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2020年3月株主総会開催のスキルマトリックス公表企業

以下の投稿でも述べていますが、スキルマトリックスの公表及びその内容の向上について日本企業に期待しています。

社外や女性といった外形的な基準だけでは必ずしも取締役会の多様性を促進するには不十分で、それぞれの取締役の持つ素養・経験がバランスよく取締役会の議論に活かされるべきと考えているためです。昨年もこの時期にスキルマトリックス公表企業を取り上げました。

以下では2020年3月に株主総会を開催した企業で、その招集通知にスキルマトリックスを掲載した企業を取り上げます。日本を代表する企業にもスキルマトリックス公表の慣行が浸透してきたのが今年の特徴です。

1.キリンホールディングス

大手ビールメーカーのキリンホールディングスは今年からスキルマトリックスの公表を始めました。大きな特徴は2点です。

1点は取締役に要求するスキルに「ESG・サステナビリティ」を含んでいる点です。確かに個々の取締役候補について「ESG・サステナビリティ」のスキルありと判断した理由の開示については改善の余地があります。しかし「経営経験」や「財務・会計」といった一般的なスキルだけではなく「ESG・サステナビリティ」を含めたことで同社のESG活動や中期経営計画との一貫性を明示したことは他の会社にない特徴です。

もう1点は執行役員候補についてもスキルマトリックスを公表した点です。これも他に例のない特徴ですが、執行役員候補のみのスキルマトリックスでは「財務・会計」のスキルを持つ役員がいないように見えます。もちろん取締役候補の中に取締役と執行役員を兼務する人物がいるため、実際には問題ないのでしょうが、開示には工夫の余地がありそうです。

2.資生堂

化粧品大手の資生堂も今年からスキルマトリックスの公表を始めました。大きな特徴は2点です。

1点は取締役・監査役を対象に保有スキルを最大3つに限定して開示している点です。この取組はスキルマトリックスの特徴を最大限活かしており、効果的です。スキルマトリックスは本来取締役会・監査役会(監査委員会)が異なる得意分野を持った人物で構成されていることを示すツールです。特定の人物が企業が要求するスキルの全てを保有している、すなわちゼネラリストを浮き彫りにするためのものではないのです。むしろ企業が要求するスキルの一部について他の追随を許さないほどの専門性を持っている、すなわちスペシャリストがどれだけ集っているかを示すためのものなのです。

もう1点はESGを要求するスキルに取り上げた上で、取締役候補者8名のうち、過半数の5名がそのスキルを持っているということです。同社のESG活動の推進姿勢が現れているようにも見えますが、個々の候補者のプロフィールを見ると、特にG、コーポレートガバナンスについての強みが強調されています。環境・社会面の実績を持つ候補者も今後採用を検討すべきでしょう。

3.電通グループ・クボタ

電通グループ、クボタの2社も今年からスキルマトリックスを公表しています。

労務管理や品質管理でそれぞれ不祥事が発覚した両社ですが、それに応じた要求スキルや候補者の選任理由等で特筆すべき点は見当たりませんでした。電通グループの候補者12名中3名が、「組織・人材」の副スキルを保有していると開示されていますが、それぞれの強みは別にあるということになります。クボタは「品質管理」を取締役のスキルとして要求していません。また類似するスキルで「法務・リスク管理」というものがあり、取締役候補9名中、2名がスキルを保有するとなっていますが、その内の1名は製造部門の出身者です。

4.ヤマハ発動機

ヤマハ発動機は今年で3年連続スキルマトリックスを公表しています。

取締役候補も新任が1名で、要求スキルにも大きな変更はありませんが、今年は「人事・労務・人材開発」スキルを保有する取締役候補が急増しており、特に候補者のプロフィールにも説明がありません。担当者の説明を聞いてみたいと思います。

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