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病院食から農家の畑に思を馳せる

ある立秋の日の病院食です。

病院食のトレー(2022年8月19日・昼)

患者さんに提供される病院食は、医師が検食することが義務付けられています。以前筆者は、毎日検食に携わっていましたが、今はピンチヒッターとして関わっています。ですから、久しぶりの検食業務でした。

トレー上は、バラエティに富んだ食材が盛られています。栄養バランスが配慮され、メインの皿にも小鉢にも野菜が盛られていて、どれもよく冷えています。病室のテーブルに運ばれる直前まで、食材別に厳重に温度管理されていたからです。

野菜からは、往く夏の畑の香りがしました。味もシャープです。巡る季節を存分に感受できるものです。

提供してくれているのは、日清医療食品です(カップヌードルの日清とはまったく別の会社です)。患者さんが支払うコストは460円ですが、会社側が受け取るのはそれよりもだいぶ低額です。そんな低コストにもかかわらず、食材は畑から病室まで、多くの関係者の手を経て、最上の状態で“バトンリレー”されて来ます。

我が心は、流通経路を逆に辿って、野菜が育った遠い畑へとズームアップしました。ゆっくり、じんわりとした、認知過程(知覚・注意・記憶・判断・言語)が呼び覚まされる、贅沢な想像の旅でした。

一方で、過日観たテレビ番組において、京都のプロ農家が育てた朝採れの最高級の食材を、客の目の前で最高の技能によって手間暇をかけて提供される「板前割烹」の世界が紹介されていました。提供される一皿・一皿は、社会的成功を成し得た美食家や食通と言われる人達を唸らせます。

そこでは、全てが可視化されることで想像が介在せず、美を求める衝動がダイレクトに料理にぶつけられ、原初的な官能が呼び覚まされます。選ばれた人のみが体験しうる恍惚の時でしょう。

・・・ふと我に返り、入院患者さんの回診へと向かいました。
リハビリテーション専門病院では、患者さんは、昼間、食事時にしか病室にいないからです。

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