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子宮の詩が聴こえない【最終・第三章】

ネットに蔓延るスピリチュアルの恐怖を描くフィクション。出版社に勤める黒田誠二は、育児に悩む妻まさみと不穏な日々を過ごしていた。ネットで見つけてきた怪しい人気ブロガーに急速に心酔した妻、なんとか思い留まらせたい夫。取材によって追い詰められたカルト集団の末路は。小説最終章

子宮の詩が聴こえない3-①

(第1章を読む)(第2章を読む) ■| 第3章 謀略の収束 ①「狂乱」 静かに波音が聞こえるような港近くの広場。 夕暮れの静寂を、この日は大観衆のざわめきと大音響が忘れさせた。 ついに弥生祭が開幕する。 島外からのおよそ1000人が集い、その視線はステージ上だけに注がれていた。 大スクリーンに、空撮した華襟島が映し出される。 続けて『女神伝説』を思わせる壮大なオープニング映像。鳴り響くBGM。 爆発音とともに、スモークの中から笑顔の3人が現われた。 番長あき、ラッキ

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子宮の詩が聴こえない3-②

(3-①を読む)(第1章から読む) ■| 第3章 謀略の収束 ②「身勝手」 若田ショウは焦った。 「なんだこれは……。どうして予定にないことを勝手に……」 突如、引退発表と「女神宣言」をした番長あきの心理が読めない。 ただ、観衆は違う。 スクリーンに映し出された写真は、島に伝わる女神の姿だと説明があった。 なんとそれが番長あきそっくりの顔なのだ。 言い知れぬ高揚感とともに、その説得力に完全に押されている。 番長は静かに語り続ける。 「私がここに来たのは運命でした。ず

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子宮の詩が聴こえない3-③

(3-②を読む)(第1章から読む) ■| 第3章 謀略の収束 ③「屋上の姉妹」 未久からの直撃取材を意気揚々と受けた若田。 イベント開催が島に与える効果をアピールするつもりが、早池町長との関係などを一方的にしつこく問われ続けていた。 「私もO県の生まれで、知人が華襟町役場にいます。野村さんという同級生の女性で」 「そ、そうですか。それはそれは……」 未久のトークに押され、数分も話さないうちに汗だくになっている。 「野村さんの家に泊めてもらって早池町長の話をずっと聞かせて

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子宮の詩が聴こえない3-④

(③を読む)(第1章から読む) ■| 第3章 謀略の収束 ④「父との電話」 電話口とはいえ、久しぶりに父と話す。 「待っていろ、場所を変える。ここの個室は壁が薄いから」 それを聞き、未久はおどけたような顔をまさみに向けて待った。 まさみが心配そうに見詰める。 「お父さんに連絡してどうするの……?」 すると、未久は「ふふっ」と笑った。 「別に今さらあんたのことを怒ってもらおうだなんて考えちゃいないよ。ちょっと横で聞いてなさい」 父は病室から電話ができる場所まで移動したよ

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シンデレラプロジェクト潜入記

2020年10月6、7日に幕張メッセで開催された第3回シンデレラ・プロジェクトに潜入したレポートです。

スピイベント潜入記①【2020年10月6日、7日「シンデレラ・プロジェクト」】

どうも、黒猫ドラネコ(@kurodoraneko15)です。 ネット上にはびこるスピリチュアルや自己啓発など怪しいものを観察しています。ご興味のある方は是非ツイッターのフォローを宜しくお願いします。 まず初めに。これを見てしまった信者さんへ。 私は一生懸命がんばっている人達を馬鹿にするつもりはありません。 しいて言うなら「本当にそれでいいのか」と問うために観察して考察していますので、そこだけ分かっていただいて、あなたがそれでいいのなら「これでいいのよ!」と胸を張って楽しく生

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スピイベント潜入記②【2020年10月6日、7日「シンデレラ・プロジェクト」】

