九章 西の地開放

 旅芸人の一座が領主の館に入っていってから暫く経ち、出てこないところを見ると無事にヴォルトスの下へ行き芸を披露しているようだ。

「それじゃあ、行くわよ。皆気を付けてね」

「アオイこそ無茶するんじゃないぞ」

暫く茂みの中で様子を伺っていたアオイちゃんが進軍する命令を出す。その言葉にユキ君が言うと長剣を構えて彼女の横に並ぶ。

「レナ殿。僕達の側から離れませんように」

「はい」

イカリ君の言葉に私は返事をするとアオイちゃんの背について表門へと向かって歩いていった。

門番の兵士達はキイチさん達が誘い出してくれたおかげで私達は簡単に中へと侵入する事ができた。そしてしばらく進んでいると兵士達と出くわす。

相手が領主の下へと向かう前に次々と倒しながら進軍を続けると、中庭のあたりでアオイちゃんが合図である弓矢を空高くへと放った。

「これでハヤトさん達も動き出すと思うわ」

「今まではすれ違う兵士達を倒すだけだったけど、ここから先は気をつけろよ」

「今頃異変に気付いた館に仕える武官達が領主に知らせているやもしれませんからね」

彼女が言うとユキ君が険しい顔で話す。イカリ君もそう言って真剣な表情をする。

「アオイちゃん怪我とかしないように気を付けてね」

「大丈夫よ。レナこそ怪我しないようにね」

「うん」

私はアオイちゃんに声をかけた。すると彼女は大丈夫だと言って笑う。だから私も力強く頷き答える。

そうして私達は更に進軍を続けいよいよ領主のいる大広間へとたどり着く。

「アオイ」

「姫様」

「ハヤトさん、トウヤさん」

扉を開けようとした時にハヤトさんとトウヤさんの声が聞こえそちらを見やると南門と西門から進軍してきた別動隊の姿があった。

「どうやら間に合ったようですね」

「キリトさんは?」

ハヤトさんの言葉にこの場にいないキリトさんについて彼女が尋ねる。

「キリトなら今頃逃げ道を塞ぐため裏門から攻め込んでいるころだと思いますよ」

「そう。それじゃあ、私達も乗り込みましょう」

彼の言葉に納得すると扉へと手をかけ勢い良く開け放った。

「貴様等が反徒どもか。舐めた真似をしやがって。このまま無事に帰れると思うな」

「貴方が領主ね。男の人達を無理矢理兵士に引き入れて戦わせているなんて許せない。ここで貴方を倒してこの地を開放するわ」

ヴォルトスさんがいらだった顔で言うとアオイちゃんも鋭い眼差しで相手を睨みやり宣言する。

「貴様が瑠璃王国の姫か。ふん。何年も前に消息を絶ち、いなくなったから死んだものかと思っていたが、まさか生きていたとはな。ここで貴様の首をとれば我の地位も更に上がると言うもの。皆の者かかれ!」

