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彼女の春巻き(3)

この小説は、過去にTwitterで上げた140字短編小説を書き直したものです。


彼女の春巻き(3)


ーートン トン トン

包丁がまな板を叩く小気味の良いリズム。そっと振り向けば、キッチンの奥で手際良く動く彼女が見える。

野菜を洗い、刻み、ガスコンロに火を着ける。フライパンを振りながら、合間に洗い物も熟す彼女。

ザザー キュッ。チッチッチッチッ ボッ

シンクとコンロを行き来しながら、水と炎を自在に操る姿はまるでキッチンの魔術師だ。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、料理の出来ない僕にとって、それは本当に魔法みたいに見えたんだ。

「……ねぇ、何かすっごく視線を感じるんだけど? あんまり見られると、緊張して失敗しちゃいそうだからさー」
「あっ、ごめん」

電車で外を眺める子供みたいに、気付けばソファーの背に身を乗り出しキッチンを眺めていた僕は、彼女の言葉に慌てて前を向く。

(料理が出来るの、格好良いな……)

今まで全く興味の無かった料理が急に魅力的に見えてきたのは、きっと彼女の所為だろう。

ーーとは言え、「見るな」と言われてしまったからには、大人しくテレビでも眺めてるしか無い。

僕は適当にテレビのチャンネルを変えて行く。ニュース、相撲、幼児向け番組と、クルクル変わる画面を見るものの、キッチンが気になって内容なんか一切入ってこない。

仕方がないので背後から聞こえてくる音や匂いで料理の想像をしてみる。

ーージュッ パチパチ

何かを油で揚げる心地良い音と芳ばしい匂い。これは……何かを揚げているのかな?

(……サラダなのに?)

ーーどうにも合点がいかない。

なにせ僕の中では彼女が作っているのは「春雨サラダ」だ。一体何をそんなに揚げているのか、僕は不思議で堪らなかった。

(あっ、もしかしてトッピングか!)

そういえば、玉ねぎを揚げてパリパリにした物をサラダに乗せていた店があったかもしれない。

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