(①はこちらから) ◇◇ ■「八木さや、えらい」 真下のステージで展開される素人さんのステージ。それと真横に座ってきた子宮委員長八木さやを交互にチラチラ見て時間は過ぎる。 (ステージの途中でマルシェに出向く八木さや+側近) 八木さやは、席ではちゃんと素人さんのショーに拍手。音楽に合わせて手拍子もして、明らかな自分の信者さん(私も顔が分かる龍使いの人、まあ大部分がhappy信者ともかぶっている)がステージに出たら頑張ってスマホで撮ろうとしてあげていた。遠くて撮れなかっ

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スピイベント潜入記③【2020年10月6日、7日「シンデレラ・プロジェクト」】

(②はこちらから) ◇◇ ■「ありまぁーーーす!」 ねえ、今まで見てきたじゃん? 素人さんたちのステージ。 それはもういいんだよ。こんな感じって大体は予想できてたから。 でも次のステージは度肝抜かれたね。 「協賛ステージ」 happy様による関連企業の宣伝を出す3つのステージだ。ひとつにつき15~20分ほどだろうか。 「自分がきちんと使っている宣伝したい商品。自分が心からいいですよって言いたい企業。自分の主宰で自分の会社に協賛してもらう」とhappy。 お前、もう予

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スピイベント潜入記④【2020年10月6日、7日「シンデレラ・プロジェクト」】

(③はこちらから) ◇◇ ■「そりゃずるい」 二日目。最終日だ。 雨が降っている。乗り換えを派手に間違える。色々と辛い。 予定より30分も遅れて海浜幕張に着いた。ま、前日も列が順調に動いたし、なんとかなるだろう。 うおおおお!甘かった。大行列だ。 昨日と何が違うんや。これはあかんて。 ソーシャルディスタンスもあってか、幕張メッセ入り口から数百メートルは列が伸びており、なんと隣の施設の階段下まで延々と歩かされ最後尾へ。 どうなってやがる。 開場時間になっても列が動か

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子宮の詩が聴こえない【第二章】

ネットに蔓延るスピリチュアルの恐怖を描くフィクション。出版社に勤める黒田誠二は、育児に悩む妻まさみと不穏な日々を過ごしていた。ネットで見つけてきた怪しい人気ブロガーに急速に心酔していく妻、なんとか思い留まらせたい夫。明らかになっていくカルト集団の全貌と恐るべき計画に立ち向かい、奔走した先に待つものは。小説第二章

子宮の詩が聴こえない2-①

(第1章①から読む) ■| 第2章 弥生の大祭 ①「女神伝説」 華襟島(かえりしま) O県の南西からフェリーでおよそ20分の沖にある周囲30平方キロメートルの島だ。 一年を通じて温暖で、いくつかの海水浴場がある。島の経済は主に漁業と観光業で成り立っている。 住所名で華襟町(かえりちょう)の人口はおよそ4000人。 過疎・高齢化が進み、町(島)民の7割が60歳以上である。 往来フェリーが停泊する港のほど近くに、海を望む「弥生神社」。 神社に隣接する広場には、かつてはラ

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子宮の詩が聴こえない2-②

(第1章①から) (2-①はこちら) ■| 第2章 弥生の大祭 ②「ベレー帽の町長」 新聞社近くのカフェ。 未久と2人きりで会うのは初めてで、誠二は緊張していた。 電話口では何度となく話したが、実際に会ったのはマコが生まれてからは数度しかない。 小柄だが気が強く頭の回転が速い義姉には、全て見透かされる気がする。 未久はいつもの早口。 「まさみとは電話も通じないわ。母さんは『心配ない』とは言っていたけど、やっぱり様子がおかしいのは感じるみたい」 誠二の連絡にも反応はな

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子宮の詩が聴こえない2-③

(第1章から読む) (②を読む) ■| 第2章 弥生の大祭 ③「ニアミス」 現実研究出版社は、子宮の詩を詠む会の施設とイベント開催の裏を探るために特別取材チームを組んだ。 スピリチュアリストマガジンの衣笠美代子デスクの指名で、たびマガジン編集部からは黒田誠二、新井ワタル、津田亜友美が選ばれた。 数々のスクープを物にしてきた同社・週刊リアルの特命記者数人も別行動で取材することになっている。 O県への機内でぼんやりと窓の外を眺めている誠二。 隣の席のワタルが声をかけた。

