小説 | 暴食ちーちゃん

ちーちゃんは何でもパクパク食べる。

どんなものでもむしゅむしゃ美味しそうだ。最近のブームは冷蔵庫らしい。

「ゆーとくん知ってた?日本製は少し甘みがあって、中国製は酸っぱいんだよ!どっちも捨てがたいんだけど、私は中国産の方が好きかな―。なんか癖になる……」 


ちーちゃんがあまりに美味しそうに食べるから、僕も食べてみたけど美味しいとは思わなかった。普通にカレーとかハンバーグのほうが美味しい。そのことを伝えると彼女は「まだまだこどもねー」とお姉さんぶって言った。1歳しか違わないのに。


そんな僕たちはとても仲がいいと思う。
いつも一緒にいるし、これは僕だけの密かな自慢なんだけどちーちゃんから食べ物をわけてもらったことがあるんだ。
あのちーちゃんからだよ?

自分の食べ物をとった男の子が泣いて謝るまで叩くのをやめなかったちーちゃん。
食べるのを止めてきた先生のかばんを全部食べちゃったちーちゃん。

そんなちーちゃんがお腹をすかせた泣いていた僕に「ゆーとくんは大切だから」と半べそかきながら自分の持ってた食べ物をくれた。後にも先にも、ちーちゃんが誰かに食べ物を渡しているところなんてみたことがない。


お父さんが言ってたんだけど、昔この星に食べ物がなくなったことがあったみたい。だから、遺伝子?をいじって僕らは何でも食べられるようになった。
古くなった機械を食べたり、石を食べたり。少し柔らかい土なんてとっても高級。「あのときの土、おいしかったなぁ」なんておじいちゃんはたまに思い出していう。変なの。


今の僕たちはそんな物食べなくても毎日おいしいご飯が食べられる。
カレーもハンバーグも。だから僕たちが機械を食べたり、石を食べたりなんてする必要がない。だけど、ちーちゃんだけは何でも食べる。ちーちゃんは食いしん坊だなって思う。

「ちーちゃんって食べたことがないものってあるの?」


あるときふと気になってちーちゃんに聞いてみた。ちーちゃんは驚いたような顔をして、こっちをじっと見たあと言った。

「うん、あるよ」

いつになく真剣な顔だった。意外だった。
ちーちゃんはいつもニコニコ自分の食べたものの話を楽しそうにしてて、真剣な顔なんて見たことがなかった。

「それってなに?」

「んー秘密」

「どうして?教えてよ」

「まだ言えないんだ。あ、でも言うときは一番最初にゆーとくんに教えてあげるね!」

ちーちゃんがはじめて食べるものは気になったけど「ゆーとくんが一番最初」って言葉がなんだかとってもむず痒くなったのでそれ以上聞くのはやめた。


「とっても大切なものだから、まだ我慢してるんだ」


つぶやくようにこっちをじっと見ながらちーちゃんはそう言った。





〜fin〜







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