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小説・「アキラの呪い」

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「俺にはろくでなしの姉が一人いる。姉は俺の呪いであり、俺は姉の呪いになりたい」 姉の自殺未遂をきっかけに変化する義理の姉と弟の危うく奇妙な関係を描く。
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#連載

小説「アキラの呪い」(15)

小説「アキラの呪い」(15)

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アキラの呪い 15.16は連続更新。

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 晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失ったかのようだった。そうして姉はその後一日だけ滞在し、実家からアパートへと戻っていった。正直いつ帰ったのかは俺にもわからない。週明けになって大学の講義に出なくてはならなかったから。ただ、最後の1日はどこかに出掛けていたようだった。

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小説•アキラの呪い(12)

小説•アキラの呪い(12)

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 姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。
 「姉さんか…」
 夢現だった意識は覚醒へ向かう。低いうめきと共に無意識で呟いていた。同じ家に姉がいることに慣れない。沈黙に満たされていたはずの場所から人の気配がすることにどこか落ち着かなさを感じた。窓の方へと目をやると、朝日がカーテンを白く透かしている。
 遅くまで寝ていたつもり

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小説・「アキラの呪い」(10)

小説・「アキラの呪い」(10)

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第三章「家族」

 ある晴れた月曜の朝だった。
 秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。
 「あ、そうだ。晶だけどね、今週末帰ってくるって連絡あったわ」
 「え」
 振り向くと、ソファーの向こう側で体を仰け反らせた母と目が合う。間抜けな返答と共に、今しがた皺を伸ばしたばかりのタオルが手をすり抜けて足元を湿らせた。だが、その不快感すらも今はどうでもいい

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連載小説・「アキラの呪い」(3)

連載小説・「アキラの呪い」(3)

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 姉をそのカフェで見つけたのは、誓って言うが偶然だった。そもそも大学近くのそのカフェに足を運ぶことすら久々だったのだ。普段行きつけのカフェはまた別にあったわけで。
 ていうか、なんでこんな言い訳じみたことを俺が言わなきゃならないんだ。むしろ俺は晶を救ったのだから礼を言われて然るべきだろう。…いや。あり得ない想像をしてしまった。あの件に関して怒り狂って俺の首を絞めることは

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連続小説・「アキラの呪い」(2)

連続小説・「アキラの呪い」(2)

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 8月の夕方は日暮れとは言ってもまだまだ蒸し暑い。うんざりするような暑さだが、俺は夏が一番好きだった。全てのものが色を取り戻し、生き生きと輝きを増して見える。そういえば晶は夏を忌み嫌っていたな、と歩みを緩め、傾き始めた太陽を見やって思う。曰く、全てが鬱陶しいらしい。自分が流す汗も、照りつける太陽も、むせ返るような色彩も。ならばどの季節が好ましいのかといえば、答えは簡潔で

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