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キリスト教思想の形成者たち あとがき

本書の「あとがき」は訳者である片山寛氏が執筆しています。

日本国内にはハンス・キュンクの翻訳プロジェクトなるものが存在しており、少しづつですが、彼による著作が邦訳で読めるようになってきたのは喜ばしい限りです。以下、Amazonにて「ハンス・キュング(※または「ハンス・キュンク」、末尾に濁点なし)」でヒットした邦訳本を、リンク貼っておきます。

わたしは、上記では『キリスト教は女性をどう見てきたか』と、『中国宗教とキリスト教の対話』の2冊だけ既読です。とくに『中国宗教とキリスト教の対話』は、仏教理解や、儒教理解がとても明晰であり誤っておらず、こういった素地をもとに諸宗教対話は行われるのだな…と圧巻でした。

つづいての2冊は、比較的、最近に訳出されたものです。新刊書店で見かけた方も多いかと思います。以下、リンクを貼っておきます。

ハンス・キュンクによる『イエス』は、2024年6月5日発刊ですので、今、この「note」を書いているのが9月20日ですから、3か月前に書店に並び始めた、まだまだ「新顔」の本ですが、もしハンス・キュンクという人物に興味を持たれた方がいらっしゃったらば、この真新しいソフトカバーから始めてみるのは、如何だろうか?

ハンス・キュングの悲しい知らせが飛び込んできたのは、忘れもしない、2021年4月6日のことでありました。

これをして、わたしたちは、彼の地上における諸活動を振り返るという活動だけが残されておりますが、その人生の遍歴は、決して平坦なものではありませんでした。

本書の「訳者 あとがき」においても、片山氏は、その点に触れております。では、その「あとがき」から引用をはじめたいと思います。

西欧のキリスト教の2,000年の教理史から、代表的な7人の神学者を選び、彼らの生涯と思想を述べることによって、この2,000の持つ意味を浮かび上がらせること、そしてさらにそれを、将来のキリスト教と世界を考えてゆくことにつなげてゆくこと。それが本書の著者、ハンス・キュンクが意図した執筆目的だと思われます。

『キリスト教思想の形成者たち』訳者あとがき より

この「あとがき」を読むことによって、これから本文に入ろうとする「わたし」は、身が引き締まる思いが致しました。キリスト教思想史の時代的変遷、そのタイムスパンは、2,000年なのだと…その「長さ」に、自身の寿命、せいぜい100年に満たない年数を重ね合わせると、おのれの「微弱さ」にタジタジとした気持ちになりますが…ここは腰を据えて、挑むべきところなのでしょう。
引き続き、引用を続けます...。

 キリスト教は言葉の宗教です。神の言葉を信じる宗教であり、神への信仰告白を表現するためには、人間の言葉の不完全性を知りつつも、その限界にまで言葉で述べる努力をすることを、聖なる務めだと考える宗教です。キリスト教の2,000年の歴史の中で形づくられた「神学」Theologie は、こうして膨大なものになりました。過去、何千人もの神学者たちが精魂を傾けて書いた神学書の数々を前にすると、そもそもこの7人の神学者の人選についても、ある程度意見が分かれるところだと思われます。たとえば私なら、ルターではなくカルヴァンを、バルトではなくブルトマンを選びたい、というように。またここで扱われていない個々の神学者の理解についても、その神学者を専門に学んでいる研究者からは、文句の出る場合があると思われます。たとえは私は、トマス・アクィナスを学んでおりますので、『対異教大全』に対するキュンクの見方については、修正が必要だと考えております。
 しかし、キュンクのこの「神学への小さな入門書」(序文参照)は、それらの瑕疵(かし)を差し引いても、著者の神学史についての見解の一貫性、現代の教会と世界に対する問題意識の広さ、さらに著者自身が現代の教会と世界においてオピニオンリーダーの一人であるという臨場性において、抜きん出た迫力を持つものとなっております。神学の2,000年の歴史が現にこのとおりのものだったかについては、わたしは断言するつもりはありませんが、少なくともこの本は、わたしたちが著者と対話しながら、キリスト教神学とその歴史の不思議な森の中に入ってゆくための、ぜひ必要なガイドブックであると思います。

『キリスト教思想の形成者たち』訳者あとがき より

ここまでにおいて、訳者である片山氏は、本書を「ぜひ必要なガイドブック」という紹介の仕方をしています。これは序文で、ハンス・キュンクが本書を「入門書」といったニュアンスと同じであると思われます。
改めて断っておきますが、次回から、いよいよ本論へと入ってゆく本書は、「ガイドブック」であり「入門書」です。それ以上を、本書に求めるのは酷というものです。ぜひ、その点を、ご留意頂ければと存じます。

