十二章 涙の訴え

 緊迫した戦いが目の前で繰り広げられている。そんな中私も怪我をした皆の手当てに追われていた。そして暫く経ってから手をかざさなくても強く念じれば皆の怪我を治せることに気付き、安全そうな場所に立ち治癒術を施す。

「……とはいえ、何だか私はアウトオブ眼中っぽいんだけどね」

誰一人として私に攻撃する人がいないのだ。まあ、アイクさんは女性には絶対刃を向けないって感じだから私に危害を加えてはこないだろうけどね。それと私に声をかけてきたジャスティスさんも私の近くまでくることはなかった。

シエルさんは今はハヤトさんと一騎打ちしてるようだし、シェシルさんは一人でユキ君とイカリ君の相手をしている。トウヤさんはキリトさんに狙われまくっていて攻撃を避けることに集中しているようだし。

だから私の方に四天王達が来ることはなかった。やっぱり戦えない私は放っておいても大丈夫って感じなのかな? そうだとてもいつまでもこの状況ってわけにはいかない……。

「そう言えば、前にトウヤさんが私に……!」

私は言いかけて今がまさにトウヤさんがお願いしたことを叶えてあげる時なんじゃないかと思った。

「トウヤさんの願い……もし自分がアオイちゃんに刃を向けた時は、私の思うままに止めて欲しいって願いを、今叶える時なんじゃ。うん、きっとそうだよね」

そうに違いないと思った時私の耳にアオイちゃん達の悲鳴が聞こえてきた。

「アオイちゃん、皆さん?!」

四天王達の力は圧倒的でいつの間にかアオイちゃん達は追い詰められていた。このままでは皆が危ない。

「くっ……強い。このままじゃ」

「さて、姫様。お戯れはこの辺りで宜しいでしょうか。……そろそろ決着をつける時です」

膝をついているアオイちゃんの前へとトウヤさんがゆっくりと近寄りチャクラムを構える。

「……めて……止めて下さい!」

『!?』

私は大きな声で叫ぶと腕輪から黄色い光が放たれた。すると全員の動きが止まる。まるでその場に縛り付けられたかのように動けなくなっているようだが、そんなこと今は気にしている場合じゃない。このままだといけない。トウヤさんの願いを今こそ叶えてあげないと。私はそう思うと大きく息を吸い込み四天王達を見やった。

「私は……私はもう大切な人達が誰一人として死んでいなくなるなんてところを見るのはもう嫌なんです。どうして話し合うことをしないのですか、お互い歩み寄れば誰も犠牲者を出さずに済むのに。どうしてその選択をしようとはなさらないんですか!」

「レナ……」

『……』

私の言葉にアオイちゃんが呟く。敵も味方も皆が私に注目し私の言葉を聞いていた。

「……敵国だから、武器を向けて戦うのは仕方がないとか、国に仇なす者達だから排除しなきゃいけないとか。帝国の人達だから戦わないといけないとかそんなのどうでもいいんです。皆同じ血の通った人間じゃないですか。同じように生きて考えて感情を持っている。それなのにどうして戦い合わないといけないんですか。私は……戦いなんか知らないし、何も知らずに平和な国で生きてきました。だから皆さんの戦う理由とかを理解することもできませんし、理解したくもありません。けど……だけど、どうして同じ人間同士で戦い合わなくてはならないのですか。もっと平和的な解決もあるのに。どうして武器を向け合うことしかできないんですか。私は……誰一人として死んでほしくはありませんし、誰かがこれ以上傷つく姿を見るのも嫌です。どうしても戦いを止めてくれないというのなら、私は皆さんが戦いを止めるまでこの力を解く気はありません」

私は話しながら頬を伝う冷たい滴を払うことはなかった。兎に角誰一人として死んでほしくない。そしてできる事なら帝国側と瑠璃王国側の二つの国が仲良くなってくれればそれが一番いい。なんて考えている私は戦うことも知らない平穏な世界で生きてきたからこその甘い考えなんだって分かっている。でもこの人達を誰一人として失いたくない。だからもうこれ以上皆が戦い合う姿は見たくない。

「はははっ。レナ、君って本当に最高だよ。ぼぅっとしてて弱そうなのに、言うことだけはでかいんだから。ほんと……にそっくりだ。ここはレナの言葉に免じて撤退してくれないかな? あと、これ以上何かやるって言うならぼくももう黙ってないよ」

大きな声でアレク君が笑うと私へ向けて誰かにそっくりだって言っていたけどそこはよく聞こえなかった。そして次にそう言うと四天王達を見やった。

「君は、相変わらず甘いな。……分かった。今回は君の涙ながらの訴えに免じて見逃してやろう。だが次会う時はいくら君が止めようとも容赦はしない」

(相変わらず? 私シエルさんとどこかでお会いしたことあったっけ?)

