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オーストラリア留学日記

高校1年の時にオーストラリアに留学しました。短期留学です。

私はもう既に出来上がっている家族にポンとひとり放り込まれました。
ホームステイとは本来そういうものですが、友人はふたり一緒とかいう人もいてその当時は羨ましくも感じました。

そして私のホームステイ先は学校からとんでもなく離れた場所にありました。
「私だけ……どうして……」
その時はそう思いましたが、今から考えたらとてもラッキー、当たりくじだったと思います。
だって車、電車、スクールバスと3種類も異国の地の移動手段を体験出来ましたから。

特にスクールバスは今後乗りたくても乗れないですしね。

初日に私たちは学校に集まり、説明などの色々な話を聞いたあと、各々の家族が迎えに来てくれました。私のところのホストマザーはほぼ毎日私についていてくれました。

気候的に夏の終わり、まだ残暑厳しいという時期でしたが日本は真逆で肌寒い時期でしたので上着を着て出発しました。
よく訳の分からない漢字のTシャツを来ている外国の人がいますが、私はあろうことか「bitch(ビッチ)」と書いてある上着を着ていきました。
その頃は意味なんて分からず堂々と着ていました。後から意味を知ってサーっと全身に鳥肌がたちました。

さて、そんなことも知らない私は初日はとても疲れてしまい車に乗り込んだ瞬間目を開けたまま眠ってしまいました。
なにやら意識の遠い先から「シーべーシーべー」とか何とか言う言葉がどんどんと近くなってきてハッと目が覚めたらシートベルトしろってずっと言われていました。

当時日本では後部座席のシートベルトは義務化はされていなかったためにうっかりしてました。

そんなうっかりJKは再び意識を半分飛ばしながらオーストラリアの自然豊かな街並みへ運ばれました。

家族構成はお父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹。お父さんと妹はフレンドリーでお母さんとお兄ちゃんはシャイでした。みんないい人でした。

私はグッモーニンとグッナイとサンキュー、ソーリーだけで乗り込んだためにたいしてコミュニケーションは取れませんでしたが、お父さんと妹の女の子が日本語練習中らしく日本語で話しかけてくれ、英語は上達しませんでした。

スクールバスでは運転手のおじさんに「How are you ?」と声をかけていただきました。
私は焦って「How are you ?」と返しました。

「How do you do?」と間違えました。

余談ですがこのHow do you do?はネイティブは使わないみたいですね。学校では習ったのに!
そして「How are you ?」の返しも「I'm fine, thank you. And you?」と習ったのにネイティブは使いませんね……

話は戻りバスの運転手のおじさんに「oh……」と苦笑いされそのまま苦笑いを返し気まずいままバスを降りました。

そして学校が終わるとウエルカムパーティーを開いてもらいました。
コーディネーターさんの家に向かい、プールがある広い庭でまるでハリウッド映画のようなパーティーを楽しく過ごしました。

が、事件は突然起こったのです。

そこには何匹かの大型犬がいて、可愛くて遊んでいたんですが、その中の1匹が突然豹変して追いかけてきました。しかも数ある人の中ターゲットは私。私はオーストラリアの広々とした庭でのパーティーという一生体験できないようなセレブリティな体験をしている中、犬に追いかけられ泣きながら逃げ回るという天国から地獄を味わいました。

コーディネーターさんはご高齢の方で「オーマイガー」と呟きオロオロするばかり、そこにいた誰だかわからない屈強そうな男性ふたりに犬は捕獲され無事私は無言の帰宅をせずにすんだのであります。

そして犬が大好きだった私は少しこの件で犬が怖くなりかけました。
ですがホームステイ先に大きなわんちゃんがいたんです。その子は究極構ってわんでした。撫でていると寝ます。だけど撫でるのを止めると不服そうに起きるみたいな子で、少しでもトントンと指を動かせばスヤスヤ寝ているんですがテレビを見ていて夢中になって手を止めると「むぅ」と唇を尖らせたような顔でこっちを見る子でとても可愛かったです。
この子のおかげで犬好きは継続されました。

さてご飯についてです。ご飯はあまり食べられませんでした。お昼はお母さんがいつもお弁当を持たせてくれ、夜も作ってくれましたが夏バテになってしまったこともあり全く食べられませんでした。申し訳なかったです。

毎朝「トーストかシリアルかどっちにする?」と聞かれ、夏バテだったのでするりと入るシリアルと毎回答えていたら途中から「シリアルでいい?」と聞かれるようになってしまい今更「今日はパンがいいです」なんて文法的にも日本人気質的にも言えず、シリアル漬けの日々になりました。そこから今に至るまでシリアルは食べていません。

