序章

鳥のさえずりだけが聞こえる静かな朝。大きな屋敷に一人で住む私は今日も何時ものように学校へと向かっていた。

「はぁ……大分寒くなって来たな」

手袋ごしに息を吹きかけこすり合わせる。季節は12月の上旬。今年は例年よりは暖冬だと言われている。その通りに今年はまだ雪は降っていない。

「おはよう! 今年のクリスマス会如何する?」

「え~どうしようかな。去年はくじ引き大会とかしたから別の考えないとね」

「クリスマス……か」

大通りを歩いて学校へと向かっているとすれ違った中学生の女の子達が和気あいあいと話し合うその声が聞こえてきて、私は小さな独り言を零した。

「昔は家族皆でクリスマスのお祝いをしたよね。お父さんったら張り切って大きなクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれて、お母さんはおかしそうに笑って。お兄ちゃんは呆れて、お姉ちゃんは盛大に笑ってたな」

子供の頃を思い返し笑いながら俯く。もう二度と家族でクリスマスを祝うこともプレゼントを貰うこともできないのだから。

「おや? お嬢様。如何しました」

「え?」

俯いたまま歩いていた私の耳に男の人の声がかけられ驚いて顔を上げた。

「浮かない顔をして……そのような顔は貴女には似合わないですよ」

「い、いえ。何でもないのです!」

仮面で顔を隠した黒いフード姿の男の人の言葉に慌てて返答する。

後から思えばとても怪しい相貌をしていたのに、この時の私はそれにまったく気付かなかった。

「……貴女には笑顔が一番似合います。ですから、これからはずっと……笑って生きていって下さい」

「え?」

「しかし、貴女が生きていく中では辛いことも悲しいことも、怖い思いをすることもあるでしょう。ですが大丈夫です。貴女の側には常に貴女の幸せを願い守りたいと思う人達がいるのですから」

「なにを、いって……」

男性の言葉にまったく理解できない私は困惑してしまう。

「……それでは、道中お気をつけて」

「は、はぁ……」

男性はそれだけ言うと一礼して立ち去る。私は訳が分からないまま小さく返事をすると暫くその場で立ち尽くす。

「さっきの人。何だったんだろう」

暫くあの場で佇んでいた私だったが遅刻してしまうと思い急いで学校までの道を進んでいた。

「きゃあ? 危ない!」

「え?」

突如女性の金切り声が聞こえそちらへと振り返ると、青い色が視界いっぱいに広がる。

「あ……」

「きゃあ!?」

小さな声を零すと私の視界は黒く塗りつぶされていく。途切れる意識の中で誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

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