さて、訳者の片山氏は、2014年に、この「訳者あとがき」を執筆しておられ、ハンス・キュンク氏が死去したのが2021年4月6日なので、そこには空白の7年間はありますが、ほぼ、キュンク氏の人生を要約したと思しき文章が「あとがき」にありますので、長文となりますが、そちらを引用させて頂いて、今回の投稿を終わりたいと思います。

2,000文字を超えております…ご一読の労を賜り恐縮です。引用を続けさせて頂きます。

 ハンス・キュンクは、1928年3月19日に、スイスのルツェルン近郊のスールゼー Sursee で生まれました。ルツェルン州は、スイスの宗教改革時においてカトリックの信仰を固守したいわゆる森林五洲の一つですが、キュンクの両親も敬虔なカトリック信者でした。ルツェルン市で高等学校(Gymnasium)を終えたあと、1948年から55年までの7年間、キュンクはローマの教皇庁立グレゴリオ大学という、カトリックの俊英が全世界から集まる大学で哲学と神学を学びます。司祭への叙階後、さらに1955年からの2年間、パリのソルボンヌ大学で研究を受け、カール・バルトの義認論の研究で博士号を取得しています。その後数年間ルツェルンで教区司祭としての実践を積んだ後に、ドイツのヴェストファーレン大学で助手となり、次いで1960年に、チュービンゲン大学のカトリック神学部の基礎神学教授として招聘されます。まだ教授資格審査も済んでいない32歳の若者が、いきなり神学部教授として任命されたのですから、多くの人が驚きました。当時のローマ教皇庁がどんなにこの若い神学者に期待していたかがうかがわれます。 
 実際、1962年から65年の第二ヴァチカン公会議においては、キュンクは教皇ヨハネ二十三世によって、直接、この公会議の顧問神学者 peritus に任命されて、他の神学者とともに。この非常に革新的だった公会議を主導しました。この頃の思い出は、第7章(カール・バルト)のなかにも書かれています。
 1967年の『教会論』、1970年の『ゆるぎなき権威?‐無謬性を問う‐』などの作品は、第二ヴァチカン公会議を主導したエキュメニカルの立場から書かれた新しい教会論です。この精神に立つならば、カトリックとプロテスタント、東方教会と西方教会、ユダヤ教・イスラーム・キリスト教の間の相互理解や対話も促進されると思われ、「開かれたカトリック教会」を強く人々に印象づけました。
 順風満帆を思わせたキュンクの生涯が暗転したのは、1979年でした。それ以前からいくつかの兆候はあったのですが、この年の12月、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の意を受けた信仰教理庁が、キュンクの著作がカトリック教会の教えを逸脱していると公布したのです。この決定をうけて、ドイツの司教団は、キュンクの教会における教師資格を剥奪します。キュンクはその結果、司祭として教会で教えることは不可能となり、チュービンゲン大学カトリック神学部からも追放されることになりました。この「現代の異端審問」は、世界の人々を驚かせました。しかもキュンクを召喚して審理のようなものは一切なく、彼の所説の具体的にどの内容が教会の教理に反するのかも、結局発表されませんでした。キュンク自身は、彼がローマ教皇の無謬説を否定したことが、保守的なバチカン官僚の逆鱗に触れたのだと主張しています。
 幸い、チュービンゲン大学はキュンクを解雇することはせず、彼は学部には所属しない「エキュメニズム研究所」の所長として、大学に残り、教授活動を継続することはできました。
 その後キュンクはチュービンゲン大学内に自ら立ち上げた財団法人「世界エトス」Welt-ethos の活動を中心にして、世界平和と宗教間・文化間対話のための様々な集会を主催し、またそれに関する書籍の執筆に力を尽くしてきました。その活動にはまことにめざましいものがありました。
 2013年7月に発表された自伝第三部の中で、キュンクは自分がパーキンソン病にかかっており、加齢黄斑変性のために遠からず失明するであろうこと、そしてこの自伝が自分の最後の書物になるであろうことを述べています。スイス人らしい頑固さとユーモアの持ち主であるという点で、キュンクは同じくスイス人出身であるカール・バルトに似ています。そのキュンクの著作にこれ以上接することができないのは残念ですが、今はただ感謝をしたいと思います。

『キリスト教思想の形成者たち』訳者あとがき より

次回から、本書の「本論」に入りたいと思います。
パウロ‐キリスト教の世界宗教への夜明け‐
これがタイトルです。
10章に分かれているので、10回に分けて、読み進めたいと思っております。

それでは、ごきげんよう、お元気で。

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