六章 本物の旅芸人の一座

 西の地へと向けて山の中の道を通っていると後ろからひずめの音が聞こえてくる。

「ちょっと待って!」

「は、はい?」

切羽詰まった男性の声にアオイちゃんは驚き振り返った。見ると5台の馬車がこちらへと向かってきている。

「いや~。追いつけて良かった」

「あの、貴方達は……」

私達の前で馬車を止めると御者席に座る男が笑顔で話しかけてきた。彼の隣にはとてもスタイルの良い妖艶な女性が座っていてにこにこと笑っている。

彼等を見たアオイちゃんが自分達に何の用があるのかと尋ねた。

「オレ達は旅芸人の一座であんた達が南の地を開放してくれたおかげでこうしてまた旅ができるようになったんだ」

「あそこの領主に私達も捕まえられていてね。毎日踊りを披露しろ、酒の相手をしろと言われてうんざりしていたのよ。でも貴方達がマグダムを倒してくれたおかげでこうして自由の身となり旅が続けられるようになったの」

男が話すと女性も有り難うと言って頭を下げる。

「オレは一座の団長を務めるキイチ。こっちはうちの一番の踊り子のアゲハだ」

「それでわざわざお礼を言うためだけに私達を追いかけてきたの?」

キイチさんの言葉にアオイちゃんが尋ねた。

「違う違う。あんた達これから帝王と戦うんだろ? オレ達も手伝いたくてさ。少なくともオレ達と一緒なら怪しまれずに旅を続けられるだろう。それにこう見えてオレもアゲハも戦えるんだ。一座の奴等も獣くらいなら倒せる。だからあんた達に助けられた借りを返したいんだ」

「それに北の地まで旅するならこの馬車に乗って移動した方のが早いと思うの。ねえ、お嬢ちゃんどうかしら?」

彼が大きな声で否定するとそう説明する。それにアゲハさんもそう言って首を傾げて聞く。

「そうですね。帝王と戦うにしても北の地まで徒歩で行っていては時間がかかりますし、アオイもレナも足が疲れてしまうでしょう。乗せていって頂けるならとてもありがたいですね」

「旅芸人の一座って事にしておけばいろいろと面倒に巻き込まれなくてすむかもしれないし、その方が良いかもしれないな」

ハヤトさんが顎に手をあてがい考え深げに言うとキリトさんも腕を組み話す。

「そうこなくっちゃ! そうと決まれば早速乗って乗って。あ、兵士さん達は全員は乗れないから一座の護衛って形でついてきて」

キイチさんが嬉しそうに言うとアオイちゃん達は馬車へとのる。乗れなかった兵士さん達は馬車の周りに配置しついてくることとなった。

馬車に乗り込んだ私達は順番に自己紹介し合い和気あいあいと話しながら旅を続ける。

「今日はこの辺りで野宿かな」

「そうね。それじゃあ女の子通しあっちにいきましょうか」

「へ?」

「この辺りに何かあるんですか」

夕方になり辺りが真っ暗闇に包まれる前に馬車を止めたキイチさんが言うとアゲハさんが私達を見てにこりと微笑む。

その言葉の意味が解らずに不思議そうにするアオイちゃんとは違い、確かこの辺りで温泉に入るシーンがあったなと思い出した私はそう尋ねる。

「ふふ。ついてくれば分かるわよ」

「?」

「分かりました」

怪しく微笑むアゲハさんに全く理解できないアオイちゃんは疑問符を浮かべていた。私は頷くと三人で馬車から出る。

「姫様達だけでは危険なのでは? 僕達もついて行った方が良いのではないでしょうか」

「アゲハはうちの自慢の踊り子であり一番強い。何かあっても大丈夫さ。それにうちの一座の女連中もそこそこ戦えるから姫様やレナちゃんを守るくらいどうってことない。それに男共が覗けば命はないぞ」

心配そうなイカリ君の言葉にキイチさんがそう言うとにやりと笑う。

「「「「……」」」」

「? それはどういう意味でしょうか」

その言葉で覗いてはいけない=お風呂だと理解したハヤトさんとユキ君は冷や汗を流す。キリトさんとトウヤさんはお風呂とまでは分からなかったが見てはいけないという言葉で大体察したようだ。

