見出し画像

鬼滅の刃はなぜ売れたのか。 〜ジャンプ購読歴8年・漫画家志望大学生が語る〜

鬼滅の刃はなぜ売れたのか。

これについての議論は、様々な記事やSNSで見かけたことがあるだろう。

世界最高峰少年漫画”ONEPIECE”が持つ、歴代最強初版発行部数(最初に発行される部数のこと。この部数は確実に売れるから、これくらい刷ろう、という出版社の予測から計算され、その後売れ行きが伸びれば、第二版、第三版と重版出来していく仕組み)は67巻の405万部。
様々な漫画家達がこの記録を塗り替えようと、ありとあらゆる作品を生み出し、今尚挑戦を続けている。
しかし実際、それは不可能に近い。
累計発行部数的に見ても、内容的に見ても(賛否両論はあるだろうが)あの作品を超える作品は、この先現れないと僕は思う。
少年ジャンプ黄金期の余韻残る時代に生まれたあの作品は、老若男女問わず世界中から長い月日をかけ、愛されてきた。
子供の本離れや、漫画村などといった違法サイトの増加などといった時代のうねりによって、それは致し方無いものである。
と、だれもが思っていたのである。

2020年5月13日、事件は起こる。2016年から、猛者集まるジャンプ漫画界ではほぼ無名とも言えた作家が描く作品「鬼滅の刃」が、初版280万部という異常な数字を叩き出したのだ。これはONEPIECE67巻の次に並ぶ数だ。歴代二位である。
私のみならず、すべての漫画に精通する者達には激震が走った。

あれは、2016年の冬だっただろうか。
ひときわ絵柄が異彩を放つ作品「鬼滅の刃」を読んだ時のことはよく覚えている。
私は確かにその時こう感じた。この作品もすぐに打ち切られるだろうと。
確かにあの頃の直近のヒット作といえば、「火の丸相撲」「僕のヒーローアカデミア」が挙げられるくらいで、「暗殺教室」や「NARUTO」をはじめとする作品の連載終了と、数多い打ち切りから、ジャンプには暗雲が立ち込めていた。
ジャンプをずっと読んできた私の目に狂いはなかったはずだ。この作品も、きっとすぐ終わる、と。
しかし数週経つと、どうやらお様子がおかしいのだ。
魅力あるキャラが増え始め、また今までにあるようでなかった主人公の熱血っぷりに、読者は惹かれていく。気づいた頃にはSNSで、「早期鬼滅組」と呼ばれるファン達が、作品に対する意見やファンアートなどを投稿し始め、ジャンプ界に少し風が吹き始める。
ただそれでも、私はそれも良くあることだということを知っていた。最近で言えば、「新米婦警キルコさん」「左門くんはサモナー」をはじめとする、一部のコアなファンによってでっち上げられ、しかしすぐに勢いが弱まり打ち切られてしまう作品を、多く見てきた私に言わせれば、それはそれほど目に留めることでも無かったと思っていた。
これはどうやらおかしいと気づき始めたのは、単行本7巻、煉獄杏寿郎というキャラクターの登場からだ。彼の登場、そして彼の活躍は、私の目に狂いがあったことを思い知らせることになる。この作品のキャラクターが放つ言葉には、力があることに、気づいたのだ。
この世には、素晴らしいセリフ、いわゆる名言を残してきたキャラクターは数多いる。その作品が例え打ち切り作品であってもだ。
鬼滅の刃が凄いのは、そのセリフ1つの理解のしやすさなのではないかと、筆者は考察する。
近年の漫画界全体の傾向として見られるのが ”ターゲット層の上昇” である。
例えば所謂”殺し合いゲーム”などの、設定重視作品が飛ぶように売れる時代だ。
裏付けを言うならば、スポ根漫画が売れなくなった事だろう。
少年ジャンプで言えば、近くハイキューの終了によって、スポ根作品は0になる。
だから誰しもが、今まで誰も見たことがない設定で、誰も見たことがないキャラクターに、誰もいったことがないようなセリフを吐かせるのだ。
それは確かに、面白い。確実に日本の漫画という文化をレベルアップさせていることには間違いないだろう。

要は時代錯誤なのである、鬼滅の刃は。
これはセリフひとつとった事ではない。設定やキャラクター、時代、などなど、今までヒットを飛ばしてきていた作品の部分部分を持っている。
それが売れるのだ。この時代に。
そんな事、誰も気づきはしなかっただろう。
漫画において ”刀” ほどかっこいい武器はないことを皆さんご存知だろうか。
「ONEPIECE」「BLEACH」「るろうに剣心」…。刀は日本男児の永遠の憧れだ。
当然多くの作家がそれは分かっていた。
だからそれと、今流行りの ”設定重視作品” と刀を掛け合わせて、多くの作品が生まれていた。
しかしそれらは鬼滅の刃のような売り上げは出せなかったのである。
つまり、今の時代のジャンプ読者が、子供達が、この作品を待っていたのである。
それは偶然の産物だ。誰も分かりはしないことだった。もしこのヒットが読めるような人がいたら。是非とも集英社に入って欲しい、そして黄金期を取り戻してくれないだろうか。
物の売れる売れないには、規則的なものはない。消費者のニーズが完璧にわかれば、この世の経済は混乱を招くだろう。誰かが売れて、誰かが売れないから、世の中は回っていくのだ。

作品の本質における、ヒットの考察は以上である。
ここに乗じて、「ufotable」と呼ばれる有能(無能?)アニメ制作会社によって、この作品は元ある美しい蕾ををさらに開花させた。
また同時期にすこぶるヒット作がなかったこと、そして何よりコロナウイルスによる「おうち時間」がもたらす相乗効果によって、気づけば大きな花畑へと変化していった。

今回のヒットによって、多くの可能性を感じた漫画界に携わる人達は少なくないだろう。このデジタル時代にも、負けない強さが漫画にはあるということだ。

この先自分の人生に何があっても、漫画だけは読み、描き続けると誓っている。
折れるな俺!!俺は強い男だ!!
(本弁主人公のセリフに影響されています。決して変な人になったわけではありません。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?