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有限である事の価値

 父を乗せた車。隣でうたた寝する父。急に起きたかと思うと流れてた「どんなときも」を口づさむ。家族と新幹線の駅で別れたあとのホーム。流れゆく田舎の景色を見ながらふと、不意に瞳から想いがこぼれ落ちそうになる。それをグッと堪えてその瞬間を味わう。こんなに日本が恋しくなるのは初めてだ。1年目、2年目は日本に帰りたいなんて一度も思わなかった。日本に帰って来ても、スペインの温かさが、ハグが、仲間がどこか恋しかった。どこかでスペインを恋しく想っていた。今年スペインに渡れば4年目となる今、まだここを離れたくないと強く想う。

 私がスペイン行きを決めたのは、日本でサッカーを続けることにメンタル的な限界を感じていたからでもある。いつも近くにあるもの(人)のいい所は見えづらくなり、悪いところに目が行く。たくさんあるはずのいいところは当たり前になり感謝ができなくなる。日本食が感動的に美味しいこと、テレビをつければ面白い番組がやってること、トイレが綺麗なこと(海外のトイレは座れないほどに汚い)、日本の細やかさや事務処理などの正確さやマナーの良さ。当たり前に言葉が通じて、考えずに想いを外に出せること。家族がいること。自分を想ってくれる人の存在。それらが当たり前になる。気の知れた友達と語り合うこと、応援してくれてる人がいるということ、何不自由なくサッカーできること、会いたい時に会いたい人に会えること。大切な人たちが元気でいること。当たり前になっている時には気づかない。

 日本が嫌いになってスペインへ旅立った。そして文化の違いを受け入れ、スペインの魅力に魅了された。ストレートで陽気、愛情表現の豊かさ。人と人との距離感の近さ。人生を楽しむその姿勢。言葉がわからないのは厄介で、その中でたくさんの優しさに触れた。スペインが大好きになった。やがて、スペインが自分の中で日常に変わった。日常は当たり前だ。嫌なところだって見えてくる。いいところしかないものなんてどこにもない。

 スペインで3年を過ごして、スペインでもいいことも悪いことも経験した。スペインの魅力と好きになれないところに気づくと、日本の素晴らしさやいいところを改めて感じる。離れたからこそ気づけて、もっと大切に思えるようになった。ここには私の大切な人たちが暮らしている。そして今自信をもって言える「日本が大好きだ」と。

 有限だからこそ価値がある。家族や友達と過ごす時間、現役でいれる今、今できていることが歳を取ってもできるとは限らない。だからこそ大切にしたい。今という瞬間を。簡単そうに見えて難しい、そして見失いやすい。忘れて、思い出して、でもいい。完璧になんてできないから、自分なりのやり方で。

 今年チームを更新して同じチームでは3シーズン目を迎えることになる。尊敬できる大好きな仲間があの地で待っている。同じチームでも人の入れ替わりはあって、この3年で別れた仲間もたくさんいる。彼女たちとサッカーできる時間もまた有限だ。そして30を迎えた今、サッカーと全力で向き合える時間が有限であることもよりリアルに感じている。

 泣いて、笑って、全力で喜んで悔しがって、転んでもまた立ち上がって。最高と最悪どっちもあっていい。どっちもあったほうがいい。そのほうが当たり前なんかじゃない大切なものを感じることができるから。その方が生きていると実感できるから。結果と夢。それを追い求めながらも、その過程である一瞬一瞬の「今」を自分らしく生きていたい。結果よりも「自分がどうあったか」を大切にしたい。そんな「めっちゃ人間した!」っていう1年を送ろう。

 飛行機を降りるとスペインの匂いがした。3年前スペインに降り立った時とはまた違ったわくわくに不安の匂いはかき消された。またみんなに会える。家族、友達、昔の仲間、また新たに出会ったたくさんの応援してくれる人たち。たくさんの愛と勇気をくれて背中を押してくれたみなさんへ、心からありがとう。行ってきます!Hasta pronto!!!👋🏽🇯🇵


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