ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記28

「……あ。マーガレット様。それにミュゥさんにマルセンさんも。あら、あそこにいるのはジョン様とシュテナ様。それにジャスティンさんも。お仕事だって聞いてたけど来てくれたんだ」

そんな中一人だけ審査が終わるのを固唾を飲んで見守っていたアイリスの目に観客達の中に混ざるマーガレット達の姿を見つける。

来賓席にはいつもとは違って豪華な服に身を包んだジョンとシュテナの姿もあり、その後ろにまるで護衛するかのようにジャスティンが立っていた。仕事があると聞いていたのにきてくれていることが嬉しくて微笑む。

「審査も終わりましたのでこれより結果を発表したいと思います」

「ではわしから結果を発表しよう。今回はどれも素晴らしい逸品ばかりで迷ったがその中でもより素晴らしい作品に準優勝と優勝をつけさせてもらった。まず準優勝は……」

「……」

司会者が言うと国王が表彰台の前に立ち静かな口調で言う。皆次の言葉を固唾を飲んで見守った。

「準優勝は5番フィルランデンの職人カイザル殿。そして優勝は……」

「……」

準優勝者が発表されるとしばらくの間沈黙が続く。国王が次になんというのかを会場中が見守っていた。

「優勝は18番仕立て屋アイリスのお針子アイリス殿だ」

「へっ?」

国王の口から出た言葉にアイリスは耳を疑いあっけにとられる。

「やりましたわね。まあ、わたくしが応援していたのですから当然ですわ」

「お~。流石アイリスさん。オメデトございまス」

「やったな。アイリス!」

観客達の間から大きな拍手と祝いの言葉があっちこっちから上がった。

「では優勝した仕立て屋アイリスのアイリスさん表彰台へどうぞ」

「は、はい」

暫く放心状態だった彼女だが司会者の言葉に慌てて返事をすると表彰台へと向かう。

「アイリス殿おめでとう。君はその年で審査員達皆が納得する「国宝級」の作品を作り上げた。君の作品に非の打ちどころなどどこにも存在しない。とても素晴らしい作品だったよ。これからもこの街のお針子として、いや一人の職人としてこの街で仕立て屋を続けて行ってもらいたい」

「はい。国王様有り難うございます」

国王が言うと表彰状と優勝賞品が贈られる。アイリスはそれをしっかりと受け取ると嬉しくて笑顔でお礼を言った。

「アイリスさんおめでとうございます」

「流石の出来ですね。アイリスさんの作品には人の目をひきつけてやまないそんな魅力を感じました」

「ジョン様。それにシュテナ様もどうして王様の隣に?」

国王の隣に立ち嬉しそうに微笑んでいる二人に彼女は不思議そうに首を傾げる。

「おや、そんなにおかしなことでもなかろう。この二人はわしの息子と娘なのだから」

「ち、父上!」

「お父様それは――」

今度は国王が不思議そうな顔をするとそう説明する。ジョンとシュテナが焦って口を開く。

「へ……ええ!?それじゃあお、お二人は王子様と王女様だったんですか」

「……ごめんなさい。僕達の正体がばれたら普通に接してもらえなくなるんじゃないかと思ってずっと黙っていたんです」

しかししっかりと事実を聞いてしまったアイリスは驚き二人を見やる。そんな彼女へとジョンが申し訳なさそうに頭を下げて謝った。

「そ、そんな。顔をあげて下さい。知らなかったとはいえとんだ御無礼を」

「アイリスさん。どうかこれからも今まで通りただのお店のお客様と店長って事でお願いできませんか」

恐縮した態度になるアイリスへとシュテナがそうお願いする。

「……そんなの勿論です。だってお二人は私にとって大切なお客様であり、私がこの街にきてできたお友達なんですから」

「ありがとう御座います」

「アイリスさん。ありがとう御座います」

不安そうな二人に彼女は笑顔になるとそう言って答えた。それを聞いたジョンとシュテナは嬉しそうに微笑む。

「アイリス。優勝おめでとう。君が優勝して私も嬉しく思う。そしてこれからもまた君のお店へと顔を出させてもらうよ」

「ジャスティンさん。ありがとう御座います」

王子と王女の後ろで控えているジャスティンが表彰台から降りようとするアイリスへとこっそり声をかける。その言葉に彼女は嬉しくて笑顔でお礼を言った。

「アイリス。おめでとう。君の作品は一流の職人達もそして仕立て屋協会の人達をも認めさせた。これはとても凄いことなんだよ。俺も君がここまで成長していたことを知れて嬉しい。これからも仕立て屋アイリスの一員としてよろしく頼む」

「はい!イクトさん。これからもよろしくお願いします」

大会も終わりもうお開きとなった時イクトがそっとアイリスの側へと近寄り声をかける。

一流の職人や教会の人が認めてくれたことよりも何よりも、彼が自分の仕立てた服を認めてくれたことが嬉しくて満面の笑顔で答える。

こうしてアイリスは誰もが認める一流のお針子としてこの国一番の職人となった。

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