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【パルクール体育】授業実践編③<マット運動単元(前編)>

こんにちは。
前回は、年度初めのパルクール単元について書きました。

年度始めのパルクールが終わったら、次は各器械運動を年間を通して行っていきます。
「年間を通して」というのは、各単元の間に、ボール系や水泳などの他の領域が入るという意味です。
では、実際のマット運動単元についてお話しします。
(※書いてみたら長かったので、前後編に分けて投稿します。)


1.単元計画

年度始めのパルクール単元を経て、子どもたちは「新しいことを考えてやってもいいんだ」という意識が少し芽生え始めている状態です。その上で、このマット運動は、ガッツリと「クリエイト」します。ただ、学習指導要領にある「基本的な技」にもしっかり触れるように舵取りしていくことも外しません。単元計画は以下の通りです。(本単元は、奈良女子大学附属小学校の実践を参考にアレンジを加えて実践しております。)

単元計画の例(「回転」は2時間やってもいいと思います。)

2.授業の実際

1時間目:場作り、基礎感覚づくりの運動

まず始めに行うのは場作りと基礎感覚づくりの運動です。ここでも、マットを運ぶ約束や安全の約束を確認します。最低限の規律は、時間的効率や目的を楽しむために必要ですので、毎単元の始めに徹底します。
場作りを終えたら基礎感覚づくりの運動をします。私が基本的に行っている運動は以下のものです。

•ゆりかご
•背支持倒立(アンテナ、タワー)
•大きなゆりかご
•ブリッジ
•カエルの足うち
•小さく速い前転(タイヤ前転)
•大きな前転(バランスボール前転)
•後ろまわり(ななめでもOK)

とまあ、一般的なものですね。これらの運動のポイントを押さえながら、様々な感覚を刺激していきます。ポイントは、「動きをできるようにさせる」という意識ではなく、「感覚を刺激する」という意識で行うことです。「あ~、今あの感覚が刺激されてるな~」という見方で子どもの動きを見ると、「あの子はフラフラだけどしっかり感覚刺激されてるな」とか「動きはきれいに見えるけど、これじゃ感覚刺激が弱いな」とか、動きの精度よりも重要なことが見えてきます。
(私の場合はこの前にマットがないところで「折り返しの運動」も行っていますが、タイムマネジメントがかなり厳しくなるので、無理に行わなくても良いと思います。)

2時間目:マット一つで何ができる?

2時間目、場作りと感覚づくりの運動を終えたら、めあての確認です。
本時のめあては「マット一つでできるいろいろな動きを見つけよう」としました。
子どもたちの頭の上には「?」がたくさん浮かんでいるのが見えます。もうしめたものです。子どもに「?」を作らせたということは思考のベクトルがそこに向かっているということだからです。
運動に入る前にキーワードを確認します。それが「動く」「回る」「止まる」です。最初に、このキーワードを聞いて動きを思いついた児童にいくつか動きをやってもらいます。すると、前転したり、ブリッジをしたり、中には側転を見せてくれる子もいました。そうすると、見ている児童に「こうしたらよさそう」という見通しができてきます。このように「引き出しを少し開けてあげる」ような手だてを講じていくことがポイントです。
やることの共通理解ができたら、ペアごとの場所で運動に入ります。3つのキーワードを意識しながら動き見つけをしていくと、まず初めに子どもたちは経験のある動きをします。前転や後転、ブリッジなどです。子どもたちの動きを見ながら「なるほど~、前回りか!あれ!?こっちはブリッジね!」など、全体に聞こえる声で引き出したい動きを教師が見つけていくことで、他の子どもたちもそれを真似していくようになります。さっき見たはずの動きも、教師がその場で発見したかのように声掛けしていきます。子どもは「教師にに見つけてもらうこと」がうれしいからです。「さっきやったやつね」なんて言われるよりうれしいですよね?だって、子どもはいつも一生懸命やっているのですから。
こうやって、次時以降で扱いたい動きをある程度引き出していくと、その中に、片足を上げたり、手や足を開いたりして、動きをアレンジする児童が出てきます。今年度は、体操を習っている子がいたので、開脚前転や伸膝前転なども見られました。このように、基本の技からちょっとアレンジした動きも、教師の声で全体に広げていきます。
授業の最後には、今日出た動きを子どもたちに発言してもらいながら、次時以降の課題に繋がるように整理していきます。単元計画で言うところの「ブリッジ」「バランス」「回転」に仲間分けしていくんです。もちろん、この3つの名前は最初に出しません。子どもから技を発言させて、板書でなんとなく仲間わけしていき、最後に「あれ?これとこれは、似ている動きだから○○って名前にまとめてよさそうだね」としていきます。そうです。ここが大事で、こういった単元のコツとして「子どもには自由に自分たちで進めているような気持ちにさせながら、教師のねらいを外さない」ことが重要になります。「なんでもあり」ではない、ですし、「教師の言うとおりに動かせる」わけでもないということです。子どもの自己決定の機会は保障しながら、体育としても、汎用的なスキルとしても、教師がねらいたいことは外さないように進めていく。その中で、授業のまとめの場面で、大きく広がったものを上手に収束させていくことがとっても大事になります。

