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水戸芸術館「ケアリング/マザーフッド展」 遠征レポート

今回の記事は、4月15日に「子育てと制作 座談会」に参加経験のある9名※で、水戸芸術館で開催中の展覧会、『ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術』に遠征したレポートです。
※大人6名 , 小5  1名 , 3歳 2名

子どもと展覧会を鑑賞するにはいくつもの高いハードルがあり、諦めている方も多いと思います。ですが今回、遠方の美術館に集団で行ってみたことで、発見や気づきが多くありました!
このレポートでは、遠征がどのように行われたのか、当日の行動表と、参加者の方の感想を記します。

○当日のスケジュール

▶︎10:30~11:30 合流・1度目の鑑賞
水戸芸術館に現地集合(アクセスは車、特急、バスなどそれぞれ)。
展示室内で緩やかに合流して、それぞれのペースで展示をまわりました。

二藤健人さんの作品を色々(親子から子とメンバーなど)なペアで体験してみました
緊張の対面。同じ目線でご挨拶….!!


▶︎12:00~13:00 それぞれの鑑賞
展示順路の真ん中あたりにある、展示室内「カフェ カドアール(高校生ウィーク2023)」にて、ゆるやかに合流。
本棚をじっくり見たり、工作や織り機などの体験に没頭したり、1人椅子でぼーっとしたり、スタッフの方とお喋りしたり、それぞれ好きな時間を過ごしました。
展示室内とは異なり、置いてあるものに触って良い・好きに声を出して良い 事で、子ども達が楽しそうに手を動かしていたのが印象的でした。自由な空間で、子どもたち同士、大人同士も少しずつ緊張をほぐしました。

フリースペースでおもむろにはじまる制作
織り機に夢中の子「一生ここに居たい」
推薦図書に子育てと制作 冊子が!

▶︎13:30~14:30 お昼ごはん
水戸芸から徒歩5分のデパートに移動し、レストランフロアでハンバーグを食べました。
(大所帯で子連れということもあり、事前に当たりをつけておくのは大事です…)
今回は9名で1つのテーブルに通してもらえて、ベビーカーを置く場所も十分あり、子連れでワイワイ出来る雰囲気がとても良かったです。
徐々に子どもも大人も打ち解けて、安心できる集団になっていったように思います。

ランチの様子 @ウェスタン牧場

▶︎14:30~15:00 お茶
水戸芸術館に戻り、一階の喫茶スペースでお茶をしました。(展示を再訪するためにケーキで子のモチベーションを上げる)

▶︎15:00~15:40 2度目の鑑賞
展示室に再入場し、それぞれが気になる作品へ。
午前の時とは異なり、なんとなくゆるやかに歩調を合わせて同じ作品を鑑賞することが多かったように感じました。
この時、3歳の子どもの映像作品の鑑賞態度に、午前の鑑賞とは大きく異なる点がありました。
1度目の鑑賞ではじっとすることが出来ずスルーしていましたが、再訪した際には、何人かで作品を鑑賞していると、みんなに混ざって椅子に座り、じっと映像作品を見つめたのです。この変化にはお母さんもとても驚いていました。

▶︎15:40~ 現地解散
それぞれが満足したところで、展示室を出て帰路につきました。
子どもが眠くなってきてぐずりそうな予感を察知し、退散するお母さんも。

○参加したみなさんの感想

小林太陽
最近は子連れで美術館に行く時は、「展示は見れたらラッキー。見れなくてもまぁ仕方ない」という心づもりで行ってます。作品だけパッと見て、図録で補完することも多いです。
展示にもよりますが、コレクション展で出てる彫刻などは子と二人で話しながら見ると楽しそうに見てくれます。今回ももう少し時間があったらちゃんと二人で見れたかなという気がします!
色々な作品が見れておもしろかったのですが、最後まで見れなかったのでリトライしたいです。(パッと見たからいいかと思ってたんですが、前から興味のあった出光さんとかユケレスの作品が出てるの知らなくて…)
あと欲を言えば、展示内で月一、できれば週一とかでもよいので託児を何らかの形でもうけて欲しかったです。美術館内で託児することにいろんな制約やら限界があるとは思うんですが、予約制で少人数限定でとかでも、有料でも!

池亜佐美
「展示を見る」ということに対して、うちは子が一歳半なので水戸への移動は到底無理かなと諦めてしまってたのですが、Aくん(3)とMくん(3)を見て、「もう少し大きくなったら連れて来れるかも」と希望が持てたことが何より大きかったです。
みなさんの制作ジャンルも違うので、なんとなくこの展示物が好きなのかなとか漏れ出る感想が結構新鮮でした。最後の絵の作品は意外とはまってるなぁとか。最初の部屋にあった足を踏む展示作品も、世代を交えて体験できたのも楽しかったです。その横にあった壁のスケッチは、妊婦さんなど体験できない人のためと書いてあったのを読みハッとしました。ケアリングの意味を実感した瞬間でした。
あと言葉がたくさん並んでた部屋、「私は思い出す」の部屋の雰囲気は、座談会の会場にすごく合いそうだと思いました。テキストが壁にあることで話題にしなくてもふと記憶をいじられる感じ。

