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読書紹介 第9冊『馬の首風雲録』

『馬の首風雲録』 著:筒井康隆

筒井康隆がその怪腕を惜しみなく振るった珠玉の1冊。

SFであることは間違いないが、
戦争の生真面目さ、滑稽さ、残酷さが惜しみなく描かれている。

ストーリーとしては
地球から遠く離れた星雲にて発見された犬にそっくりな知的生命体
サチャ・ビ族。
人類の影響をふんだんに受け、戦争と内乱へと突入してしまう。
その戦争に人類も介入していく---。

というのが大筋のストーリーではあるが
中でも重要なのが
戦争で稼ぐ“戦争婆さん”と4人の息子達である。

彼ら4人の息子達はそれぞれの思惑で
戦争に巻き込まれていく。

彼らがどんな運命をたどるかはここでは割愛するが
ラストシーンでの戦争婆さんのセリフは印象的。

戦争に4人の息子を取られた仕返しに必ず大儲けしてやる、
と誓うのは
彼女が商魂たくましい商売人であることを説明しているだけでなく、
隠された母の愛情や寂寥が感じられる。


笑えるシーンはクスリと笑えるが
残酷なシーンではあまりの凄惨さに
読者の引きつった笑顔を引き出してくれる。

兵士の一人が敵に突撃し何十人もの敵を
“だんびら”片手に斬り殺していくシーンがある。

「てめえも死ね。お前も死ね。こいつも死ね。俺も死ね。」

まさに極限状態と呼ぶにふさわしい。
簡潔な言葉だけで、表現しきった作者には
脱帽である。


このシーンを読んだときは、本当に何故だが
変な笑いがこみあげて止まらなかった。

ブラックユーモアの辣腕家、その手を大いに振るう。
といったところか。

ところでこの本は
山本弘先生の作品である、BISビブリオバトル部にて
主人公の少女が紹介している本でもある。

もっともこの本が紹介されるのは
シリーズの2作目だが。

私は元々、こちらの作品の方を読んでおり
それで今回の『馬の首風雲録』を知った。

名作が新たな名作に出会わせてくれる、というものは
得難き幸せであることに疑いの余地がない。

ぜひ両方とも
ご一読願いたい作品。

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