「しまねマグ」開発秘話…というほどのことでもないけれど。迷走した日々を経て。
今日の「時々、コラム」は、このたび販売開始したオリジナルマグカップ「しまねマグ」について、さらに深くそのエピソードを綴ってみたいと思います。
このマグカップに込めた思いについては過去にも綴っていますが、簡潔に説明すると、「シビックプライド」「島根っていいなという密やかに思ってる気持ち」を可視化し、形にすることで、それぞれがその気持ちを再確認できるんじゃないか、という思いから開発したものです。
シビックプライドを可視化するためのプロダクトデザインは、エコバッグに続いて2つめとなります。
それに加え、ザ・島根なモチーフではなく、キャラクターでもなく、あくまでも「デザインとして良い」というところにも心を配って製作したつもりです。
「みやげもの」としてだけでなく、「かわいいから買ってみようかな」と思っていただけるようなもの…それでいて、島根への誇りがしっかりと(自分たち的に)込められていること。完成形のデザインになるまで100パターン以上案を考えました。
イラストのデザインはもちろん、こだわったのはマグそのものの形です。
当初、私たちはいわゆる「オリジナルプリント専門店」での製作を考えていました。ところが、適当なお店をネットで探し、「だいたいこんな形かなあ」というカップのサンプルを取り寄せて、手にした瞬間、「…これじゃない」感を感じてしまいます。
自分たちの思い描くマグと、手にしたマグは、似ているけれど全然違った。
「だいたいこんな形」だと思っていたけど、「確かにこの形」ではなかったのです。
そこで、「やっぱりお金を出して買っていただくのだから、形そのものにもとことんこだわりたい」と考え、経費はかかっても納得のできるカップが作れるメーカーを探しました。そこで見つけたのが、今回製造をお願いした「丸朝製陶所」さんです。
丸朝製陶所さんは実にたくさんのカップを手掛けておられ、カップの形状も持ち手も、色も印刷も、多彩な中から選ぶことができます。が、いざ製作するという段階で選択肢が広がり過ぎて、「どんなのを作ったらいいんだろう…」と迷いはじめます。(普段は、制約を糧にしたものづくりを得意とするNPOなので…)。
そこで、迷ったときにはいろんな人の意見を聞いてはいけない…と思いつつ、自分たちだけでは自信が持てず、法人スタッフにLINEで呼びかけて意見を募ることにしました。
「オリジナルマグカップ、どんな形や色がいいと思う?」と聞いたところ(思えばこの聞き方がいけなかった)、
・「うちは収納スペースが少ないから、スタッキングできるのがいいなあ」
・「水玉とかがかわいいと思う!」
・「くすみカラーみたいな渋い色合いのもいいですね」
・「てかてかしてなくてぼってりした形で線が入ってるのがいい」(すごい具体的…)
・「木や真鍮のスプーンに合うようなのが好き」
・「洗うのが楽だから背の低いのがいいです」
と、まあ見事に「普通にマグカップを買うとしたら」という意見がどしどし寄せられました。
(そういえばこの時、参考資料として某青い瓶がロゴマークのコーヒーショップのマグを見せたのですが、「これ、なんで焼酎の瓶がついてるの?」と言ったスタッフがいました…し、焼酎…。)
ここで、私たち中心スタッフも「いやいや、そもそもこのマグカップはシビックプライドをさあ…」と反論したらよかったのですが、何だか勢いよく寄せられた意見に「そ、そうかも」「かわいい方がいいかなあ」とおろおろしてしまい、ただでさえ広い選択肢がさらに広がってしまう結果に。
「くすみカラーに印刷したらどうかなあ」「雑貨屋さんに置いてあってもかわいいようなものがいいんだろうか」など、当初の「シビックプライド云々」はどこかへ追いやって、ひたすらにかわいいマグを模索する日々が数日続きました。
ですが、デザインを何パターンを作りながらも、どこか腑に落ちないものを感じます。
‥そこでやっと気づくのです。
「あれ‥シビックプライドはどこいった?」
「島根っていいな」を見える化するのはどうなったんだ?
