見出し画像

読書記録:マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』

この1年、争いは絶えず、終わる兆しも見いだせないまま新たな年を迎えようとしています。今年読んだ本のラインナップを見返してみると、そういう問題に対して消極的になっているかもしれないと気づき、ずっと読んでみたかったこの本に挑戦することにしました。

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)。

「1人を殺せば5人が助かる。あなたはその1人を殺すべきか?」正解のない究極の難問に挑み続ける、ハーバード大学の超人気哲学講義“JUSTICE”。経済危機から大災害にいたるまで、現代を覆う苦難の根底には、つねに「正義」をめぐる哲学の問題が潜んでいる。サンデル教授の問いに取り組むことで見えてくる、よりよい社会の姿とは?

Amazonの商品紹介ページより

正義をキーワードにして哲学を学んでいくという発想が面白く、実際の社会問題に照らしながら解説してくれるので読みやすさはあるのですが、イッキに読まなかったからか完全に理解できたとは言い難く、もう一度読む必要があるなぁと思っています。メモをとりながらのほうが良かったのかもしれません。

著者は正義について『幸福の最大化、自由の尊重、美徳の涵養』という3つのアプローチの強みと弱みを探っていきます。どうすれば正義を達成できるのかという難解な問題は、アリストテレスを始めとした名のある哲学者たちが考え抜いてもなお完璧な解答はないようです。しかも私たちの世界は、年を追うごとに複雑になっていく。私自身もネット社会でぶつかり合う正義を見るにつけ、自分のなかにある正義がすべてではないと気付かされるばかりです。

先日視聴したNHKの『ザ・プロファイラー』という番組の故やなせたかし氏の回で、正義について語られていたのが私にとってはタイムリーで、とても興味深く見ました。アンパンマンといえば正義の味方の代名詞ですが、その作者であるやなせたかし氏の正義の定義は『ひもじい思いをしている人に、パンのひと切れを差し出すこと』。

↓同じような内容のインタビュー記事がありました

そして『正義を行う人は自分が傷つくことも覚悟しなくてはいけない』。アンパンマンは迷わずに顔を差し出すけれど、彼はそれによって弱体化してしまうわけです。とてもシンプルで、かつ真理ではあるのでしょうが、それすらも実際に分け隔てなく達成するのは難しいとも思います。現実は誰かを助けようとしたら詐欺に合うような悲しい社会です。逆に言えば、アンパンマンの世界は理想郷なのでしょうか。

本書で事例としてとりあげられていた志願兵や代理母、アファーマティブ・アクションといったアメリカらしい諸問題にも、何かシンプルな着地点は無いのだろうかと考えたくなってしまいます。そして考えれば考えるほどに、アメリカという国の複雑さに驚かされます。しかしこれほど多種多様な人々が暮らす国で、あるひとつの問題に最適解が見つかったならば、あらゆる国で汎用できるかもしれません。

本書の最後にとりあげられていた同性婚は、日本でもやっと議論され始めているので興味深く読みました。私自身は賛成派で、家族になりたいならば誰だって家族になればいいと思っています。アメリカにおいては宗教的に受け入れられない人々や、婚姻の目的にそぐわないといった反対派がいるようですが、日本もほぼほぼ同様の状況でしょう。

著者が提示していた第三の解決策、結婚という制度そのものを国や自治体が無くして、民間に委ねるような方法というのは、戸籍という制度に固執している日本では難しいように思います。子供への支援が父母の存在を前提としている部分を、子供に直接的に届くような流れにすれば、あるいは似たようなかたちで運用できるだろうかとも想像を巡らしてみたのですが、ふむ。。。なかなかまとまりませんでした。

同じように夫婦別姓についても、別姓がいい人はそうすればいいし、同姓がいいならそうすればいいと私は思うのですが、こちらの問題は要するにシステムを変えるのが面倒なだけなんじゃないのだろうかとも思っています。国民のナンバリングすら手間取る国には複雑すぎる作業なのでしょう。なんて、皮肉が過ぎました。すみません。

今年は、今まで何となく有耶無耶にしてきたことが、あらゆる場所で不満となって吹き出したように思います。ガザでくすぶっていたものがあのような暴力となって止め方が分からなくなるとは、思いもよりませんでした。アフリカも各地できな臭くなってきています。日本国内を見渡しても、政治とカネ、芸能界の性加害、企業のブラックな一面が暴かれ、驚かされるばかりでした。

すべてをアンパンチで片付けられればいいのに、と嘆いている暇は無いのかもしれません。正義とは何か、私たちは目の前の問題にどう立ち向かえばいいのか。幸福、自由、美徳という3つの軸をもとに、来年もひとつずつ考えていきたいと思います。



以下、雑記
*****

年末の忙しさを言い訳にして、この感想を書くのにも時間をかけすぎました。今年も残すところあと6日です。なんてこった。本もあと1冊くらいは読み終えたいと思っているものの、難しいかしら。相変わらずの遅読です。

毎年10個の目標を立てるのですが、簡単に達成できると思っていた『料理したことのない野菜を使う』が残ったままです。秋にものすごく長い茄子を使ったのですが、それじゃダメですかね。普通の茄子の3本分くらいの長さだったのだけど。いつも作る味噌炒めにしたからなぁ。味も普通の茄子でした。あれはノーカウントか。

これは来年も引き続き目標にしようと思います。

クリスマスのディナーは
今年もばっちり美味しくできました

今回も読んでいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

読書感想文

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?