ふぅと溜息を吐いたシエルさんが仕方ないと言った感じで話す。その言葉に私は彼とどこかで会ったことがあっただろうかと考えるが記憶をたどってみたがやはり一度もお会いしたことはなかったと思うのだけど。

「お前はあの頃から変わらないな。……だが、反徒どもとこれからも行動するというのならば、次に会った時は例えお前であったとしてもオレは迷わず斬り捨てる。そのこと忘れるな」

ジャスティスさんも私へと微笑み話すが、あの頃から変わらないって誰かと勘違いしているのだろうか? もしかしてアレク君が話していた私にそっくりな「彼女」の事と間違えているのでは。そう思ったけど聞ける雰囲気じゃないし黙っておこう。

「ボクもね、本当は君達と戦いたくなかったんだ。だけどさ、帝王様の命令だから従わないといけなくて。だから君が止めてくれてよかった。女の子を泣かせてまで戦うなんてボクできないよ」

「……まさかこの私の心を動かしてしまうとは、貴女は一体何者ですか? いえ、何者であったとしても関係ありませんね。兎に角そこにいる少女と王子様のおかげで命拾いしましたね。ですが次に会う時は覚悟を決めておくことです」

「王子様?」

アイクさんが笑顔で話すとシェシルさんも驚いたような顔をして私を見やる。しかし頭を振うとそう言った。王子って誰って感じでアオイちゃんが怪訝そうに呟いた。

どうやら四天王達はこれ以上戦う気はなさそうでほっと胸を撫でおろす。

その瞬間皆が動けるようになったようで四天王達は本当に立ち去って行ってしまいトウヤさんだけが残った。

「姫様」

「トウヤさん……」

そっと近寄ってきたトウヤさんにアオイちゃんは戸惑った様子で声をかける。

「アオイに近づくな」

「貴様、せっかくレナが見逃してくれたものをここに残るとは、命が欲しくないようだな」

「お二人とも待って下さい」

ユキ君とキリトさんが彼女の前へと駆けこむと武器を突き付けた。今にも斬りかからん勢いの二人に私は止めに入る。

「トウヤさん」

「レナ、そいつに近づくな。何をするか分からんぞ」

そっとトウヤさんに近寄った私へとキリトさんが注意するが、私は聞かずに笑顔を意識しながら歩み寄った。

「あれでよかったでしょうか?」

「本当に貴女は……おれの予測をはるかに超える事をしてくれましたね。有り難う御座います」

私の言葉に彼が優しく笑うとお礼を言って頭を下げる。

「アオイちゃん、大丈夫。トウヤさんはもう私達を裏切るようなことは絶対にしないよ」

「レナ、それってどういうこと?」

私は背後にいるアオイちゃんへと振り返り話すと、彼女が不思議そうに首を傾げて尋ねた。

「トウヤさんはアオイちゃんに刃を向ける気はないってこと。つまり……」

「つまり、敵をだますにはまず味方からというでしょう。姫様方を罠にはめたふりをして四天王達をだましたのです」

私がどう説明しようかと考えているとトウヤさんがふっと笑い説明する。

「アオイを殺そうとしたのにか?」

「それは違います。だってこの戦いの間ずっとトウヤさんは攻撃をよけてはいたけど、皆さんに怪我を負わせてなんていなかったですよ」

「そういわれてみれば、確かにトウヤ殿は僕達に攻撃してませんでしたね」

きつい口調でユキ君が言った言葉に私は違うって説明した。それにイカリ君がそう言えばといった感じで同意する。

「私もトウヤさんは私達の敵じゃないって思う」

「君まで何を言いだす。先ほどまで敵対していた相手を信じるだと? 正気で言っているとは思えん」

アオイちゃんが笑顔でそう言うとキリトさんが眉をしかめて言葉を放つ。

「だって、本当に私達の事を殺そうとしているのだとしたらいつも側にいたんだもの。いつだって私達を殺すことはできたと思う。だけどトウヤさんはそれをしなかったし、それに私達をおびき出すために仲間になったふりをしていたんだとしたらあんなに積極的に敵国の秘密を話したりはしないと思うの」

「こいつは口が上手いからな。情報を教えてアオイ達を油断させて信頼を得ようとしたっておかしくないだろう」

「ユキもキリトも少し冷静になってください。話を聞いた限りですとオレ達に危害を加える気は最初からなかったように思いますし、レナやアオイの言う通り、信じていいと思いますよ」