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子宮の詩が聴こえない2-④

(第1章から読む) (③を読む) ■| 第2章 弥生の大祭 ④「説得」 ワタルと亜友美とは別行動をとり、誠二はまさみのもとへと向かった。 未久と合流して3人で話し合う手はずになっている。 義実家を訪ねるのは2年ぶり。 生後半年のマコを連れ、親族へのあいさつ回りをして以来だ。 田舎でよくあるように親戚付き合いを重んじているのは分かったが、乳幼児を連れて次々と違う家を訪ねることには、疲れ果てた思い出がある。 あれだけ多くの親戚に、「まさみの様子がおかしい」という噂が広まっ

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子宮の詩が聴こえない【第一章】

ネットに蔓延るスピリチュアルの恐怖を描くフィクション。出版社に勤める黒田誠二は、育児に悩む妻まさみと不穏な日々を過ごしていた。ネットで見つけてきた怪しい人気ブロガーに急速に心酔していく妻、なんとか思い留まらせたい夫。それぞれの葛藤や信者化する家族との向き合い方、荒唐無稽にも思えるスピや自己啓発セミナーの搾取の手口などを浮き彫りにする小説

子宮の詩が聴こえない1-①

■| 第1章 詩人の勧誘 ①「黒田家の日常」 聞き耳を立てるのが癖になっていた。 長時間の勤務を終えて帰宅した誠二は、マンションの自宅ドア前でしばらく耳をすます。 「きょうも泣いてる、か……」 ため息をつきながら玄関で靴を脱ぐと、2歳半になる娘が泣き叫びながらバタバタと勢いよく駆けてきた。 「ただいまマコちゃん。ママはどうした?」 ハンカチを出して涙をぬぐってやる。イヤイヤ期の真っ盛りだが、ようやく会話になり、意思疎通ができるようになった娘の成長が嬉しい誠二は、ひざまず

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子宮の詩が聴こえない1-②

(①を読む) ■| 第1章 詩人の勧誘 ②「姉との電話」 マコを保育園へと自転車で送った後のまさみは、コーヒーを淹れ、何をするでもなくリビングのソファーに腰かける。 きょうも引き渡しには手間取った。 保育士に預けられながら「ママがいい」と泣く我が子。 以前なら「早く迎えに来るからね」と声をかけ、後ろ髪を引かれていた。 今は「うるさい子だ」としか思えなくなっている。 そしてそれが、家で一人になってから胸に響くこともある。 「……あきちゃん、今日も綺麗だな」 そう呟きな

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子宮の詩が聴こえない1-③

(①を読む) (②を読む) ■| 第1章 詩人の勧誘 ③「たびマガジン編集部」 自宅から電車を一度乗り換えて40分程。それほど通勤は苦にしていない。 誠二の勤め先は「現実研究出版」。ファッションやスポーツなどを中心に幅広いジャンルの雑誌を出している。 「きょうも顔色よくないですねー」 出社して挨拶もなく馴れ馴れしく話しかけるのは、隣の席に座る入社2年後輩の新井ワタルだ。 誠二が属しているのは月刊誌「たびマガジン」編集部。 20人弱の編集部員の中で、最も取材力に長け、仕

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子宮の詩が聴こえない1-④

(始めから読む方はこちら) (③はこちら) ■| 第1章 詩人の勧誘 ④「セミナー会場」 いつもの朝なら、誠二が焼いたトーストなどを無言で食べ、 「ありがと。いってらっしゃい」 の短いやりとりがあるだけ。そのまさみが珍しく饒舌だった。 昨日昼に見たワイドショーの話などをしている。食事をこぼしてわめくマコへのきつい当たりもない。 誠二はそのことを不自然に思うも、「機嫌がいいのは良いことだ」と軽く考えて家を出た。 スピリチュアリズムマガジンの衣笠デスクに聞いた話を振るつも

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