一人だけ理解できていないイカリ君が不思議そうに首を傾げる。

「なんて、今頃話してるんだろうな」

「へ。レナ何か言った?」

ゲームの内容を思い出し小さく笑っているとアオイちゃんが声をかけてきた。

「何でもないよ。それよりこんなところに温泉が湧いてるなんて驚きだね」

「そうだね、私も驚いた。この山には源泉が流れてるのね」

「アオイちゃんやレナちゃんは可愛いんだから。常に綺麗にしておかないと」

温泉につかりながら三人で話をする。アゲハさんの言葉に私とアオイちゃんは顔を見合わせた。

「もう、アゲハさんたら……確かにアゲハさんとレナは可愛いし美人だから綺麗にしておかないともったいないけど。私は別に汚れていても気にしないよ」

「そ、そんな可愛いなんて……アオイちゃんのほうが可愛いし美人さんだよ」

アオイちゃんがからかわないで欲しいといいたげに言いながら私の事を可愛いだの美人だのと褒める。

それに照れながら彼女の方が可愛いし美人だと褒めるとアオイちゃんの顔は赤く染まった。

「も~二人とも可愛いわね。お姉さん二人の事大好きだわ」

「きゃあ。アゲハさんいきなり抱きつかないでください」

「は、恥ずかしいです……」

可愛いと言って抱きついてくるアゲハさんにアオイちゃんが驚いて抗議の声をあげる。私も美人さんに抱きつかれて恥ずかしくて頬がほてっているのではないかと思いながら呟いた。

温泉から出ると私達は夕食をとる。そしてみんなそれぞれくつろぎの時間を過ごしていた。

「あ、ハヤトさん。少しいいですか?」

「おや、レナ。どうしたんですか」

夜風に当たっているハヤトさんを見つけてそっと声をかける。彼が私に気付き笑顔でこちらへと振り返った。

「私……ここにきてからずっと考えていたんです。何もできないことがとても辛くて。アオイちゃんや皆さんが危険な目に合っている間何もできずに待っていることが嫌で……ですから、私に武術を教えて下さい」

「……」

必死に志願する私の顔を真顔で見つめ何事か考えている様子。

「申し訳ないですが、貴女に武術を教えることはできません」

「どうしてですか?」

次に話された彼の言葉に私は悲しくなりながら尋ねる。

「貴女はとてもお優しい方だ。武器を持ち誰かを傷つけることをそしてその命を奪うという事ができるとはオレは思わない。いいかい、レナ。武器を持って戦うということはそれだけの覚悟が必要なんです。そしていざという時己を守る為に誰かの命を奪わねばならない。そんなこと貴女にはできないとオレは思います。だから貴女に武術を教えることはできません」

「……」

ハヤトさんの言う通りだ。戦うことを知らない平和な世の中で生きてきた私はきっと誰かを殺すということはできないだろう。そこまでの覚悟を私は持ってはいない。出来れば誰も傷つけず誰も殺さずに済めばいいと甘いことを考えている。そんなことを考えている私じゃ武器を持ったところで武器を扱うことなんてできないのだろう。

「それにね、レナ。オレが思うに貴女はもっと別の素質が備わっていると思うんです」

「別の素質?」

ハヤトさんの言葉に私は驚いて尋ね返した。別の素質っていったい何だろう?

「うん。レナはとっても心が澄んでいる。だから誰かを傷つけるよりも誰かを癒す力を持っている……オレはそう思うんです」

「人を癒す力? そんな力が本当に私に備わっているというのでしょうか」

「うん。なんとなくだけどね。オレはそう思うよ」

彼の話を聞いているとなんだか私の全てを見透かされているかのような気がしてとても不思議な気持ちになる。

まるでハヤトさんには隠し事ができないのではないのかと思うくらいに何でもお見通しなんじゃないかって妙な気持ちになった。

「ハヤトさんて不思議ですね。なんだか何でもお見通しみたいで、何でも分かってしまうみたいで。私のことも分かっているみたい」

「いや。オレが分かるのは君がオレ達の住んでいるところとは違う異世界から来たということだけだよ。だからレナが何を知っていて何をなそうとしているのかまでは流石に分からない。だけどそれがアオイやオレ達の力になりたいと願っている事だけは理解しているよ」

私の言葉に困らせてしまったと思っているのか申し訳なさそうな顔で語るハヤトさん。そんなこと言われたら何もできていない自分が情けなく感じてしまう。

「私は何にもできていないんです。アオイちゃん達のためになりたいと思いながら、何もできていなくて……だから武術を教われば少しは力になれるかなって思っていたんです」

「そうだったんだね。だけど、アオイの側にレナがいてくれるだけでアオイはとても心休まる時を過ごせているんだ。男であるオレ達じゃあ分からないようなほんの些細な気持ちの変化にきっとレナなら寄り添ってあげられると思う。だからアオイの側にいてあげて欲しい」

涙がこぼれそうになりながら語った言葉に彼が優しく声をかけて話す。

「ふふ。この前ユキ君にも同じこと言われたんです。分かりました。アオイちゃんが一人で抱え込んで悩まないように側で見守っていきます」

「有り難う」

ユキ君にも同じこと言われたなと思いながら話すと彼が嬉しそうにそして本当に誠意を込めてお礼を言う。

結局武術はならえなかったけれどハヤトさんと少しだけ仲良くなれたようなそんな気がした一時だった。

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