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【イベントレポート】ソーシャルビジネスの“本番”は、2025年から──ビジネスで社会を変えるために、社会貢献性と収益性のバランスを保つ方法【ユーグレナ出雲×クラダシ関藤】

SDGsという言葉を耳にしない日はありません。ビジネスの世界でも、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資の総額が、2020年には35.3兆ドル(約3,900兆円)に達するなど、持続可能な社会の実現に寄与することは、全ての企業にとって重要なテーマになりつつあります。
しかし、企業にとって高い社会貢献性と収益性を両立することは、決して容易なことではありません。そのバランスを保つ要諦を探るべく、「売り上げを出し続ける社会起業家に聞く~社会貢献×収益のバランス感覚」と題したイベントが開催されました。
登壇したのは、ヘルスケア事業などを展開し、世界の食料問題の解決に挑む、株式会社ユーグレナの代表取締役社長・出雲充氏と、フードロス削減を目標に社会貢献型ショッピングサイト『KURADASHI』を展開する、株式会社クラダシで代表取締役社長CEOを務める関藤竜也氏です。
社会貢献性の高いビジネスを展開しながら、会社としての確実な成長を実現してきた2人のお話を通して、社会貢献×収益の理想的なバランスを保つポイントを探ります。

「楽しく、お得に」フードロス問題を解決する

まずマイクを取ったのは、クラダシの関藤氏。同社が取り組むのは、フードロスの削減だ。日本では年間570万トンの食品が廃棄されており、国民1人あたりお茶碗1杯の食料を毎日捨てている計算になると関藤氏は解説する。

「食品廃棄を引き起こす原因のうち、代表的なものの一つ」として、「3分の1ルール」を挙げた。このルールは、食品業界の納品に関する取り決めで、たとえば、食品メーカーが6ヶ月後に賞味期限を迎える商品を製造したとすると、その賞味期限の3分の1の期間、つまり、製造から2ヶ月以内に小売店に納品することが義務付けられているという。2ヶ月以内に納品されなかった商品は、廃棄されることになってしまうのだ。

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▲株式会社クラダシ 代表取締役社長CEO・関藤竜也氏

関藤氏によれば、この納品期限はアメリカでは「2分の1」、イギリスの場合は「4分の3」となっており、日本は各国に比べてかなり厳しい基準になっているという。食品の安全性を担保するために設けられたルールではあるが、その厳正さがフードロスに繋がってしまっているのが実情だ。

フードロスの問題点は、「もったいない」という感情論だけにとどまらない。ある調査によれば、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの8%が、フードロス由来だそうだ。さらに、こと日本においては、フードロスから目を背けることは、社会に大きな打撃を与える事態を招きかねない。

日本特有の問題とは「食料自給率の低さ」だ。2020年度のカロリーベース食料自給率は37%であり、この数字は年々下がっている。2050年には全世界の人口が100億人に到達するとされており、世界的な食糧危機に直面することが予想されている状況において、食料を無駄にしないための仕組みを構築することは、未来のために不可欠だ。

「クラダシが目指すのは、この課題を『楽しく、お得に』解決すること」と関藤氏。同社は一般消費者向けのECプラットフォームを展開している。『KURADASHI』上で販売されているのは、まだ十分に食べられるものの「3分の1ルール」などによって廃棄せざるを得ない商品。フードロス削減に賛同する食品メーカーから協賛価格で商品が提供され、ユーザーは最大97%オフで商品を購入できる。また、売上の一部を社会貢献団体に寄付することで、多方面から社会課題の解決に寄与する事業を展開している。

関藤「ソーシャルビジネスの定義に正解はないと思いますが、私たちは社会性、環境性、経済性を重視した事業を続けることを大切にしています。そして、売り手、買い手、社会がWin-Win-Winの関係になること、つまり、『三方良し』となることも重要な要素。食品メーカー、消費者、そして地球環境を含めた社会全体のうち一者でも損をするようなビジネスであってはならないと考えています。この三者の損得は、決してトレードオフではないんです」