3時間目:ブリッジをアレンジして動きづくり

3時間目は「ブリッジをアレンジした動きづくり」の時間にしました。なぜブリッジを最初にしたのか。それは、動きのあるものより、止まるものの方が、自身も他者も見てわかりやすいからです。そして、「片手(片足)を上げる」や、「頭をつける」など、アレンジが簡単であることも最初に行う理由です。
さて、準備や感覚づくりの運動を終えて個別の運動に入ると、前時のアレンジの経験を受けて子どもたちは早速いろいろなアレンジを始めます。その一つ一つを「お~!片手を上げるんだね!」「すごい!頭をつけるんだ!」などと、全体に聞こえる声で子どもたちの動きを認めていきます。中には、倒立ブリッジをしはじめたり、ブリッジから足を蹴り上げて戻ろうとするような動きもありました。こうやって動きを見つけて認めていく中で、学習指導要領にある「基本の技」と言われるもの(いわゆる「例示されている技」)に向かっていくように舵取りをしていきます。時には、全体をとめて、みんなでその動きに挑戦する時間を設けてもよいでしょう。(ただし、補助倒立ブリッジのように、危険が伴う技については、それを全体で取り上げるべきか、クラスの実態をよく捉えて行ってください。)
また、教師の声を聞いた子どもたちの中には真似しはじめるだけでなく、アレンジを加えていく子もいます。ここでのアレンジは、だいたいが「組み合わせ」です。例えば「片手上げ+片足上げ」「頭つけ+片足上げ」など。さっき教師が見つけて広げた動きを組み合わせて新しい動きを作っていくわけです。ここがとっても大事で、「オリジナルを創る」ときは「組み合わせ」をたくさん経験させます。「オリジナルを創ろう」というと、全く違うものを創らないといけないと思いがちで子どもたちもなかなか進まない状況が生まれやすいもの。だからこそ、こういった単元で「組み合わせ」をたくさん経験させることで、オリジナルを創ることのハードルを下げていくのです。これは他教科にも繋がる汎用的な知識だと思います。
さまざまな組み合わせでいろいろな動きを生んだら、それに自分で名前をつけていきます。授業の終末では、それぞれがつけた技名と動きを発表させていきます。こうすることで、自分が見つけた動きに「誇り」のようなものが生まれていくわけです。

3.ここまでで見えてくるもの

さて、この3時間で見えてくるものがあります。それは「児童の発見(したような気持ち)で教師のねらいを達成していく」ということが大切だということです。これは他の教科も同様ですよね。所謂「教え込み」にならないようにするということです。そのためには「自己決定」が必要不可欠。しかしながら「何でもあり」でもない。児童自身は「自分で決めて自分で見つけて自分で進めている」気持ちでいながら、教師のねらいから外れないようにしていくところが、教師の腕の見せ所です。

では、そのために教師にとって大切なのは何かというと
①子どもをどう見取るか。
②どのタイミングで何を言うか。

ですね。
こればかりは「絶対解」はありません。
その場の空気に応じた最適解を選んでいく。
その、糸を一つ一つ紡いでいくような作業こそ、教師として大切にすべきことだと私は思います。

では、後半はまた後日…

<参考文献>
阪本 一英(2023).『奈良女の体育』.東洋館出版社

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