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「好きなことを仕事にしたい」と模索して歩いた道の先のお話。

近頃、「好きなことを仕事にしよう」という言説によく遭遇する。好きなことがすでにあればもちろんそれはいいことなんだけど、私は、かつてその言葉で苦しんだことを思い出す。

私は幼い頃から、没頭しやすい質であった。

何かの漫画にハマれば毎日イラストを描き、漫画を描いた。幽遊白書にハマったときは毎日友達に幽遊白書について語り飛影と蔵馬と刃霧に思いを馳せていた。ゲームにハマれば毎日ゲームをし、ファミ通を毎週買って読み続け、好きなゲーム会社(「ぷよぷよ」のコンパイル)の会誌を取り寄せイラストの練習をした。ファイナルファンタジー7にハマればサントラを購入し(今も持っている)やっぱりイラストの練習をした。MOTHER2にハマれば何度も泣きながらラスボスを倒してエンディングを見た。マリオもヨッシーアイランドもゼルダもポケモンもスマブラも聖剣伝説2も風来のシレンもトルネコもかまいたちの夜も私立ジャスティス学園も初代ときメモも、ハマったらとにかくそればかりになった。この頃は、将来はイラストレーターになりたいなぁ、またゲーム会社に勤めたいなぁ、と具体的に努力をするわけではないが、確かに思っていた。

その後爆笑オンエアバトルにハマればビデオをダビングして友人たちに貸し回り、「金曜日の夜はオンエアバトルを見て!アンジャッシュとアンタッチャブルが面白いよ!」と布教した(今思えばわりと迷惑なやつだ。みんな優しく受け入れてくれてありがとう)。高校生になったら勉強に熱意をシフトして、楽しく勉強して点数を上げることに工夫を重ねた。大学生になったら脱出ゲームにハマり、神話にハマり、ダイエットにハマり、果実酒づくりにハマり…。とにかく何かに没頭しやすい性質なのだ。

没頭してるときは本当に楽しい。アドレナリンとかドーパミンとかセロトニンとか、いろんな脳内物質がどはどば出てる感じがする。麻薬なんかやらなくても多幸感が半端ない。

だから、「好きなことを仕事にしたいなぁ」とずっと思っていた。脳内物質を放出しながら仕事にハマれたらどんなに楽しいだろう。勉強も通学もしなくて良くて、ずっと楽しいことだけしていればいいのだ。なんて夢のような生活だろう。ずっとそう思っていた。

しかし、その「好きなこと」が何か、が難しかった。私は熱中しやすく凝り性だがが、8割がた把握し楽しむと急速に興味を失ってしまうのだ。絵を描くこととゲームは飽きのこない趣味だったが、いずれも受験勉強のためにやめてしまった。大学では人間科学部という学部で社会学や人類学など興味のある学問をたくさん学んだが、「これ!!!」という学問を見つけることはついにできなかった。

はてさて困った。ここから私の長い旅が始まった。大学卒業後は、父の仕事と同じ専門職の資格を目指してみた。専門的でやりがいのある仕事だ。成績も悪くなかったんだけど、一生その責任の重い仕事をやり切れる自信がついに出ず、方向転換をした。たまたま求人情報が目に入り、教育系の会社に入社した。講師として働いてみた。同僚と上司にも恵まれ、我ながら適職だったが、一生するほど好きかと言ったら微妙だった。

その後、折を見て転職し、なんとなく心惹かれたドキュメント制作会社、IT企業、現職と渡り歩いてきた。どれも興味深く学びはあったし、力を抜かずそれなりに懸命にやってきた。並行して趣味も、大学のハンググライダーのち、昔習っていたピアノ、もはや習慣である読書、今のトライアスロンなどいろいろハマってやってきた。ずっと、「私は何が好きだろう?天職になるくらい好きなものはなんだろう?」と考え、ある時は苦しみながらやってきたが、30代の今まで、ついに見つからなかった。

でも今はわかる。私は「いろいろやってみるのが好き」なのだ。新しく好きなことを見つけて好きなときに好きなだけハマり、好きなときにやめる。その行為が好きなのだ。凝り性だが、専門家ではなく冒険家であった。また、わりと守備範囲が広いので、大抵のことは楽しみを見つけられる。仕事も、それぞれ楽しみを見つけてやってきた。「好きなことを仕事にすることこそが幸せな生き方だ」と信じてずっと探し求めてきたが、特に好きなことを仕事にしたわけでもない生き方もわりと幸せであった。

また、いろんなことを試すたび、世界が広がった。私がもしあのまま絵を描き続けて幸運にイラストレーターになれたとして、それも幸せな人生だったかもしれない。しかし、私の性格ならば、いずれ他の仕事をしてみたいときっと思っただろう。また、イラストレーターにならなくても会社で使う資料には常に美的感覚が必要だし、IT企業で働いてるときにWEBデザインを考える際にも役に立った。絵を描く能力は他に活かせることはたくさんあって、いろんな仕事をしてそれを知った。また、絵とゲーム以外にも、私は実は講師の仕事が向いているとか、意外とマネジメントも得意だとか、知らなかった自分の強みもたくさん見つけた。最初は苦手だと思っていたけどやっていくうちに好きになったものもある。これからも自分はどんどん変わっていって、新しい世界と新しい自分にたくさん出会うだろう。

今好きなものがあって、それを仕事にしたいならそのために努力するのはとてもいい。今好きでもない仕事をしてつらいなら、好きなことを仕事にできないか考えるのもいいだろう。でも、世界は思ってるより広いし、変化しているし、自分には思ってるより可能性がある。必ずしも、今できること、今知ってることから逆算して見つけなくてもいい。常に視野を広く持ちやってみたいことに挑戦していけば、いくらでも道は広がっている。わざわざ探さなくとも、好きなこと・やるべきことは、自分が進むべき道は、道を歩いているうちにきっといつの間にか出会える。好きなことを仕事にすることに、こだわる必要は全然なかった。当たり前なのだが、「好きなことを仕事にしよう」は、「好きなことを仕事にしなければならない」ではなかったのだ。

果たして今は、自分にやってくる機会を素直に受け取って、柔軟に生きていこうと思っている。

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