フードロス削減という大きな課題に挑むための下地は整った

フードロスの削減、ひいては社会全体の利益につながる事業を手がけるに至った背景には、2つの原体験があるという。一つは阪神淡路大震災、もう一つは中国での駐在経験だ。

関藤「1995年、阪神淡路大震災が日本を襲いました。そのとき私は大阪におり、自らも被災者となった。かなり厳しい状況ではあったのですが、テレビで各地の様子を見て、私よりも困っている人が大勢いることを感じて、居ても立っても居られずバックパックに救援物資を詰め込んで、甚大な被害を受けたエリアに向かいました。しかし、一人では何もすることができず、無力感を感じた経験があるんです。

そして、1998年から3年間ほど、当時勤めていた総合商社の仕事で中国に駐在していました。そこで大量の食品が廃棄される光景を目の当たりにすることになった。魚の加工食品を製造する現場では、加工に適さないことを理由に取れた魚をその場で廃棄することも珍しくなかった。これは許せないと思いましたし、大きな問題になることを確信しましたね」

その後、経営コンサルティング会社などを経て、2014年にクラダシを創業。2021年度で8期目を迎える同社は、第二創業期に差し掛かっていると語る。

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関藤「おかげさまで事業は急成長を遂げており、会員数は2020年から2021年にかけて約2.7倍になりました。2期目からはエクイティファイナンスをせず、ここまで来ていて、そういった財務戦略をとっている理由は社会貢献性を追求するため。エクイティファイナンスをすると、少なからず売上や利益をあげることを求められるので、そういったプレッシャーを回避し、社会に貢献するための下地をつくることに邁進してきました。

そして、下地は整いました。これからは大きな社会的信用を得て、フードロス削減という大きな山を登っていくために、IPOを目指していきます。ソーシャルビジネスでIPOを遂げることは簡単なことではないと思いますが、多くの方々からの協力を得るためにも、IPOを実現したいと考えています」

グラミン銀行に学んだ、「三方良し」のソーシャルビジネス

続いて登場したユーグレナ社の出雲氏は、クラダシと関藤氏にとっては「先輩」と言えるだろう。2012年12月に東証マザーズに上場し、2014年12月には東証一部への上場市場の変更を遂げているからだ。

59種類の栄養素を含む微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用したヘルスケア事業を中心にビジネスを展開するユーグレナ社。原点はバングラデシュにあるという。

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▲株式会社ユーグレナ 代表取締役社長・出雲充氏

出雲「18歳のときにバングラデシュのグラミン銀行でインターンをした経験が、私の人生を一変させました。グラミン銀行とは、ムハマド・ユヌス氏が立ち上げた貧しい人々のために立ち上げた金融機関です。小口の融資や貯蓄などの金融サービスを提供するマイクロファイナンスを発明し、ユヌス氏はこの功績によって2006年にはノーベル平和賞を受賞しています。

『グラミン』とは、バングラデシュの言葉で『農民』を意味します。グラミン銀行は、貧しい農家の人たちに3万円を貸付け、生活の基盤を整えてもらうことを目的としています。私たちの感覚では『たった3万円』かもしれませんが、農家の人たちにとっては年収にも匹敵する金額です。

今では900万人に、合計1兆円を融資して、900万人の生活を豊かにしています。本当に売り手良し、買い手良し、社会良しのソーシャルサービスであり、この事業を間近で見たことが、ソーシャルビジネスに挑む動機になっています」

食というヘルスケア領域でソーシャルビジネスを展開することを決意したのも、バングラデシュでの経験がきっかけになっているという。同国は、最貧国の一つ。「人々が『飢餓状態に陥っている』というイメージがあるかもしれませんが、実態はそうではない」と出雲氏。最貧国でも「お腹を空かせている人」は多いわけではなく、問題となっているのは、その栄養状態だそうだ。

出雲「国民一人あたりのお米の消費量で言えば、バングラデシュは日本の4倍。お腹一杯食べることはできています。しかし、手足が異常に細く、お腹がぽっこりと張っている子どもたちが多い。この症状はクワシオルコルと呼ばれ、その主な原因はタンパク質不足。途上国で食料不足に悩んでいる人は10億人ほどいると言われていますが、みんな空腹なわけではなくて、新鮮な野菜や肉、魚を得ることができず、栄養失調で困っているんです。

