りを禁じます! ほらほら、あっちでテレビでも見てて」

キッチンから押し出された僕は、そのまま素直にリビングへと戻る。

考えてみれば手伝おうにも僕が出来るのは味見ぐらいな物だ。きっと彼女にとっては邪魔にしかならないだろう。それにーー、

(作るのは『春巻き』だしな、手伝いなんて必要無いか……)

未だに『春巻き』と『春雨サラダ』を勘違いしたままの僕は、そのままソファーへと腰掛け、テレビのリモコンに手を伸ばした。

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