見出し画像

ハイジさん・作 「もぐら」と「毛猫」と「コウモリ」

第一部

倉敷白壁通りのアートギャラリー・ビョルンに謎の物体がありました。店主で作者のハイジさんに訊いてみたら、物体は、オーブン陶土で作られているそうです。

IMG_8401のコピー

ハイジさんが最初に土を手にしたとき、靴が思い浮かんだのだとか。手の中で転がしたり、握ったりしているうちに、もぐら、っぽいなーと思いながら、土の感触を楽しんでいたのだそうです。

土から突起を絞り出して、もぐら、っぽくなりましたが、意識して仕上げたのは、最後に鋭利な道具を使って細部を刻んだ時だそうです。

IMG_8345のコピー


IMG_8363のコピー

振り返ってみると、ハイジさんは、もぐらが好きだったそうです。

造形は、オーブンでこんがりとよく焼かれて、濃い土色の焼き物になりました。

物体は、ほぼ、人の意図を離れて、土とハイジさんの手とが、対話して出来上がった造形です。多義的で、わざとらしく教育的でなく、二度と再現できない一回性・唯一性が、アートである証です。

造形には靴の面影はありますが、片方しかない、片割れの靴になります。

背中の穴を見ていたら、なんだか、古いクヌギの木の洞(うろ)のようです。中にアシナガバチが巣を造っていそうで、危険な雰囲気です。

IMG_8349のコピー

筆者にはこの物体が、脱力(リラックス)の化身に思えて、とても惹かれました。その真髄は上からは見えない、お腹の造形にありました。

IMG_8423のコピー

脱力して、たいていのことはやり過ごしながら、小さな幸運や、困難や哀しみや虚しさを抱きしめて、この生を全うしたいものです。


第2部

謎の物体がありました。

IMG_0419のコピー

正面から見ると、ハイジさんの「毛猫」でした。

IMG_0331のコピー

毛猫(けねこ)は、ハイジさんが羊毛を針で紡いで造形した労作です。

ハイジさんのモグラと並べてみると、両者は外観がまったく違うのに、不思議な親和感があります。

IMG_0442のコピー

正面から見ると、全体的な印象は、どちらも、ゆったりとリラックスして、くつろいでいるようですが、少し悲しみも湛えています。

IMG_0445のコピー

モグラは、ハイジさんの手と陶土との相互作用で生まれました。

一方で、毛猫は、ハイジさんの精神による造形物と言えます。ハイジさんは、毛猫のイメージを目の前に保ち続けながら、イメージに合わせるようにして、長い時間をかけて細い羊毛を1本1本紡ぎました。

手と陶土が相互作用した、ごつごつとした身体感を感じるモグラに対して、毛猫は優雅でさらっとした造形で、作家の身体性は、ほとんど感じられません。重量は、モグラが226gであるのに対して、毛猫は、わずか15gです。

しかし、両者を並べてみると、兄弟のように、内なる魂というべき実存感が相同で、同じ作者による造形と判ります。

毛猫は、かわいい、とか、癒やされる、といった存在ではありません。毛猫の顔をみていると、毛猫がなにを想うのか読み解けずに、眺めながら考え込んでしまい、謎が深まるばかりです。

それが、毛猫がまぎれもなく、アートである証です。

追伸

画像10

毛猫のお腹側です。見えない部分にも三毛猫の模様が丁寧に紡ぎ込まれていて、とても心憎い表現です。毛猫がハイジさんの内側から生まれたイメージを具現化した証でもあります。


第3部

筆者の、ハイジさんによる造形コレクションに、新しく「コウモリ」が加わりました。

IMG_2021のコピー

このコウモリの背面を見ると、骨格が造形されています。

画像12

ですから、作品、もぐら、のように、陶土の形に依存しているのではなくて、ハイジさんの中に最初からコウモリを作ろうという明確なイメージがあったことが解ります。

一方で、ハイジさんの指の圧痕が作品全体に残されており、造形が土とハイジさんの手との対話であったことを物語っています(とても硬い土だったそうです)。

IMG_2023のコピー

作品を手に取って、ハイジさんの指の痕を辿ると、創造者であるハイジさんの身体性が伝わってきます。

したがって、ハイジ作品「コウモリ」は、創造過程が、もぐら、と毛猫との、中間に位置する造形物と言えます。

画像14

幅広い創造プロセスを駆使するハイジ作品の、これからの展開に目が離せません!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?