ズボラな人が、金継ぎから学んだ「うつわとの向き合い方」。
今日のコラムは、不器用な私が、なんと金継ぎに挑戦した話。
ちょうど、来週24日(木)から始まる「うつわイベント」がはじまるので、ここでは金継ぎを通して学んだ「うつわとの向き合い方」について語ろうと思います。
先月から今月にかけて、うつわの「金継ぎ」に初挑戦しました。
どこか教室とかに通ったわけではなく、金継ぎのキットを購入して自宅で、見よう見まねでの挑戦です。
元はと言えば…今から数年前の冬のこと。
とあるうつわに一目ぼれをして、2枚購入しました。
オットの分と自分の分、毎日の朝食プレートにしようと思ってほくほくしていたのですが、なんと購入して2日後に、不注意で割ってしまったのです。
数年使ったうつわとかだったら諦めもついたのですが、まだほとんど使っていないのに…お気に入りになるはずだったのに…という気持ちでどうしても捨てられず、「そうだ、金継ぎしたらいいんじゃない?」となぜか思いついたのでした。
それまでも「金継ぎ」ってなんかいいなあ、とは思っていましたし、実際に金継ぎされたうつわを目にして「素敵!」と思ったこともあったのですが、自分でやろうなんて考えたことは一度もなく、「大変そう」「めんどくさそう」とむしろ敬遠していました(コラムを読み続けてくださっている方ならもしかしたらお分かりかもしれないのですが、わたし、すごーく雑&ズボラなんです)。
ですがこのときは皿が割れたことの喪失感があまりにも大きく、「金継ぎをしてよみがえらせたい!」という気持ちが膨らんで、勢いで金継ぎキットを購入。
キットが届いて「よしやるぞ!」と思ったのですが、説明を読むと「気温が低い季節より、温かい季節のほうが金継ぎに向いている」と書いてありました。
その当時が確か2月とかで、「あ、そうなんだ…じゃあ、あったかくなってからやろうかな」とひとまずキットと割れたお皿を食器棚の奥にしまって……そう、しまいこんだまま、月日が経ってしまったのです(我ながらひどい…)。
それから数年が経ち、今年の6月のこと。
とある撮影のために隣県へ出かけていたときのことです。
お料理の盛り付け写真を撮影するために、スタッフがそれぞれの私物を持ち寄って会場へ出かけたのですが、機材や食器を準備する段階で、スタッフの私物の箸置きが割れてしまいました。
小さな十文字の白い箸置きがぱかっと割れてしまっていて、スタッフが「あー割れてしまった…」としょんぼりしていたのを見て、とっさに「あ、私が金継ぎするから!捨てないでいいから!」と言ってしまったのです。
たぶん、数年前のあのお皿が割れた瞬間の自分とスタッフを、知らずのうちに重ね合わせたのだと思います。
大切にしていたものが割れてしまったときの喪失感…いや、ここは私が金継ぎをしてよみがえらせてみせる!と、まだ一度もやったこともないのに、キットを買って放置していたのに、「私がやるから!」と言って割れた箸置きを預かりました。
「あったかい時期にやるといいらしいからね」「やるからね」と言いながら、事務所の机の隅に「割れた箸置き」と書かれたビニール袋を置いて……あっという間に3か月が経ちました(おいっ!)。
そして、しびれを切らしたスタッフから「ねえ、もう夏終わるけど…あったかい時期、終わるけど‥」と言われて、あわてて「やるから!」と答え、9月の連休にようやくようやく、重たい腰を上げて金継ぎを始めたのです。
後から聞いたら、スタッフは「どうせやらないんだろうな~」と思っていた、とのこと。さすが、20年近く一緒にいるだけあって私の行動パターンを把握しています…でも、こう見えて(?)やるといったらやる女なのです。
お気に入りのうつわをもう一度食卓に乗せたい、という思いは痛いほど分かるので、張り切って金継ぎキットを取り出し、不器用ながらもキットの説明書に沿って、割れた箇所をやすりがけするところから、ゆっくり作業をしていきました。
やはり不器用なので全然きれいに仕上がりませんでしたが、トータルで2週間くらいかけて、とりあえず箸置きは無事にくっつき、金粉を蒔いてきれいにお化粧もできました。
