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掌編小説『くゆる朝灯』

朝灯のかいじゅう 序章

 小さな梟(ふくろう)は朝灯(あさひ)の周りを飛び廻る。
 ぐるんぐるんと毎日忙しく飛び廻る。
 昨晩だって小さく光りながら、西の空を飛んでいた。
 
 朝灯はちょうど腹を空かせていたところである。
 梟を見るや否やぶるぶると身を震わせて、一瞬間に弾けてそれを食らった。
 梟はシャボン玉のように四散して、たちまち朝灯に呑まれゆく。

 朝灯はぐんぐん膨れあがった。

 鯨(くじら)の群は逃げ惑う。
 あちらこちらへ尾をなびかせて逃げ惑う。
 それがてんでんばらばらに飛び回るものだから、たちまちぶつかり合って千切れゆく。
 海鼠(なまこ)のような残骸を、朝灯は次々むさぼった。
 そうして、ひと息ぼうっと火を吐く。

 朝灯はぐんぐん膨れあがった。

 目についたものを見境なくごくりごくりと呑み込んで、朝灯は真っ赤に燃え盛る。
 この街を、この星をまるごと呑み込んで、僕らの知っていた景色はきっと焦げてなくなる。
 そうして、いよいよ朝灯は腹を満たした。

 すると今度はぎゅんと小さくなって、弱々しく光りながらうずくまる。
 やがて光を失い、朝灯のかいじゅうは白くなって死んだ。

 遥か数百億年後の話である。

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