【心得帖SS】「成果物」は、残せていますか?
「紗季さんは、自分が頑張ってきた証って何なのか、考えたことはありますか?」
開発担当者×営業担当者交流会のあと、●●支店営業二課の四条畷紗季は、本社商品開発部の祝園由香里と夜カフェに来ていた。
適度に落とされた照明の中、たっぷりのカフェオレと共にまったりとした時間が流れていく。
「証…か」
紗季は首を傾げた。
「由香里ちゃんが言うのは、人事評価的なものとは違うのよね」
「それもモチベーションアップにはなりますが、もっと自分の存在意義的な感じですね」
由香里はマグカップをゆっくりとテーブルに置いて話を続けた。
「それは、如何にカタチあるものを残せるか、です」
「カタチあるもの…【成果物】ね」
「はい、私たちであればムーヴメントを起こすような新商品を開発することです」
「私は…何だろう、新しいプロモーション企画や、絶対成約できる企画書とかかな」
「その企画書いいですね。私も欲しくなりました」
由香里はクスッと笑った。
「交流会の発端は、御幣島チーフと京田辺課長が一般職だったときの2人飲み会だった話は聞かれましたか?」
「ええ、出張前に本人から」
「あの2人、いまだにアイデアを思い付いたら相手に送り合っているみたいですよ」
やれやれと言った感じで由香里が手を上げる。
「共有ファイルがとんでもないことになっているようで、現在クラウドの容量拡大を検討中だとか」
「そこで削除するという選択肢はないのね」
似たもの同士のオジさん2人が、子どものように盛り上がっている姿を思い浮かべた紗季は、思わず苦笑した。
「私たちも、やってみますか?」
ニコニコ(にやにや)しながら由香里が誘ってくる。
「…遠慮しておくわ」
紗季は降参のポーズを取った。
「私は何か出さなきゃって思うと裏目に出てしまうタイプだし、何より由香里ちゃんの新商品は、ネタバレ無しで楽しみにしておきたいからね」
「開発者冥利に尽きるお言葉、感謝いたします」
恭しく頭を下げた由香里は、ここだけの話ですが…と前置きしながら顔を寄せた。
「次回の新商品、私のプランが採用されました」
「えっ、ホントに?」
「はい、ネタバレはここまでにしておきますね」
さらっと話を終わらせた由香里だったが、エース級の開発メンバーが揃った『チーム密』の中で最年少の彼女がメイン担当者となるには、並大抵の努力では済まなかったはずだ。
(これは、本当に負けてらんないな)
近くを通りがかった店員を呼んだ紗季は、追加でメニューの最上段にあったパンケーキを注文する。
「由香里ちゃんの大躍進お祝いとして、今夜はお姉さんが奢っちゃうわね」
「あ、ありがとうございます。21時を過ぎてからのパンケーキツリーは罪悪感ハンパないですね(汗)」
「まあ、甘いものは別腹だから(汗)」
別腹別腹と笑い合う2人。
しかし、紗季が注文したメニューは4人でシェアする女子会仕様だったため、この後想像を超えるボリュームのパンケーキがやって来ることを、2人はまだ知らなかった。
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