山口真和
すごく楽しかったしなんだか癒されました。
長旅には違いなかったけど、道中は子どもの乗り物好きにも特急で応えられて、美術館では優しい大人が替わるがわる構ってくれて、工作したり美味しいものも食べて…
子どもが終始機嫌よかっただけで親としては疲労激減です!
私がふと疲れたタイミングでも誰かが子どもの好奇心をひいてくれる。これでかなり回復できるんだなと発見でした。
私も小林さんと同じく、子連れでの展示はしっかり観るということを半ば諦めているのですが、あの日はみんなとお昼を食べてから再度展示に戻った時に息子が落ち着いていて、みんなと一緒に観たい様子に驚きました。後半のマリア・ファーラの絵画の部屋や、リーゼル・ブラッシュの映像作品『ゴリラ・ミルク』など、じっくり観れて嬉しかったです。
子どもにとって安心感のある集団で観るって良いのかも…と感じました。(託児需要に対するオルタナティブな選択肢として)
あとあの休憩スペース最高でした。近所に欲しい…笑
展示のコンセプトや個々の作品を読み解きたいという欲求不満が残っているの半分、あの展示の稀有な性格を子連れだからこそ体験できたんじゃないかという満足感もあります。(みなさんのおかげ)

船木菜穂子
まず水戸という土地に馴染みがなく、見たい展示があっても子供が産まれてからは一度も行けてませんでした。食事とか、子どもが楽しめる別の用事と抱き合わせできるかとか、交通手段とか調べきれなくて、うかうかしてるうちに会期が終わってしまうことが多いです。
子供と美術館に一緒に行くことで何がしかの刺激があるといいなぁと思ってはいるものの、親のそうした気持ちが伝わるのか、娘からは面倒がられることが増え、最近はあまり考えないようにしていました。
いつもは、"お母さんの用事に付き合う"という感じのスタンスでしたが、今回はまわりの大人が話しかけてくれたからか、みんなでお茶したり、大人同士の会話を聞いたり、ちょっとお姉さんぶってみたり、ゲームをしたり、積極的に楽しんでくれたように思います。「山口さんのネイルがすごく綺麗だったね」と、帰りの電車で盛り上がってました。
特急列車も快適で「ちょっと遠くの美術館の展示に付き合う」のは悪くないなぁという記憶になったようで私も嬉しいです。美術鑑賞が嫌いにならないだけで良い。
美術館の託児については、小さい子は本当に目が離せないので保育士資格がある人に見ててほしい気持ちはありますが、ある程度の年齢になってくると、スタッフやボランティア(?)の方のような大人が近くで見守っていてくれるだけで安心でき、落ち着いて作品の鑑賞ができます。大人が気にかけてくれていると思うだけで親も子も安心できます。自分の興味も満たされた余裕のある状態の子供と鑑賞できるありがたさを感じました
また、休憩所に限らず、展示を見てたら休憩所の存在を教えて下さったボランティアの方の存在など、美術館全体の雰囲気がとてもよかったです。
けっこうな大人数の集団でしたが、適度にばらけてたのが他の鑑賞者の方や監視さんにもよかった気がします。

○最後に

山口梓沙
今回、子連れの展覧会鑑賞の難しさをはじめて理解しました。
子どものその時の状況(眠そう・超元気・ぐずついてる)の機微を察知しながら、泣かないように・展示物に触ったり壊したりしないように見張りながら、作品を鑑賞して展示を読み解くのって至難の技だな〜と。過去の座談会でエピソードとしては聞いていたものの、間近で見てやっとわかる、言葉にならない難しさがありました。
「子育てと制作」の当事者ではない自分にとって、話を聞いたり想像するだけでは分からない難しさを知れた事が、良い体験となりました。


黑田菜月
なぜか遠征日だけが降水確率90%の雨☔️マークで、お昼ご飯のピクニック計画は断念し、当日の朝から「こんな日に設定してすみません」という気持ちでいっぱいでした。でも最終的には非常に穏やかな気持ちで水戸を後にすることができ、このふんわりした心地よさについて振り返りをしたいなと思い、レポートを作成しました。

皆さんからいただいた感想から伝わる通り、今回の遠征は「集団で見る」ということの面白さを発見できました。
展覧会の特徴ともすごく合っていたのですが、順番を意識しなくて良いこと、ダイナミックに体験できる作品、同じ空間にいながら個々が好きなことをできる/選べる休憩所などをとてもうまく利用できたように思います。
また、個人的には一人で見る鑑賞体験とは全く異なる経験ができたことも印象的でした。
例えば、美術館に「再訪する」ことは、自分一人の鑑賞ペースではなかなか無いことだなと思いました。館内をうろうろする時間長さや、他の人が映像にのめり込むことに合わせて自分も集中できるようなことなど。

その場で感想を伝えあったり、最近の自分の出来事を共有することは難しかったですが、目の前で変化していく子どもたちに対応していく私たちの言動には一体感のあるコミュニケーションを感じました。
特に私が思い出してニコニコする場面は、お昼ごはんの時、苦手なブロッコリーを食べれた子に向けて池さんが「ブロッコリーを食べれたおめでとうの歌(仮)(正式名に採用されました)」を即興で歌い出した時のことです。Mくんが満面の笑みを浮かべてくれるので、気づいたらみんなで合唱していました。
あの時の一体感といったら…🥦

個人が抱えている困難を「集団でチャレンジする」ことの可能性を感じることができた時間でした。
今後も緩やかに色々な機会を作っていけたらと思っています。
お疲れ様でした!


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