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夏でもジャケットを脱がない中村佑介と、どこでもクロックスでやって来る武田砂鉄(文:こたにな々)

「わたしのかたち 中村佑介対談集(青土社)」を刊行した イラストレーター中村佑介 と「コンプレックス文化論(文藝春秋)」を刊行した ライター武田砂鉄 による、トークイベントに行ってきました。

-------------------------2017.08.11 青山ブックセンター


(久しぶりに中村さんに顔を見せに行こう!)みたいな軽い気持ちで、武田砂鉄さんの事は何も分からないまま会場に赴いたのですが...

◆中村さんがおなじみの女の子のような高い声で「こんにちは〜 中村佑介です〜」とほんわか自己紹介を終えると、すぐさま武田砂鉄さんが「感じが良くて感じ悪いですね」という豪速球を投げて、ひぇえええええ!!めっちゃスキ!と思いました。

◆その後、中村さんによって「いや、クロックスって!」という服装イジリ反撃をされ。Tシャツ・半パン・クロックス姿でほぼ直角の椅子に対して物理的に斜めに傾きながら「クロックスってバカにされるんですね」と自虐的に呟いたかと思うと(いやいや!TPO!TPO!と思ってる我々)「ライターってバカにされるんですか?」と急に話が核心に迫り出す砂鉄さん。

-------------------「ライターってバカにされるんですか?」

◯◯トリエンナーレ会場で武田砂鉄さんが「ライター」と名乗った際に「(著書も出されてるのに)ライターなんておっしゃらないでくださいよ〜」という先方からの妙な言葉に疑問を持った話から始まった。 ”ライター”という肩書きは果たして ”作家”という肩書きからワンランク落ちるのか?と。


◆砂鉄さんは雑誌などの紹介文で“作家”と書かれている事があると、自ら赤線を引いて”ライター”と直してもらっているそうで。その理由として砂鉄さんは、”ライター”と名乗り続ける事によって”作家”よりも大きな枠で仕事出来ると考えていて。あえて専門性を持たない事で(分からなければ ”ライター”なら現場に足を運び取材し書ける)「本棚を横断出来るようなライターになりたい」という意志があった。

◆それと、冒頭の鋭いツッコミやひねた性格からも感じるように、ライターという肩書きを軽視されればされるほどライターを名乗ってやろう。という、まさにバカにされようが、どこにでもクロックスを履いて行く男・武田砂鉄の言葉と姿はまんま繋がっていて説得力を感じた瞬間でした。


----------「海外にはイラストレーターという職業がない」

対して、”イラストレーター”という肩書きを押し出して活動をしている中村さんがひとつ挙げたのは「海外にはイラストレーターという職業がない」という話だった。海外で”イラストレーター”と言うと、どういった職業か伝わらず「新聞の挿絵を描くような仕事?」とアーティストや画家よりも低いランクの職業として伝わってしまうという事だった。


◆海外での例をお話されたけれど、中村さんは常々国内においても「“イラストレーター”という職業の一般認知度を上げたい」「画集などが専門書コーナーではなく、コミックのようにコンビニで手の届きやすい価格で置かれるような未来にしたい」と、色々な場所で話されていて。

「イラストレーターの商業としての地位を高める」事を自分の役割として、その為の仕事の選び方や活動をされている。


◆講演会や表に出る仕事時に、夏でも頑に厚手のジャケットを脱がないのは「ちゃんとした仕事ですよ」というのを皆に安心させる為のジャケットだった。漫画家=ベレー帽のように、”イラストレーター”のコスチュームとして夏でもジャケットを着てくる男・中村佑介。(しかし素材が夏用ではなくウールのような冬用な所に。ジャケット下に着ているボーダーのTシャツに。隠しきれない本質を感じる我々ファンの安心感も同時に掴んでいるので、さすがなのだった)


--------------------------「二人の作風はプログレ?」

対談集の中で「さだまさし」さんに自身の絵をプログレと評された中村さん。同じく自身の文章をプログレと感じ取っている砂鉄さんという二人の共通点。

プログレと言えば、音楽のロックの一種ですが、一般的な楽曲とは違い、1曲がアルバム1つに換算されるくらいに世界観が濃厚であったり、もの凄く長尺であったり、その中で急に曲調が変わったり、複雑な楽器演奏が突如入ってきたりする特殊な音楽ジャンルです。

◆二人の作風に当てはめるなら「決まったパターンや流れがなく、ひっかかりのフックの要素を意識的にたくさん用意している」ところがまさにプログレと言われる部分だった。

◆中村さんの絵だけで言うなら、メインモチーフの女の子が描かれている後ろで、よく目を凝らせば必ずその商品の世界観をユニークに表した細かいギミックがあちこちに張り巡らされています。

↑「わたしのかたち 中村佑介対談集」さだまさしさんとの対談ページ


-----------------------------「コンプレックスでもある」

今現在の二人の良さ・武器でもあるものは、同時にコンプレックスでもあると言うお話に。

◆砂鉄さんの口からは「空間恐怖症」の単語が出て、ハッとした。

ここでの「空間恐怖症」の意味はたぶん、昔グラフィックデザイナーの友達が言ってた余白部分が怖くて極限まで文字(グラフィック)で埋めてしまう、と同意義だと私は思ったのですが...

◆砂鉄さんの文章は読み手の頭の余白を全て捕まえるような、もう思考がギューッと詰まっていて。まるで目の前で砂鉄さんがグングン話を切り替え投げかけてくるような、こちらがうんうん考えに没頭出来てしまうような面白さがあると認識した上で、

それはつまり

砂鉄さんが笑いながら言うには「自分でも読みたくない時がある」と。

「読むのに向かない場面があると」


◆中村さんも続けて笑いながら「考える時間のある新幹線にはすごく向いてるけど、風呂では読みたくないな!」と。


----------------「持っていて良いものか、悪いものか?」

◆中村さんが今「素晴らしい」と評価されているメインモチーフ以外の背景の細かい描き込みは、デッサンで「メインモチーフ以外の全ても一生懸命描いちゃう」癖を持った中村少年が高校時代に画塾の先生にまさに怒られていた部分でした。

◆その部分が今現在良い要素に働いて評価(もちろんその部分だけじゃないけれど)されているけれど、中村さんは今後その散らばったギミックを全てひとつに集約してメインモチーフの強度を上げていかなければいけないと思っていると力強く話してくれた。


◆イラストとキャラクターの違いはあれど、対談集にも収録されている「ビックリマン」を産み出した米澤稔さんや「キティちゃん」を産み出した山口裕子さんのように、それが40代を迎えるイラストレーター中村佑介の次の10年でやる事だと。

大人になって、もう誰にも怒られなくなった中でも、中村さんは自分に決めていました。


●あとがき●

うっかり真面目な所ばっかりメモしてしまったけれど、息の合った二人のトークはラジオみたいで会場はずっと和やかにゲスく危うい事も言ってた二人に笑かされておりました。

武田砂鉄さんについては、何も知らないから始まって....そのアクの強さで、ものの数分で性格をギョッと把握してしまうこの感じは....まさに初めて見た時の「中村さんだ!!!!」と思い出し、そりゃ仲良くなるわと変に納得しました。変な人と変な人の観察力とお話はそりゃ面白いです。

いつかお二人でラジオをされる事を期待してしまう。

中村さんに久しぶりに会えてうれしかったーーー!はーーー!

最後にクロックスのリンクを貼っておきます。http://www.crocs.co.jp/

こたにな々 ライター 兵庫県出身・東京都在住 https://twitter.com/HiPlease7

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