バングラデシュでそういった状況を目の当たりにして、とてもショックでした。『三方良し』のソーシャルビジネスを手掛けることと、栄養問題を解決したいと思って帰国し、栄養の勉強を始めた。そして、20歳のころ出会ったのが“相棒”である微細藻類のユーグレナだったんです」

必ずソーシャルビジネスが正しく評価される社会が訪れる

先述の通り、59種類の栄養素を備え、健康に大きく貢献するユーグレナだが、これを含む食品の製品化に至るまでには大きな壁が存在した。培養の技術が確立されていなかったのだ。2005年8月にユーグレナ社を創業した出雲氏は、たゆまぬ研究開発によってこの壁を乗り越え、同年12月には日本で初となる食用ユーグレナの屋外大量培養技術を確立。翌年には、事業を本格化させた。

その後、会社として大きな成長を遂げたユーグレナ社は、日本国内の人々のみならず、事業の原点となっているバングラデシュの健康にも貢献する仕組みを構築している。

出雲「ドリンクや化粧品など、私たちが展開している商品を1つ買っていただくと、売り上げの一部を協賛金としてお預かりするシステムになっています。商品の売り上げの一部を原資に、毎日1万食のユーグレナが入ったクッキーをバングラデシュの子どもたちに届けています。

こういった取り組みを続けるうちに、さまざまな方からお声がけをいただくようになり、日本の民間企業としては初めてWFP(国際連合世界食糧計画)のパートナーに選ばれました」

社会貢献性と収益性のバランスを保ち、ビジネスとしても高い成果をあげるだけではなく、社会に大きな価値を提供し続けている出雲氏。プレゼンテーションパートの終盤、ソーシャルビジネスに取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうとしている“同志”にこう語りかけました。

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出雲「2025年になれば、社会が変わります。あと4年我慢してください。そうすれば、絶対にみなさんがやっていることは報われますし、正しく評価されるようになります。

なぜかと言うと、世界全体で世代交代が起こるからです。2025年には労働人口の半分がミレニアル世代になります。そして、2030年には世界人口の半分がZ世代なる。ミレニアル世代、Z世代の特徴は社会貢献性を重視すること。つまり、高い収益をあげることではなく、社会に貢献することを目標にするビジネスが多くの人に支持される時代がやってくるんです。

現在の労働市場において、ミレニアル世代やZ世代は少数派。ソーシャルビジネスが正しく評価されず、みなさんも苦しい時間を過ごしているかもしれません。でも、あと4年です。あと4年すれば、絶対に社会は変わる。それまで諦めず、一緒に頑張っていきましょう」

「ソーシャルビジネスを成功させる方法」は“存在しない”

両氏によるプレゼンテーションに引き続き、パネルディスカッションが行われた。最初のテーマは、「売上と社会貢献のバランス」について。まず口を開いた出雲氏は「最初のステップは売上を確保すること」とした。

出雲「企業ですから、売上を確保しなければなりません。売上をあげ、強固なキャッシュフローを整えてから社会貢献にリソースを割く、という順番が前提になります。まずはビジネスをサスティナブルなものにすることを優先すべきです。

『では、創業当初は社会貢献性を無視してもいいのか』というと、そうではない。私の場合は、自らのリソースの10%を社会貢献に割くというルールを設けていました。これは、ユーグレナを創業する前、銀行に勤めていたころに設けたルールです。給与の10%を社会貢献団体への寄付に充てていました。このルールはユーグレナ社創業後も変わっていません。

パーセンテージは人それぞれでいいと思いますが、社会に貢献するためにビジネスをはじめたのに、ビジネスをするために社会貢献できなくなるなんて本末転倒じゃないですか。だから、事業を軌道に乗せることを優先しつつも、自分なりのルールを決めることが重要だと思います」

関藤氏もこの言葉に同意を示し「個人として、会社としてどれくらいのリソースを社会貢献に割くかを決めることが、ソーシャルビジネスを展開する上では重要な観点」とした。

続いて投げかけられたテーマは、「ソーシャルビジネスを成功させるために求められるマインドセットや知識」について。このテーマに対して疑問を呈したのは、出雲氏。誰かが語る「成功するためのHow」に、価値はないと考えているそうだ。

