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次に伝えたい、日々の料理。

今日の「時々、コラム。」は、過去のお仕事が、ずっと自分たちを照らしてくれているという話。

先日「シマシマしまね」にいらっしゃったお客さまとの会話の中で、2009年に雲南市から発刊された冊子「ふるさと、ごはん。」の話題があがりました。

「ふるさと、ごはん。」は過去にも何度かご紹介したことがありますが、雲南市の郷土料理を掲載したレシピ冊子です。

郷土料理、とは言いつつ、「煮しめ」「しし汁」「焼き鯖寿司」といった雲南市ならではのものだけではなく、「じゃがいも団子汁」「菜の花のおひたし」といった、地元の食材で手軽に作れる普段の料理レシピも豊富に載っていて、合計28のお料理レシピが掲載されています。

島根ならではの「赤貝の煮つけ」のレシピもあります(おせち料理の定番)。

市内にある食にかかわる5つのグループの皆さんにお料理を作っていただき、専門家の方にレシピをおこしていただく、という行程で作られました。

くらしアトリエはこの冊子の中でお料理の写真撮影、コーディネート、そして冊子の製作・編集を担当しています。

撮影、編集を経て48ページの冊子を作るという業務はとてもとても大変で、いろんなつまづきや気づきがあり、市役所の職員さんやお料理の団体さんはもちろん、印刷業者の方にもいろいろなことを教えていただきました。今となってはいい思い出ですが、本当にいろんな思いが詰まった1冊です。

(ちなみに、今回のコラムのタイトル「次に伝えたい、日々の料理」というのは、この冊子の裏表紙に綴られてる言葉です。)

とはいえ、製作したのが2008年~2009年ということなので、もう14年も前の話。
その「ふるさと、ごはん。」のことを、いまだに覚えていただいているということだけでも嬉しいのに、冒頭のお客さまはめちゃくちゃ熱を込めて「とってもいいですよ、あれは!ほんとに!」とおっしゃっていただいたのでした。

「僕たち若い世代の人間が、ふるさとに伝わる料理を作りたいなと思ったときに、さっと取り出して作れるレシピがないんですよ。もちろん、ググればレシピはいくつでも出てくるかもしれないけれど、地元の、実際に作っている方たちのレシピをちゃんと文字にして、手にとれるところに置いておける、というのが大事なんですよ~」と、その方(ちなみに男性です)は語ってくださいました。

基本的な出汁の取り方も掲載されています。

そういえば、広島県安芸高田市にあった「tentenhouse」さんにうかがった際にも、「ふるさと、ごはん。」はどんなレシピ冊子よりも重宝している、さりげない日々の料理がたくさん載っていてありがたい、と言われ、嬉しくなったのを思い出しました。

確かに、おおげさなものではなく、まるでリトルプレスのような冊子にまとめることで、皆さんに気軽に料理をしてもらいたい、という思いが当時からあったのですが、実際にこちらの思いが届いている!しかも14年も経ってそのことを教えてくださる方がいらっしゃるなんて!ちゃんと言葉にして伝えてくださったことがなんだか奇跡のようで、じんわり嬉しくなったのです。

同時に、地元の郷土料理を作ろうと思い立ったときに、すぐにその参考となる本がそばにある、というのは、とてもありがたいことなんだな、ということにあらためて思いいたりました。

雲南市の郷土料理焼き鯖寿司

確かに今はなんでも検索して答えを求めようとするけれど(それもとても便利で時代に合っていると思います)、ずっとキッチンの棚にその本が置いてあって、ふとした時に手にとったり、あるいは次の世代…子どもたちや孫たちがその本に触れたり…そうやって、「おいしい味」が伝わっていく、というのも、とても素敵な記憶のリレーだと思うのです。