と。
いやいや違うぞ!雑貨として使いやすくかわいいカップを作るというプロジェクトではないはずだ、と我に返り、当初のビジョンどおり「アメリカンダイナー」「島根っていいな、を形にする」という芯の部分をスタッフたちと共有し、今の形におさまったのですが、他人の意見に惑わされて右往左往してしまうのは、今回だけではありません。
思えばエコバッグの時にもスタッフたちに意見を募り、見事に意見がバラバラになって「どうすんねん」みたいになったのでした…。
意見は意見としてすごく大切だし、参考になるのですが、やはり芯のところはしっかりと固定しておかないと、ブレたものが出来上がってしまいます。
危ないところでした…。
でも、こうして法人スタッフたちに意見を聞くことを、私たちはとても大切にしています。
くらしアトリエの場合、デザイナーとして実際に手を動かして作業をするスタッフは1名しかいません。
でも、アイデア出しをしたり、もっとその前の段階の「この前こういうのがあって、すごく見やすくて良かった」みたいな体験を教えてくれたり、今回のように「どれがいい?」という問いに対して返してくれたり、といったひとつひとつも、大きく言えばデザインの一部、という考え方で活動をしています。
「デザイン」という言葉がいま、とても幅広く使われているのも、このように「いろんな意味でのデザイン」があり得るから、なのでしょう。
法人スタッフの大部分は普段、まったく別の仕事をしている、いわば「一般市民」です。だからこそ、どの意見もどの声もとっても貴重です。
一般市民はマグカップを買うときに「これはシビックプライドが高まるなあ~」という基準で選びません。「地域づくりとは!」などと普段から考えてないのですから。スマートに収納できたり、洗いやすかったりするほうが、「島根愛にあふれている」ことよりずっと重要なのです。
それでも、このマグを選んでもらうためには、どんなデザインにしたら良いのか、どう発信したら良いのか。そんなことを考えるきっかけを与えてくれる、大切なディスカッションだと思っています。
また、デザイナーは「デザイン」としてものを見ている傾向にあるので、ちゃんと「マグカップ」として見る人が必要、というのもあります。
実際に家の棚にあるところを想像して、その結果として「収納しやすいカップがいい」という意見が出てくる、ということは、すごく良いことなのですよね。ありがたいなあ、と思っています。
試行錯誤の末に形が定まり、どれになっても大丈夫!という最終的なデザイン案を4つに絞り、また法人スタッフやその家族に意見を聞いて(見事にバラバラになったので、最終的には中心スタッフ2名で決めました)、サンプルが出来上がってきたのが、企画を始めてから数か月後のこと。
そこからまた修正をしたりしたので、半年くらいかけてようやく、ようやくマグカップができあがりました。
デザインで見ていただきたいところはたくさんありますが(これ、何だろう?というモチーフもたくさんあると思います)、ひとつは旅行好きなスタッフ考案による「空港コード」。
実は島根県、小さな県なのに3つも空港があるんですよ。
出雲縁結び空港、萩・石見空港、隠岐空港。
これは結構レアなことなので、マグのデザインに取り入れてみました。
飛行機で旅行に来られた方にも手に取っていただけたら嬉しいなあ…という思いも込めています。
また、スタッフのふとした思いつきから生まれたのが、マグの内側に漂う2つのイラストです。
1つの面には、日本海を進むフェリーと白波。
もう1つの面には、宍道湖に沈む夕日と嫁が島。
どちらも、水面のラインまでコーヒーを注いでいただくとちょうど良い分量に調整しています。
フェリーは、隠岐へ向かうわくわくした気持ちを。
また宍道湖の夕日は、少し切なく、でも明日への希望を携えて。
カップの内側にひそんだ島根の風景も、ぜひチェックしていただきたいです。
もはや愛着が湧きすぎて冷静に見ることができませんが、形・デザインともに納得のいくものになったと思っています。
かわいいなあ、いいなあ、と日々愛でながらコーヒーを飲んでいます…。
おかげさまでネットショップでもコンスタントにお買い求めいただいておりますが、もっと島根の方に知っていただけたらいいなあ…(自治体職員の方とか、観光関係の方とか、オフィスのカップにどうかな、思ったりするのですが…いいと思うんだけどなあ)。
というわけで、5月21日(金)・22日(土)は出雲市斐川町の「オープンスペース.美南」さんで直接の販売も行う予定にしています。
デザインのさらに細かなこだわりや、製作エピソードなど、直接お客さまとお話しできたら嬉しいなあ、と思っています。
お近くの方は良かったら、予定に入れてみてくださいね。詳しい内容や予約についてなど、来週またお知らせいたします。
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