ほんとはもっと細く継ぎたかったのですが、まあ雑なりに「使える」ものにはなったんじゃないかなと思います。
(ちなみに、長い間放置していたキットを使おうとしたら、生漆(きうるし)がチューブの下のほうから漏れ出てしまってちょっと大変なことになりました…キットを購入したら間をあけずに作業をされることを強くおすすめします。ズボラな私より)
割れたものが元通り(ではないけれど)になる、というのは、思った以上に気持ちが華やぐものなんだな、というのが、初めての金継ぎの感想。
スタッフも「ほんとにやってくれたんだ…」と驚きつつ、喜んでくれていたみたいでホッとしました。
一方で、私のお気に入りのお皿は割れた箇所が広範囲だったこともあって、キットの中に入っていた金粉が足りず、ネットで安い価格の「金粉」を買って仕上げたのですが、やっぱり安いのには理由があったみたいで、いかにも金!派手!って感じの金色で、蒔いた瞬間「うわあ……演歌歌手みたい…」としょんぼり…。
でもまあ無事にくっついてくれたし、こういう詰めの甘さが自分らしいと言えば自分らしいので、「これはこれで良し」と自分に合格点をつけ、日々のごはんで復活、活躍しています。
けさもこのプレートに朝食を盛り付けたのですが、「演歌歌手みたいだな」と思いながらも愛着が沸いて、「手放せないうつわ」になっています。
私にとって、うつわは「日々の暮らしに楽しみを与えてくれるもの」。
自分のものさしで、自分で選び、自分で育てていくものだと思っています。
だから、自宅にある食器はどれも思い入れがありますし、ひとつひとつがいとおしい。自分に何かあっても、次の人に譲ってかわいがってもらいたいな、と思うくらいに大切なものです。欠けているものもあるけれど、なるべく長く使いたい…せっかく金継ぎという方法に出会えたので、これから少しずつ修繕していこうかな、と思っています。
くらしアトリエが毎年開催している「うつわイベント」では全国からいろんなうつわがやってくるのですが、一番大切にしているのは「その方のお気に入りを見つけていただくこと」です。
お皿1枚でも確実に生活が変わるし、暮らしが豊かに、楽しくなる…そんな経験を一人でも多くの方に体験していただきたい。
「このうつわに料理を盛り付けたいな」という、うつわとの出会いの場を提供したい。
おひとりおひとりが会場で思い浮かべる「自分のうつわへの思い」がきちんと昇華されるような品ぞろえにしたい。
それらの思いはすべて、「思い入れがあるうつわがあるだけで、本当に食卓がうきうきするものになる」という実体験から来ています。
だから、「お気に入りの一品が見つかりますように」という強い気持ちで毎年、うつわを仕入れています。
中には「去年買ったうつわ、実は割れてしまって…」とすごく悲しそうに報告してくださるお客さまもいらっしゃって、でも新しいお気に入りを見つけたいから、とまた足を運んでくださることが嬉しくて、どうかどうか、暮らしを楽しむ一助になりますように…の一心で、接客をさせていただいています。
金継ぎをしてよみがえらせることも愛情のひとつの表現ですが、新しいお気に入りを見つけていただくことも、その方の暮らしを豊かにする方法です。
あるいは、いろんなうつわを見て比べて、悩むことも。
そういう時間の過ごし方そのものを、楽しんでいただきたいから、敢えて振り幅の大きい、多種多様なうつわが揃う場にしています。
今年も、合計800点を超えるうつわが会場に集います。
皆さまにとって、「うつわとの時間」「うつわとの向き合い方」を考えられるような場になればいいなあ、と思っています。ぜひ、遊びにいらしてくださいね。
2024うつわイベントは、10月24日(木)から27日(日)まで。
会場は出雲市斐川町の「オープンスペース.美南」さんです。
なお、翌週の10月31日(木)~11月2日(土)の3日間は、離れでゆるっとオープンいたします。
うつわイベントの情報は、こちらのマガジンからどうぞ。
サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。