アオイちゃんが言うと今度はユキ君がいらだった様子で話す。それを聞いたハヤトさんが口を開きトウヤさんをかばう。

「お前まで……こいつは二度も裏切ったんだ。そんな奴が仲間だとは到底思えないな」

「同感だな。また俺達を罠にはめるかもしれないんだぞ」

それでもなおキリトさんとユキ君は食い下がらない勢いで言う。

「二人の言い分も分からんでもないけど、レナ達の言う通りトウヤを信じてもいいと思うぜ。こう見えてオレは人を見る目があるんだ。だから本当のことを言っているのか嘘をついているのかは目を見ればわかる」

「そうよ。怒りで冷静さを欠いてしまっては本心を見る事ができなくなるわよ。ちゃんと目を見てあげなさいよ。どう見たってあれ、私達に刃を向けてものすごく後悔している人の目でしょ」

キイチさんがまぁまぁと言いたげな感じで言うとアゲハさんも小さく笑って話す。

「「……」」

二人はついに黙り込みトウヤさんから離れる。

「アオイ達がどうしてもこいつを仲間にするって言うんなら勝手にしろ。だけど次に何かあった時は俺はもうアオイ達の頼みだろうと聞きゃしないからな」

「こいつの事を信じるというのなら勝手にしろ。おれはもう何が起こっても知らないからな。その時はお前達で何とかしろ」

皆がトウヤさんを信じると言って譲らなかったためユキ君とキリトさんが折れてくれた。だけどね、本当にもう大丈夫だって私は思うんだよね。もうトウヤさんが私達を裏切ることは絶対にない。だって彼の目がそう語っているのだから。

こうして一応和解して? 私達はトウヤさんから詳しい話を聞くこととなった。

「姫様方のおかげでこうして仲間に戻れて嬉しく思いますよ。さて、話を帝王の宮殿について戻しましょう。実はここは帝王の居城ではありません」

「どういう事?」

彼の言葉にアオイちゃんが不思議そうに尋ねる。

「ここは姫様方をおびき出すために用意した別邸なのですよ」

「どうりでぼくも知らない道を通っていると思ったよ」

トウヤさんが説明した言葉にアレク君が納得して頷く。

「申し訳ございませんね王子様。これも黙っているほうのが上手くいくと思いまして」

「ねえ、さっき四天王の一人もアレクの事王子様って言っていたけどどうしてアレクの事を王子様って呼ぶの?」

申し訳なさそうに話す彼の言葉を聞いていてアオイちゃんが不思議に思い尋ねた。

「それは、おれの口から申し上げて良いかどうかわかりませんのでお伝えするなら、王子様自らお伝えされてはいかがでしょうか」

「……」

トウヤさんの言葉で皆の視線がアレク君に集まる。彼は考え深げな顔をしていたが諦めた様子で溜息を吐く。

「……アオイ。ぼくはね。アオイが敵対している帝国の王子なんだ。つまり帝王の息子だよ」

「え?」

アレク君が真面目な顔になるとそう言った。その言葉にアオイちゃんが驚き目を見開く。

「アオイの事も最初から亡国の姫であり反徒を率いる人だって知っていて、どんな人なのか探ろうと思って近づいた。だけど、君があまりにも美しく綺麗だったから。敵国の姫であるって分かっていても君の事が好きになったんだ。だから、ぼくはしばらく君達の行動を見ていた。本当に悪いのはどっちなのかを知るために。だけどヴォルトスの悪行を知りぼくは許せなくてあいつを殺した。そしてそんな奴に西の地を任せる父上の事が分からなくなって、だからこの目で確かめたかったんだ。だから世界中を旅してまわってきた。そして父上がどんなことをしているのかを知った……だからぼくは王国を守る為そして王族の者として道を間違えた父を正さなければならない。だからアオイ。ぼくも一緒に戦うよ。本当の敵は君じゃない。真に倒すべき敵はぼくの父上だから」

「待ってアレク。何を言っているのか分かっているの? お父さんを殺す覚悟で戦うって言っているんだよ」

静かな口調で語った彼の言葉にアオイちゃんが驚いて止める。

「そう言っているだろう。息子として父親がしている行いが間違っているのならそれを正すのも息子であるぼくの務めだ」

「アレク……分かった。アレクがどうしても一緒に来るって言うんなら止めない。だから力を貸してくれる?」

「勿論。アオイのためならぼくはなんだってするよ」

アレク君の決意に彼女も胸を打たれて了承する。こうしてアレク君と彼を守る側近兵が仲間に加わることとなった。

いきなり現れた側近兵達に皆驚いていたが、どうやら彼等はいつでもアレク君を守れるように近くに潜んでいたらしい。だけど彼が自分が命令を出すまでは絶対に手を出すなって言って聞かせていたそうだ。

とにかくアレク君達が仲間になったことで帝王の居城である宮殿の全貌を知る事ができるようになった。

そうしている間に北の地へと送っていた別動隊から連絡があり私達は一度彼等が身を隠しているという森の中へと向かうことになる。

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