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自宅で花嫁のすすめ:三澤武彦著

一読目で、素晴らしい写真と文章に胸が熱くなり、
二読目で、自分自身の結婚式を思い後悔に襲われ、
三読目で、あの時の結婚式はあの形で良かったのだと、涙がこぼれた。

著者の三澤氏のブログによると、この本はこれから結婚式を予定している「結婚式って何だろう?」と迷う人へ向けたメッセージ。

しかし私は、三澤氏の思い描く読者ターゲットとは違う。15年前にすでに結婚式を挙げ、おそらくこれからは結婚式に参列するだけであろう人間だ。

15年前の春、私は北海道神宮で挙式をした。
披露宴はせず、式後はホテルにて親族で会食のみ。衣裳は、当時ホテルの衣裳室に勤めていた友人の口添えで、豪華な刺繍の入った白打掛を拝借した。

色々と簡略化した結婚式になったのは、私と夫が「披露宴」に興味が無かったからだ。私は長らく披露宴会場でアルバイトをしていた経験から、当時の見せ物的な高砂席に自分が座るのを容易に想像できた。
が、しかしどうにも恥ずかしい。
夫に至っては、「チャペルで皆の前で誓いのキス?それは僕には無理です」と笑う。

そして夫の父は、前年に参列したの娘(夫の姉)の結婚式での疲労困憊の記憶が根強く「式は二人で海外で挙げてきたらどうだ。写真だけ見せてくれよ」という提案を私たちに投げかけた。
夫はそれもアリだという考えだったが、私は「二人だけの結婚式」に疑問を抱く。

誰に誓うの。
初対面の神父?訳がわからない。
夫に誓うだけなら、海外の縁もゆかりもない教会へ行く必要なんてないだろう。それに私は、ウェディングドレスにも興味が無い。
それもそうだ、と夫も同意。

そこでふと気が付く。結婚式は単なるセレモニーだ。
今日から夫婦だという「宣言」を、近しい人に見届けてもらうための儀式。それならやはり、二人きりよりも家族の参列があった方が記念にも区切りにもなるはず。そして相談の末、披露宴はせず、式には親族に参列してもらおうということで私たちの意見は一致した。

そこでもう一つの課題。
「親族ってどこまで呼ぶ?」

私と夫の家は、偶然にも親族付き合いが希薄だった。
夫側は父母と姉一家のみの参列で即決。

私の父の親族の関係は、祖父母の遺産相続絡みでボロボロ。
母はというと、年を取ってからというもの、長年の自分と祖母(母の母)と叔父(母の弟)の確執を延々と愚痴るという状況だった。

それでも、私には祖母に可愛がってもらった記憶しかなかった。他の親族はさておき、祖母には参列をしてもらいたかったが、母は「足が悪いから無理よ」と言い放つ。祖母に直接打診してみたものの「体がしんどいし、人混みは疲れるから。写真はたくさん撮ってきてね」と優しく拒否された。

結局、私の方の親族参列者も父母ときょうだい、親しい従妹と友人に落ち着いた。ホテル勤めの友人の助力で、式も会食も滞りなく終え、夕方に私たち夫婦は友人と落ち合い、札幌の夜の街で結婚を祝ってもらい、翌々日には新婚旅行へ出発した。

三澤氏の写真集の中に、高齢のおばあさんが花嫁の手を握って涙を流すシーンがある。そのページを開いた時、私の心の中には澱が残っていることに気がついた。自分の結婚式のアルバムを久しぶりに開き、集合写真を眺める。こじんまりとした集合写真の中に、祖母の姿はない。

私の白無垢姿の写真を見せた時に、祖母も泣いていたことを思い出す。
さらに、当時の私が毎度愚痴る母に気を遣い、祖母や叔父の参列を諦めたことも思い出す。

私の姉の結婚式の時もそうだった。
祖母は姉に「写真をたくさん撮ってきてね」と。
そして姉の結婚式当日、参列を拒んだものの祖母はタクシーを使って式場の外まで来ていたという。姉は祖母の初めての孫で、幼い時からたいそう可愛がられたらしい。その孫娘の結婚式だ。見たくないわけがない。

祖母、他のおじやおば、皆に参列してもらえば良かった。
15年以上も経ったのに、恐ろしいくらいの後悔が私を襲う。
さらに、自分で作った招待状の形状を急に思い出し、稚拙な形式の案内状を出した若い自分に顔が熱くなった。そしてひとしきり記憶に翻弄された後、落ち着いて三澤氏のあとがきを読んだ。


「本物の結婚式って何だろう? でも答えなんてでるあるわけがありません。結婚式は、それぞれの家庭のそれぞれのもの」


本当にそうだ。それでいいんだ。私と夫の結婚式も、当時の私たちをとりまく状況を考えると、あの形がベストだった。その証拠に、「海外で…」なんて言っていた夫の父は、いまだに「あの結婚式は良かった」と口にする。

ただ、やはりこの写真集を見て思う。

15年前にこのような道しるべ的な本に出合えれば、私は祖母が一人で暮らしていた家の広い和室で、白無垢の支度を整えただろう。

「行ってきます、おばあちゃん」

そう言って、夫の待つ北海道神宮に向かったに違いない。



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