追いかけても私
ウェルチをずっと飲んでいる先輩がいた。
ぶどうジュースだ。紫の、ウェルチ。
部活の日は常日頃持ち歩いていた。
春も、夏も、秋も、冬も。
そんなことを思い出して、ふと、ウェルチを買って飲んでみた。ポリフェノールを感じるぶどうの味。美味しかった。
飲んでるうちに、
先輩のことを思い出した。明るく、明るく、とにかく元気で、気さくで、でもどこか抜けていて、本当は大人しいし、人のことをよく見ていて、自分なりに考える人だった。
いい人だったなあ、
これを飲んでいたら、先輩のようになれるだろうか、なんて思った。なれるはずがないので、ただの紫色のペットボトルが溜まっていった。
コーヒーをずっと飲んでいる先輩がいた。
種類問わず。学校の自販機で先生に人気なコーヒーを、負けず劣らずに買う先輩だった。
コーヒーを飲みながら『頭が痛い』というから『コーヒー飲むからですよ』って言っても頑なに『これ飲まないとやってらんないの』という、社畜カフェイン中毒な人だった。
春も、夏も、秋も、冬も、ずっと飲んでいた。
(身体壊すから本当にほどほどにしてほしい)
やってられなくなった時、私もコーヒーを飲んでみた。苦い。頭が冴えるような苦い味。
やっぱりあまり好きでは無いが、段々好きになれそうだ。
部室の机に転がるコーヒーを見て
先輩のことを思い出した。
人懐っこい人で、人の懐に入り込むのがうまかった。明るく、ドジっぽくて、気さくで、好きなことに精一杯向かって、ありすぎて精一杯苦しんで悩んだ先輩。
精一杯に向かう姿、かっこよかったなあ
これを飲んでいたら、先輩のようになれるだろうか、なんて思った。なれるはずもなく、ただただいつの間にかに身体をおかしくした(カフェイン中毒)
ジャニーズ好きな先輩がいた。
その先輩の推しを見かける度に、先輩を思い出す。
ゆっくりマイペースで、のんびりした人だったけど、優しくて、意外と厳しくて、好きなことに無我夢中で、自分の軸をしっかり持った人だった。
アニメの好きな先輩がいた。
私も昔見ていたアニメだった。初めて身近で同じアニメを好きな人と出会った。
そのアニメを見返す度に、先輩のことを思い出す。
朗らかな落ち着いた優しい性格で、私より身長が小さくて、小柄で、可愛らしい、人のことをよく見ている癒しキャラな存在だった。
山岡家が好きな先輩がいた。
結局ご飯に連れて行って貰えなかった。
山岡家に行く度に、ご飯に連れて行って貰えなかった事を思い出し、先輩の事を思い出す。
気だるげな性格で、意外とサボり症だったが、面白い人で、好きなことには熱中し、やるべき事には真剣に取り組む、そんなに人だった。
皆、なんだかんだ言っていい人ばかりだった。
先輩方が引退した今、それがよくわかる。
果たして、自分は良い先輩になれてるだろうか、不安になる時もある。
だから、いつの間にか、無意識に先輩の影を追う。
だけど、常々理解しちまう。
先輩方の様にはなれない。
自分は自分にしかなれない。
先輩から受けた優しさを、自分の中で噛み砕き、吸収して、自分なりに出す。
全ては自分の中でリサイクル。
丈に見合った行動が必要なんだ。
自分は、よく紅茶を飲む。
私、”倉箸”がよく飲む味である。
自分らしく、生きていこう。
たまに、本当にたまに、
先輩の影を追いかけるのは、
ご愛嬌で。
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