当時「郷土料理の本」といえば、テカッとした紙に、いかにも!という感じの写真が並ぶような(表現しにくいのだけど…昭和の本、というイメージと言えばお分かりいただけるでしょうか)ものが多かった時代に、かわいい食器(市役所の職員の方にもご協力をいただき、出西窯や湯町窯など地元のうつわも使用しました)に料理を盛り付け、ランチョンマットや箸置き、テーブルクロスなどの小物にもこだわり、印刷する紙もテカテカしてない紙のマットな風合い重視で選んで…と、細かなところまで心を配って出来上がった「ふるさと、ごはん。」。

くらしアトリエが思い描く「ずっとキッチンに置いておきたい1冊」が形になった、と言ってもいいかもしれません。

発刊された当時は雲南市の成人式で配布してくださったりして、親御さんから「いい本を贈ってもらって…」とお礼を言われたりしたこともあったなあ。

私自身も日頃から重宝している「ふるさと、ごはん。」なのですが、その中でも毎年必ずと言っていいほどめくるページが「あんこの作り方」です。

ページが汚れてしまっているのですが、それだけ活用している証、ということで…。

それまで「あんこ」は買うものであって作るものではない、と思っていたのですが、実際に調理の工程を見せてもらったら想像以上に簡単でびっくり。
調理室にふわーっと小豆の良い香りが漂い、そんな記憶もないのになぜか懐かしい気持ちになったりしたものでした。

新物の小豆で作るなら、水につけておく必要もないからね、と言われてさらにびっくり!
その年から、11月から12月になると産直市で小豆を探し、あんこを作る、というのが恒例行事になりました。

できたあんこでぜんざいを作ったり、お正月の小豆雑煮にしたり(これも郷土料理ですね)、あんパンを作ったり…。
あんこは「思ったより気軽に向き合える」と知ったことで、あんこを食べる機会も格段に増えたように思います。

ほかに私たちスタッフが日常づかいで作っているのは「じゃがいも団子汁」や「しょうがごはん」「柚子の砂糖漬け」など。

寒い季節には「かぶの粕汁」もおすすめです。温まりますよ~。

この冊子の仕事自体はずっと昔の出来事なのですが、形あるものに残っていることで、こうして人とのつながりも生まれ、ホームページを当時から見てくださった方にもお届けでき、自分たちを含め、多くの方の食卓が少し、豊かになったのでは…という自負もあります。

裏表紙に書いてある言葉のとおり、本当に「次に伝えたい、日々の料理」になってるのでは‥と嬉しくなりました。


お客さまとは制作当時の裏話…例えば、市内の食のグループの方がいつもの調子で大きな鍋にお醤油のボトルからそのまま醤油を注ごうとされたときには、レシピをおこしてくださる女性から「ダメ!計ってから!」と注意され、「緊張するわ〜」「いつもと勝手が違う…」と戸惑われていたことなどをお話しました。

主婦として、ご自身が家庭で煮しめを作るときにはいちいち調味料を計量したりしないので、「だいたいでおいしい料理ができる」ものを「レシピとして記録する」というのが、案外と大変なことなんだな…というのも、その時に知ったことです。

ご協力いただいた皆さんとは今でも親交があって、いいご縁をいただいたということにも、感謝です。

お客さまとそんな話をしたので、雲南市の担当部署である「健康づくり政策課」さんに、「ふるさと、ごはん。」って今も手に入れられるんですか?と電話で問い合わせてみたところ、直接お問い合わせいただければ、有料ですがお渡しできますよ、とのことでした。

「あの本はほんとにいろんな場面で活用させていただいてねえ…」と、市役所の職員さんにとっては過去の制作物、といった趣でしたが、それでもかわいがってくださっていたことが分かって、こちらも嬉しかったです。

興味のある方は雲南市役所・健康づくり政策課 (でんわ 0854-40-1040)までお問い合わせくださいね。

また、「ふるさと、ごはん。」のレシピのうち数点を、雲南市さんのご厚意のもと、こちらのマガジンにも掲載しています。ぜひ参考になさってください。






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