「あら、領主様。誰に命令してるのかしら?」

領主が言うと右手を高々と掲げ命令する。しかしそれに答える者はいなくてアゲハさんがおかしそうに尋ねた。

「何? ……まさか貴様等も反徒の一味だったのか。おのれ許さん。我をだました罪を償うがいい」

周囲を見回し兵士達がアゲハさんの能力「魅了」により骨抜きにされて戦意喪失している状態に気づくと憎々し気に奥歯をかみしめ言葉を放つ。

「姫さん。こっちはオレ達に任せて姫さんは領主を倒すことに専念して」

「分かった。皆行くよ」

兵士達の相手は自分達に任せろというキイチさんの言葉にアオイちゃんが頷くと弓矢を構える。

「ふん。こうなったら我一人で貴様等を葬ってやる。反徒を率いているとはいえ女一人倒すのに時間はかからん」

「アオイだけではありませんよ。俺達の実力を侮らないでください」

大剣を構えるヴォルトスさんへと大太刀を構えたハヤトさんが真面目な顔をして言う。

「レナは俺達の後ろに」

「待って。その前に……精霊さん、神様お願いです。皆をお守りください」

ユキ君が私の前へと移動しながら言う。その言葉に私は口を開くと癒しの力があるならきっと守りの力もあるはずだとそう思い祈るように腕輪をかざす。

するとそこから淡い光が放たれ私達の体に見えない加護の力が入り込んだように感じた。

「今何か体の中に温かな気の流れを感じたわ」

「加護の力でしょう。レナさんの持つ腕輪に宿る神々や精霊の力が働いたようです」

アオイちゃんが自分の身体を見詰めて呟く。それにトウヤさんが言うとチャクラムを構える。これは帝国側の武器で輪っか状になっており、外側が全て刃となっている。

それを内側の刃になっていない部分を手でくるくる回しながら投げて使うのだが、ブーメランのように投げた後手元に戻って来る仕組みとなっている。しかし相当な技術を必要とする武器のため扱える人も限られているんだったよね?

「アオイ、俺達の後ろに……トウヤ。ユキ、イカリ。行きますよ」

「はい」

「あんたに言われなくたって分かってる」

ハヤトさんが言いながらアオイちゃんをかばうように自分の後ろへと下がらせてから皆に声をかけた。

それに素直に返事をして長槍を構えるイカリ君とは対照的に分かってるといいたげに長剣を構えるユキ君。

「では、久々にハヤトとの合わせ技を披露するとしよう。ハヤト、あの頃のようにしっかりとお願いするぞ」

「トウヤはいつも俺とキリトの後ろでしたからね。分かってますよ。ユキ、イカリ、俺に続いてください」

トウヤさんが言った言葉にハヤトさんが小さく笑うと鋭い表情に変わり武器を手に駆け込んでいく。

「はい、はい」

「分かりました」

投げやりな態度で返事をするユキ君だがちゃんと彼の後に続いていっている。イカリ君も答えると武器を構えた状態のまま敵に突っ込む。

そうしてハヤトさん達が領主の周りを取り囲み攻撃を開始するとアオイちゃんも弓を引き絞り狙いを定める。

トウヤさんは私とアオイちゃんの前に立ちハヤトさん達の後ろからチャクラムを投げて攻撃する。ヴォルトスさんはたった一人では如何することもできなくなっていき苦い顔になった。

「ちぃ……分が悪い。ここは一旦この屋敷を捨てて逃げるか」

「逃げられると思うな。すでに貴様は包囲されている」

「キリトさん」

中央広間から逃げ出そうとする領主へとキリトさんの鋭い声がかけられる。声の聞こえた方は大広間の後ろ側の扉。

そこは使用人達が出入りする用の扉なのだがそこにキリトさんが二刀を構えて立っていた。彼の顔を見たアオイちゃんが笑顔で声をかかる。

「すでにこの屋敷は我が軍が包囲している。何処からも逃げられはしない。覚悟しろ」

「ふん。それがどうした。お前達につかまってなるものか!」

「あっ……」

キリトさんの言葉にヴォルトスさんが鼻で笑うと大広間の奥へと逃げる。すると隠してあったスイッチを押した。瞬間床が開き彼はその中へと入っていった。

まさか隠し階段があるとは思わなかったアオイちゃんが取り逃がしてしまった事に小さな声を零す。

「逃げられてしまいましたね」

「だが深追いするのは危険かと思われます。それに毅然にふるまってはいましたが相当の深手を負っています。放っておいてもいずれ命尽きるでしょう」

ハヤトさんが武器を下ろして言うとトウヤさんが追わずともいずれ命尽きると説明した。

「それならいいけど、後で仕返しに兵士を連れて戻ってきたりしたらどうするんだよ」

「領主の行方が気になるのであれば後で探せばいい」

ユキ君の言葉にキリトさんが言うと刀を納める。

それから暫く経ち私達が館から出ようとすると沢山の足音が聞こえてきて、私達は帝国兵に取り囲まれる。

「帝国兵!?」

「この屋敷に仕えていた者達の生き残りか。姫様お下がりください」

アオイちゃんが驚くと身構える。イカリ君も長槍を構えながら彼女に下がるように言う。

「ちょっと待ってください。彼等から敵意は感じませんよ」

「あんたが瑠璃王国の姫さんか。俺等はヴォルトスに無理やり館に連れてこられてここで働かされていたんだ。だがあんたがヴォルトスを追い出してくれたおかげでこうして自由の身になれた」

