見出し画像

レビュー「米津玄師/春雷」


今回は、春雷のMVを見た感想などを書こうと思う。
(このレビューは、あくまでも個人の感想及び妄想です。)

この曲を初めて聞いたときの印象は、「切ない」。そして、「あれ!?懐かしい」というものだった。

一言で言うなら、この曲は「ザ・現代版和歌」だ。

MVは視覚的にはポップで現代的なイメージだが、聴覚的に感じる「雅」に魅了され虜になる。
日本人が先祖代々、愛でてきた花鳥風月、文化、その他(よくわからないけどその辺り)への郷愁のようなものかもしれない。


現れたそれは春の真っ最中 えも言えぬまま輝いていた
どんな言葉もどんな手振りも足りやしないみたいだ
その日から僕の胸には嵐が 住み着いたまま離れないんだ
人の声を借りた 蒼い眼の落雷だ

揺れながら踊るその髪の黒が 他のどれより嫋やかでした
すっと消えそうな 真っ白い肌によく似合ってました
あなたにはこの世界の彩りが どう見えるのか知りたくて今
頬に手を伸ばした 壊れそうでただ怖かった

鉄琴のような可愛らしい音色で始まる。
冒頭から長い間、ずっと平坦で抑揚のない歌い方。
何回も聞いていると和歌の読み上げ方にしか聞こえない耳になってくる(ただの思い込みだが笑)。
さらに、言葉も秀逸。
タイトル「春雷」も春の季語だし、「たおやか」「白い肌」「髪の黒」「蒼い眼」「落雷」…想像力をくすぐる様な言葉ばかり。

「あなたにはこの世界の彩りが どう見えるのか知りたくて」…好きな人を想うと、その人の目には世界がどう映るのか知りたくなる。
好きな人が好きなものを知りたい、どういう物を見て、どういう価値観なのか知りたい。
この純粋な気持ちは、多くの人が共感できるのではないだろうか。

全てはあなたの思い通り
悲しくって散らばった思いも全て あなたがくれたプレゼント
ゆらゆら吹かれて深い惑い
痛み 憂い 恋しい

長く続いた抑揚のないリズムから、「待ってました」と言わんばかりに、突然、光明が指す。
この心理的な抑圧から開放された後の次にくるまとまりは、当然、心に強いインパクトを与える。(一人で弱っているときに、誰かに優しくされたらときめいちゃう、みたいな!?)

「全てはあなたの思い通り」「ゆらゆら吹かれた深い惑い」…
これを歌うときの特徴的なリズムに注目したい。

も(い)
か(い)

2文字ごと(太字部分)にアクセントが置かれていて、このアクセントとリズムに体を合わせると「曲線的な形の軌跡=揺れ」が生まれる。
頭だったら左右にゆらゆら揺れるだろうし、手だったら裏表または上下にゆらゆら揺れるだろう。

この体の動きをものに例えるなら、桜の花びら、葉、着物の裾、蝶々の羽、波などが想起される。
これらが風になびいて、優しく舞っている(揺れている)かのようだ。

その情景と主人公の気持ちが相まって揺れている。
それこそ「えもいわれぬ」風情だ。
これを読んでいる人から「しゃらくせえ」と言われそう(笑)。
とにかく、美しい、すごいってことだ。

さらに私たちが声に出して歌うことにより、発声でも「揺れ」を体感することになる。
体を通じて、自ずと主人公の気持ちを追体験することができるのではないだろうか。

言葉にするのも 形にするのも そのどれもが覚束なくって
ただ目を見つめた するとあなたはふっと優しく笑ったんだ

嗄れた心も さざめく秘密も 気がつけば粉々になって
刹那の間に 痛みに似た恋が体を走ったんだ

ここはまた一段階キーが上がると共に、歌詞の切なさがこれでもかとこみ上げてくる。
言葉にも形にもできなくて、ただ目を見つめるしかできない。
そうすると、「あなたはふっと優しく笑った」。
そんな瞬間は、永久凍土にして保存したい。

花びらが散ればあなたとおさらば それなら僕と踊りませんか
宙を舞う花がどうもあなたみたいで参りました

無常、儚さ、消えていく美しさ。
「僕と踊りませんか」は少女漫画か、宝塚歌劇か、Shall we ダンス?か井上陽水なのか、どれにしたって姫は嬉しいだろう。
「宙を舞う花がどうもあなたみたいで参りました」…参っているのはこの曲を聞いている私達だ。
完全に心を奪われノックアウト。



あとがき

春雷を調べたところ、3月〜5月頃に発生する雷で春の到来を告げる雷でもあるらしい。
ここでは、
春雷に打たれたような衝撃=恋に落ちた
だろう。

我が家においては、雷は時期を問わず一年中落ちている。
地震雷火事…え、私(笑)?











この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?