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出雲「よく聞かれる質問なのですが、『これを勉強しなければならない』『この知識をつけておいた方がいい』という言葉のほとんどは、嘘とは言わないまでも、意味がないと思います。なぜなら、成功への道筋はそれぞれ違うから。自分なりに見出していくものなんですよ。

失敗するポイントには共通点があるように感じているので、それをシェアすることには意味があると思うのですが、すでにうまくいっている人が語る成功のための方法論には、生存者バイアスがかかっているので、汎用性があるとは思えません。試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの方法論を確立するしかありません」

関藤「強いて言うなら、『覚悟を持つこと』。成果が出なくても、絶対にやり切る覚悟を持つことが重要だと思います。サービスのローンチ前、話を聞いてもらうために食品メーカーに電話をしまくったのですが、100社に架電して、1社アポが取れれば良い方でした。100戦100敗は当たり前といった状況の中でも、戦い続けられたのは『成果が出るまで絶対に諦めない』覚悟を決めていたから。どんな状況になっても諦めようと思うことはありませんでしたし、その覚悟があったからここまで来れたのだと思います。

あとは、『機を見極めること』も重要。たとえば、40年前に日本でミネラルウォーターを販売しても、絶対にうまくいきませんよね。フードロスに関連する事業についても同じことが言えると思っていて、阪神淡路大震災と中国で見た光景をきっかけにこの事業を立ち上げることは決めていたのですが、機が熟すまで創業を待ったからこそ、現在の成長があると考えています」

アントレプレナーは、HEROだ

関藤氏の話を受け、2015年から日本にアントレプレナーを増やすための活動をしているという出雲氏が「アントレプレナーの資質」について、こう語った。

出雲「アントレプレナーはヒーローにならなければならない。でも、映画やドラマで悪役を倒す、あのヒーローではありません。備えておくべき4つの資質の頭文字を取って、HEROです。

1つ目は、Hope。夢や希望を提示できる人でなければなりません。2つ目は、Efficacy。つまり、自己効力感ですね。どんな状況にあって『私はできる』と信じることが求められます。Rは、Resilient。直訳すると弾力性ですが、復元性と言われることもありますね。『100回失敗したら、101回立ち上がる』ことができなければ、アントレプレナーには向いていないかもしれません。4つ目のOは、Optimistic。楽観的であることです。

関藤さんは、まさにHEROですよね。希望があって、『自分はできる』と疑わず、『100戦100敗』でも挑戦を続けていますし、楽観的な側面もある。この4つの素質を持っている人にはぜひアントレプレナーとしてソーシャルビジネスに挑んで欲しいと思いますね」

イベントは参加者に対する出雲、関藤両氏からのメッセージで幕を閉じた。

関藤「他者の声に惑わされないで下さい。ソーシャルビジネスをやっていると、いろいろな声が聞こえてきます。私たちも『参入障壁が低いから、すぐに大きな競合が出てくるんじゃないの?』『クラダシさんが頑張れば頑張るほど、潰れてしまうお店も増えるんじゃないの』と言われることがある。
でも、そういった声に惑わされず、ぜひ自分が信じた道を突き進んでほしいと思います」

出雲「社会貢献と収益のバランス感覚というテーマのイベントに、こんなにもたくさんの人が集まってくれたことに驚いていますし『未来は明るいぞ』と思わせてもらいました。今日一番勇気とやる気をいただいたのは、私かもしれません。

私たちも、トライ&エラーを繰り返し、ようやく社会貢献と収益の理想的なバランスを維持できるようになりました。私たちもできたのだから、みなさんもきっと大丈夫。2025年まで、粘り強く生き残ってほしいと思います。

そして、2025年以降に、今日のようなセミナーでみなさんの中の誰かに『社会貢献と収益の理想的なバランス』を語ってもらいたい。そんな未来を夢見ながら、共に社会課題の解決に取り組んでいきたいです。今日は本当にありがとうございました」

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(取材・文)鷲尾諒太郎

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