「それじゃあ貴方達は無理やり働かされていた村や町の人達なのね」

ハヤトさんが待ったをかけると帝国兵の一人がそう説明する。その言葉にアオイちゃんが納得して頷く。

「あんた達のおかげで俺達は助かった。だから俺達はあんた達の手助けがしたい。帝国と戦うんだろう。俺達も一緒にいく」

「姫様。どうか我等も軍に加えてはくれませんか」

「オレはもうこんな生活うんざりなんだ。このまま怯えて過ごすのももういやだ。だから姫様達と共に帝国にあらがってみようと思う。オレ達を連れていってくれ」

あっちこっちから軍に入りたいと志願する人達の声があがり、アオイちゃんは分かったと言いたげに頷く。

「手を貸してくれるならとっても有り難い。皆これからよろしくね」

そして微笑み言った言葉に男達から歓声があがった。これにより帝国と戦えるだけの大きな勢力となった革命軍はついに北の地へと向けて旅立つ。

ちなみに屋敷から逃げ出したヴォルトスさんは後日近くの雑木林の中で遺体で発見される。そのためアオイちゃん達は怪我を負い逃げたが力尽きたのだろうと判断しこれでこの西の地はもう領主に怯えることはなくなると喜んでいた。

「だけど、確かヴォルトスさんを倒したのって……あれ、誰だったけ?」

たしかに逃げたヴォルトスさんを誰かが倒したのだがその記憶がごっそりと抜け落ちてしまっていて思い出そうとしても思い出せない。

「なんだかどんどんゲームの記憶が無くなっていってるみたい。このまますべて忘れてしまうのかな……」

そう思うと不安になった。ゲームの記憶があったからこそ私は落ち着いてすべてを受け入れる事ができたし、アオイちゃん達を助けられたのに、それが分からなくなってしまったら帝王との戦いの時に大丈夫なのだろうかと考える。

「どうして、記憶が無くなってくんだろう」

この先の事を考えると不安にかられる胸のざわめきを静めようとしてみるが、抑えようとすればするほど消えゆく記憶に恐れを抱いた。しかしいくら考えていても仕方のないことなので今は考えることをやめる。

それから数日後私達は北の地へと旅立つ準備を整えるため町の宿屋の中で作戦会議をしていた。

「アオイ。ここまで軍が拡大してはもはやともに行動する事の方が危険だと思う」

「確かに大勢の軍を引き連れてじゃ目立ってしまいますからね」

キリトさんの言葉にハヤトさんも同意して頷く。

「それじゃあどうすればいいのかな」

「ここまで拡大したのですから、四方八方から北の地へと向けて別動隊を送り込みその地で合流して一気に帝王を倒すのはどうでしょうか」

「成る程。そうすれば北の地を包囲する事ができるということですね。流石はトウヤ殿です」

顎に手を当てて考え込むアオイちゃんへとトウヤさんがそう提案する。イカリ君がさすがだと言って褒めた。

「そうね。大勢の軍を率いて向かうよりは安全かも」

「ではさっそく軍を分けて北の地へと送り込みましょう」

アオイちゃんも納得して頷くとハヤトさんがそう言って動く。

それから別動隊は四つに分けられるとそれぞれの軍には一番から四番隊の隊長が決められアオイちゃん達と別れて北の地へと向かい進軍を開始した。

私達も後を追うように西の地を離れる為馬車に乗り込み出発する。軍を別けた事により私達についてくる兵士達の数も減り本当に旅芸人の一座を護衛する傭兵にしか見えなくなった。

その夜私達は草原の近くで野営することとなり、皆はすでに眠ってしまったのだが消えていくゲームの記憶の事を考えるとなかなか眠れなくてそっと馬車の外に出て夜空を眺める。