唯一マ〇ドナルドに連れていってもらった時だけ嘘みたいに夏バテが治りがっついてごめんなさい。

平日昼間はみんなと学校へ向かい、夜は家で過ごす、そして土日は各々の家族が用意してくれた催し物に連れていってくれます。

実は私はこの日が来るのがとても苦痛でした。日本人が誰もいないからです。他の友人は友人同士近所だからと一緒に過ごしたりするみたいですが私はひとりぼっち。家族の皆さんは優しくて大好きなんですが、自分の英語の出来なさに落胆しました。

お父さんは週末の予定として
「ばびきゅ♡」と言ってきました。
お茶目なお父さんなんですよ。
「ば、ばびきゅ?」
そう返すと
「いえす! ばびきゅ!」
と自信たっぷりに言われました。
首を傾げる私にお父さんも首を傾げます。
お父さんは英和辞典を片手に「合ってるんだけどなぁ」という顔をして私にそのスペルを見せてきました。

バーベキューと書いてありました。

「バーベキュー!!」

そこで伝わり私たちはハイタッチをしました。

そのバーベキューは土曜日は日本式、日曜日はオーストラリア式のバーベキューでどちらもたくさんの日本人が集まるところでした。
私のことを考えてこういった所に連れてきてくれたんです。
とても楽しかったです。

友人の中にはホームシックになる人もいる中、私は全くそんな事はなく満喫していたことに自分自身ちょっと薄情だな、なんて思っていたんですが、高台にあるその場所から日が落ちると綺麗な夜景が視界の全面を覆い尽くしました。
その瞬間胸がキュッとなり、故郷を思い出し少しノスタルジックな気分になりました。

帰る日が近くなってきてもシャイ組のお母さんとお兄ちゃんとはそのままで距離が縮まりませんでした。

ですが、あるできごとをきっかけに私たち家族はひとつになることになりました。

夕食後、お風呂までの間、私たちはリビングでくつろいでテレビを見ています。その日もいつもと変わらない日常でした。

少し出遅れた妹の女の子が勢いよく部屋にやってきてロッキングチェアに乗りました。

ロッキングチェアはテレビとソファーの間にあり、私はソファーに座っていたので女の子は私の目の前を駆け抜けてロッキングチェアにダイブした形となります。

そしてなんと、勢いあまり彼女はそのまま椅子ごと後ろに一回転し、ドアが開いていたため、庭に放り出されました。

夕飯後の何気ない穏やかなひととき、だったはず。
沈黙が部屋中を支配する。

……

……

……

ピクリ、と動いた女の子。

「ぶはっ」

私はダメなんです、こういうの、堪えられないんです。

私が吹き出したことをきっかけに家族中が大爆笑の渦に巻き込まれました。

お兄ちゃんは大はしゃぎで「おい、カメラ! カメラ持ってこい! この無様な妹の姿を撮ってやろうぜ」と私に言ってきました。もちろん英語でなんですが、もう家族がひとつになっていてゾーンに入っていたのか私も言葉の意味がよく分かりました。

女の子は「もう!! やめてー」と恥ずかしがりながらも笑っていました。

そのことがきっかけで私たちは壁が取れた、そんな事件でした。

そこからお兄ちゃんは毎日「なにか飲む?」と私の部屋に来てくれました。私は炭酸のオレンジジュースを毎回貰いました。箱買いしているフ〇ンタのミニ缶、今でも見る度にあの時の思い出が蘇ります。

学校へはその妹とその子の親友の子と3人で通っていたので学校最後の日、みんなで写真を撮りたいと言いました。最後の記念に3人で写真が撮りたかったのです。

その子たちは「OK」と言い、そこにいた5人くらいでかたまり、こちらへピースサインをしました。

そして私がパシャリとシャッターを切りました。

いや、誰?
残りの3人誰?

そんなこんなでほとんど知らない人だけが写っているというまぁまぁいらない写真ができあがりました。

そして涙なみだの帰国の日を迎えます。
お世話になったお礼を言い、家族として迎え入れてくれたことに感謝をし空港へと向かいました。

そこでうっかりがまた発動します。
うっかりカメラを家に忘れてしまったみたいでさっき涙を流して別れたはずがお父さんが慌てて空港まで届けに来てくれました。

少し気まずかったです。

必死にお礼を言い、再び別れの時、またいつでも遊びにおいでと言っていただき、私は日本に帰国しました。

そして呑気に眠る帰りの機内、誰が想像しただろうか?
更にもうひとつの大きな忘れ物をしていたことに。

私が使わせてもらっていた部屋のクローゼットの中、私が去りからっぽのその部屋の中にただひとつ、「bitch」の上着が取り残されたままであったのに気づいたのは、これからずっとあとの話。


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