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不確かな現在、そして曖昧な記憶の断片

本は断然買う派なのですが、今は収入がないので買えずにいて、積読を消化していくか図書館に行くかして、どうにか本を読んでいます(なんだかおかしな表現だけど)。

図書館でふと手に取った一冊からパトリック・モディアノの『地平線』について。

記憶というのは随分、都合が良く、かつ曖昧なものだ。

ある時、何がしかのきっかけで不意にいつかの取るに足らない記憶の断片が、脳裏に過ぎることがある。

恋人とよく訪れた日帰り温泉のこと。
学生最後の日、友人と新宿で見た夜桜。
ブータンのカフェでガイドと取り留めのない会話をした昼下がり。
カンボジアのホテルで夜、友人とだらだらと話していたこと。

どこかに書き残しておかなければと思いながらも、不確かな現在にあって頭の中に放り投げられたままの記憶の断片たち。

そんな些細な、けれど忘れることはできない記憶の一部と不確かな現在を混在させ、時を経て曖昧さを増した記憶の断片をつなぎとめようとする男の物語だった。

「モディアノを読んでみるといい」と言った大学の教授の言葉をまたふと思い出す。
日本文学に夢中だった当時は、間に受けなかった。
外国の文学作品に心惹かれるようになったのはこの数年。

今更ながら、この主人公のようにあの言葉の断片を繋ぎ止めたくなる気持ちに襲われる。

もう、どこで何をしているか知ることも叶わないだろうけれど、教授、わたしはとてもモディアノの文学が好きです。

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