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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2020年12月の記事一覧

生死生命論「過去に生きる男2」

生死生命論「過去に生きる男2」

「過去に生きる?」

「そうです。過去に生きることであなた自身とあなたの家族、親族、友人、知人は永遠の命を保つことになるのです」

「彼らが死ぬ前の時間に生きればいいということですね」

「理解していただけましたね。嬉しいです。大切な人が亡くなる前の時間に生きることで、あなたも大切な人たちも不老不死の人生をおくることができるのです。それではひとつ、試しに過去に旅行してみてはいかがですか?」

「そ

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生死生命論「過去に生きる男1」

生死生命論「過去に生きる男1」

65歳の田村茂は、ある日、最寄り駅のホームで見知らぬ男に呼び止められ、突然「あなたは時間旅行できる能力がある」と言われた。

突拍子もないことを言われた田村は「新手の宗教勧誘か?それとも金をせびるケチな寸借詐欺か?」と用心した。男は自分と同年代のようで、痩身に吸い付くような黒のスーツを着て、同色のネクタイも緩めずに締めていた。奇妙な事を言うわりには柔和な表情をしていて、宗教勧誘や寸借詐欺には見えな

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家路2「空中水槽」

家路2「空中水槽」

武雄は、また帰り道を急いでいた。
遅くなってしまった。もう午前0時を過ぎている。
終電には間に合ったが、終電は、自宅ひと駅手前の駅が終着駅なので、そこからひと駅歩いているのだった。明日は、朝いちで片付けなければならない仕事があるので、早めに出社しようと考えている。最近はこの調子で寝不足が続いているのだった。

「少しでも早く眠りたいよ」

自宅まであともう少しというところに公園がある。この公園を通

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「終電車」

「終電車」

 その日、仕事の帰りに舩馬洲(ふねめず)の街まで出て同僚数人と数件を飲み歩いて、気がついて時計を見たら、もう終電の時間になっていた。「まだまだ飲むぞ」と大騒ぎで夜通し覚悟の同僚たちとようやく別れて、北武野中線の舩馬洲駅ホームへの階段を駆け上がって発車寸前の終電電車に滑り込んだ。息を整えながら腕時計を見ると午前零時を過ぎて翌日になっていた。最終電車とあって、いつもはすし詰めとは言わぬまでも座る場所も

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「家路」

「家路」

武夫は街灯の少ない暗い道を歩いている。
遅くなってしまった。もう午前0時を過ぎている。
終電には間に合ったが、終電は、自宅ひと駅手前の駅が終着駅なので歩いている。
明日はいつもより早く出社しなければならないので、武夫は小走りで歩いている。
自宅まであともう少しというところに公園がある。この公園を通れば自宅までの時間を短縮できる。
武雄は躊躇することなく公園に入った。
しばらく歩くと「おっさん」ドス

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