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内側前頭前野についての論文まとめ①

1. 「認知行動療法(CBT)」


・うつ病に対する認知行動療法(CBT)前後の比較では、内側前頭前野(MPFC)および前帯状回(ACC)が自己に対するネガティブな関連付けにおいて活動の変化がみられることが報告されている。
・ポジティブ語およびネガティブ語に対する自己関連付け課題を行った研究では、CBTがMPFC-ACC間の機能的結合性を低下させた。この結合が抑うつ症状に影響することも示唆された。

2. 「幸福感とドーパミン」


・幸福感が高い人は急性ストレスが負荷されても交換神経系の過剰な活性化が抑えられ身体に負荷があまりかからないことや、精神身体疾患の発病率が低いことなどが報告されている。
・主な過剰ストレスの影響↓
①末梢自律神経系の機能異常による消化管機能低下
②炎症性サイトカインによる抑うつ状態
・ポジティブ感情を喚起させる映像として、好意を持っている異性の映像を用いた実験
 低幸福群と比較して高幸福群ではポジティブ映像注視後のポジティブ感情の変化が有意に高かった。
・高幸福群の方が賦活していた脳部位
①内側前頭前野(MPFC)
②線条体(Putamen)
③島皮質(Insula)
④補足運動野(SMA)
 内側前頭前野や線条体はドーパミン神経終末が存在する脳部位であり、ポジティブ感情と非常に密接な関連があるとされる。
 高幸福群は低幸福群に比べて脳内ドーパミン神経の活動が活発であることが示唆される。
 脳内ドーパミン神経は末梢免疫系に影響を及ぼすことから、幸福感と精神身体疾患の発病率との関連にはドーパミン神経が関わっている可能性が示唆される。

3. 「海馬と密接な神経連絡をもつ内側前頭前野(mPFC)損傷が,記憶負荷の異なる条件下で物体再認記憶に及ぼす影響について検討した実験」


 記憶負荷の程度に関わらずmPFCは物体再認記憶に関与しないことが示唆された。
 mPFCは海馬とは異なり,記憶負荷に関わらず物体再認記憶に重要でないことが示唆された。


4. 「美しいと評された絵画とニュートラルと評された絵画を見ているときの脳活動の比較実験」


・美しいと評された絵画に対する特有の活動
①前部帯状皮質の吻側部が美しさの程度が強くなった時に反応がみられていた。この部位は感情処理に重要であるとされる。
②側坐核、内側前頭前野は快感情に反応することが報告されている。
③側坐核・黒質・眼窩前頭皮質は報酬系を構成する脳領域であり、美しさは視覚的な快さをもたらし、報酬として働いていることが示唆される。

5. 「痛みの脳内機構」


・慢性腰痛群
体幹運動における体性感覚における認知機能が低下している。
⇒運動中は内側前頭前野(自己意識)、頭頂連合野(感覚認知)に有意な活動がみられる。
・痛みに伴う脳領域
①体性感覚野(感覚)
②前帯状回(葛藤)
③島皮質
④頭頂連合野(ボディーイメージ、感覚認知、統合)
⑤補足運動野(運動プログラミング、イメージ?)
⑥内側前頭前野(自己意識、心の理論)
・内側前頭前野mPFCと前帯状回ACC
ACCやmPFCの活動は主観的な痛みの意識と関連性が認められている。
他者が痛みを感じている場面を観察することだけでも活動する。

6. 「過去の呼吸経験により形成された予測情報が後の呼吸困難感に及ぼす影響について」


 呼吸困難感時には前頭前野が活動し,呼吸困難感と前頭前野の活動には正の相関が認められている(Higashimoto,2011)。
 弱い呼吸困難感を予測した際に実際の呼吸抵抗器の負荷が強い条件で自覚症状ならびに右内側前頭前野のoxyHb値に有意な増加を認めた。
・呼吸経験の情報は,島皮質や帯状回を経て前頭前野に投射される(Leupoldt,2005)
・右内側前頭前野は不快刺激に関係する(岡本,2008)。
⇒過去の呼吸困難感により形成された予測情報より強い呼吸困難感が,不快な情動を喚起させ右内側前頭前野を活動させたことが示唆された。
⇒予測した呼吸困難感よりも強い負荷量は不快な情動を喚起させ,実際の負荷以上に呼吸困難感を助長させることが示唆された。
⇒臨床では対象者の予測情報よりも強い負荷を与えるのではなく,段階的な負荷に基づき予測情報を構築する必要があることを示唆された。