「眠れませんか」

「トウヤさん」

そんな私へと誰かが声をかけてきたのでそちらを見やるとトウヤさんが腕組みした状態で私を見ていた。

「何かご不安な事があるのですか」

「……」

彼の言葉に私はどういえばいいのか分からず黙り込む。

「もしや、元の世界に帰れなかったらとご心配なのでしょうか。それなら心配するまでもありません。貴女はいずれそれを考える事すらなくなりますので」

「トウヤさん……トウヤさんは私の事もすべて見えているのでしょうか」

優しく語りかけてくるトウヤさんへと私はわずかに残ったゲームの記憶を思い出して尋ねた。

「どの予言書を読んでも、全てを見通すこの忌まわしき目をもってしても貴女の事までは分かりませんでした。ですから貴女の存在はとても恐ろしく、そしてとても有り難いのです」

「……」

彼の言葉が以外で私は顔をあげてトウヤさんを見詰める。

「トウヤさんは本当に……アオイちゃん達を裏切るんですか?」

「……そこまでご存知でしたか」

私の言葉に彼は困ったような顔で笑うと考え込むようにしばし黙った。

「おれは生まれた時から全ての物事を見通し、未来を見る力をこの目に持って産まれました。そして10歳の時に後にこの倭国を制圧し帝王としておそれられる男。ルシフェルと出会いました。彼はおれの能力を知り側近として仕える様にとおれに言ってきたのです。そうなることは初めから知っていましたのでおれは彼について行きました。そして15歳の時にこの倭国を攻め落とす密偵として瑠璃王国へと送られました。そこでおれは姫様の父上であられる国王様から信頼を得て側近の地位を与えられたのです。同時期に入団してきたハヤトとキリトと仲良くなることもたやすいことでした。キリトは今はああですが、昔は人を疑うことを知らない純粋な少年でしたからね。そしておれは姫様に会った。人を疑うことを知らない純粋でお優しいあの方もいずれ手にかけねばならないと知っていて遠ざけていたのに、姫様はおれの事を気にかけ優しい笑顔でおれに接してくるのです。いずれは姫様の父上をそしてこの国を亡ぼす帝国側の人間だというのに……そして姫様がいずれ帝王となるルシフェルに抗う反徒を率いて攻め込むことも見通しておりました。ですからおれはそのわずかな希望の光に縋ってみてもいいと思ったのです。そして16歳になられた姫様をお迎えに上がり、帝王に支配されるこの国へと導きました。しかしわずかな光では全てを飲み込む闇の力には敵わないでしょう。ですからおれは貴女にかけてみようと思います」

「……」

すらすらと自分のことについて語るトウヤさんの言葉を聞きいていると、途端に真面目な顔になり私の事をじっと見つめる。

「もしおれが姫様へと刃を向けた時は……その時は貴女の思うままにおれを止めてくれ」

「!」

初めてトウヤさんが敬語じゃない口調で私へと言葉を紡いだ。つまりそれは嘘偽りのない本心からの頼みであり、トウヤさんが本気で私にかけている証であった。

全てを見通す目と予言書を読む力があったがために未来に絶望し生きているのか死んでいるのかも分からない生き方をしてきたトウヤさん。そこに差し込んだわずかな光であるアオイちゃん、そのアオイちゃんという希望の光を消してしまいたくない。そのために私に自分を止めて欲しいと頼んできたのだ。それならば私は……ちゃんと応えないといけない。信頼してくれているトウヤさんの頼みをそしてこの世界ではイレギュラーでしかない私にしかできないことを。

「分かりました。その時が来た私は、私の思うままにトウヤさんを止めて見せます」

「はい。お願いします」

小さく頷き静かな口調で答えると彼が嬉しそうに微笑んだ。もう口調は元通りになってしまっているがきっともう大丈夫だ。彼は決して私をだましたりなんかしない。だって、あの言葉が彼の本心であり、切なる願いであるのだから。

ゲームの記憶が消えてしまったとしてもこのトウヤさんの心からの願いだけは忘れたくないと思った。

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