7. 「言語と表情に矛盾が生じた時の他者信頼度ならびに脳活動変化について」


信頼関係には非言語コミュニケーションが重要と報告されている(Scharlemann2001)。
 一方,表情と言語に矛盾が生じた場合,信頼を失うことが報告されている(大薗2010)。
<考察>
①言語と表情に矛盾がある場合,頭頂葉の有意な活動がみられた。
 ⇒頭頂葉が感覚情報の不一致に対して働く
 ⇒メンタライジング機能に関与する
 →上記の報告から言語と表情の不一致情報に対する活動,他者の心を読み取るネットワークとして働いた結果と考えられた。
②左内側前頭前野は負に思考すると賦活するとの見解から,[負の言語×笑いの表情]における不快感を示す脳活動が生じたと考える。

8. 「運動技術習得に伴う前頭前野の脳血流変化を検証」


課題を2分間試行させ、最高連続回数を記録した(測定1)。
その後、30分間練習させ、再び2分間での最高連続回数を測定した(測定2)。
<結果・考察>
①右側背外側前頭前野:測定1に比較して測定2で有意に低値を示した。
②最高連続回数が顕著に増加した被験者:測定2の右側背外側前頭前野と内側前頭前野との血流変化が、顕著に低値を示していた。
③その他の部位には顕著な差異は認められなかった。
→以上のことから、運動技術の習得、すなわち運動技術の定着や自動化に伴って、背外側前頭前野や内側前頭前野のような作業記憶に関連する部位の血流が減少することが示された。

9.「心の理論の脳内表現」


①ACC、MPFC、OFC、側頭・頭頂領域などとのネットワークが自己や他者の認識や社会意識と関わる。
②TOM(心の理論)と関わる領域
・MPFC
・OFC
・側頭極
・側頭頭頂接合領域TPJ
※TOMは上記領域と関わり、自己・他者認識、他者の意図的行為の認識、目標志向性をもたらすモチベーションや報酬期待の脳内メカニズムともかかわっている。
③MPFCの内側の傍帯状回は下記の機能を有していると報告している。(Amodio and Frith(2006))
Ⅰ:TOMなどのメンタライジング機能による自己・他者の認識や社会の認知
Ⅱ:報酬系と結ばれた認知
Ⅲ:行為のモニター
④MPFC(特に内背側)とACCは情報の処理や実行系に関わるワーキングメモリの働きと関係する。

10. 「下顎の偏位が脳機能応答に及ぼす影響」


・下顎偏位がストレス反応を介して, 不快や痛みのネットワークを賦活させることはこれまで報告されている。
 Tapping運動とClenching 運動を行い、Clenching 運動の下顎偏位条件では腹内側前頭前野と扁桃体に賦活が認められた。
 この結果より,下顎の水平的偏位は偏位方向や運動の種類によらず不快を引き起こし, とりわけClenching運動(食いしばり)においてより強い不快応答を伴うと推測される。


【参考文献】

1. うつ病に対する認知行動療法による内側前頭前野—前帯状回間の機能的結合性の変化について―吉村ら
2. 主観的幸福感とポジティブ感情喚起時の脳活動との関連―松永ら
3. ラットの自発的物体再認記憶に及ぼす内側前頭前野損傷の効果―椙田ら
4. 絵画の美的評価に関わる神経基盤―池田ら
5. 痛みの脳内機構―森岡 周
6. 過去の呼吸経験により形成された予測情報がその後の呼吸困難感に及ぼす影響-中井ら
7. 表情と言語の矛盾が信頼度および脳活動に及ぼす影響―岡本ら
8. 運動技術習得に伴う脳血流変化 お手玉を課題として―久門ら
9. 心の理論の脳内表現――ワーキングメモリからのアプローチ―― 苧阪 直行
10. 櫻庭 浩之, 小林 琢也, 下顎の偏位が脳機能応答に及ぼす影響, 岩手医科大学歯学雑誌, 2014, 39 巻, 1 号, p. 1-13,

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