
教育NPOを立ち上げて20年目。自分たちだけでできないことがたくさんあるから、“場をつくる仲間”を応援したい。
私が代表をつとめる認定NPO法人カタリバが、来月で設立から20周年を迎える。
靄の中、思い込みの強い2人で「NPOカタリバ」と名乗って、取り組みをはじめた。当時は想定していなかった素晴らしい出会いの中で、たくさんの広がりができた。
カタリバは、今では年間約10万人の10代に支援やプログラムを届けている。学校や地域に常駐してカリキュラムづくりから深く関わることもあれば、オンラインで子どもたちに学びの機会を提供することもある。
職員は140人。保護者や子どもの伴走支援を担うパートナー、学校に派遣するコーディネーターという形で関わってくださる方々は、1000人を超える。みんなで、目の前の現実に悩みながらも、できることの最大を目指して精一杯取り組んできた。
けれど、日本全国に10代は約1200万人いる。
20年も続けてきて、まだ1%にも届いていないということになる。
「どんな環境に育っても『未来は創り出せる』と信じられる社会を」。そんなことを掲げて活動を始めたけど、20年前よりも子どもたちを取り巻く環境は悪くなっている思うことも増えた。
今の延長線の事業を続けているだけでは無力だ。
次の20年をどうしていくのがいいのか——。
悩み続けてきたこの問いの答えを探して、あたらしい取組みをはじめることにした。
10代に伴走する「人と居場所」の支援プロジェクト開始
ありがたいことに、全国の方々から「うちの地域にもカタリバの拠点をつくってほしい」とお声がけをいただくことも増えた。しかしそのたびに、丁寧にお断りすることが続いている。急な組織拡大は難しいと思っているからだ。
子どもを取り巻く環境(例えば行政の政策、民間団体の数と種類、移動交通の手段など)は、100地域100通りで、それぞれ違う。また、課題や地域の雰囲気、大切にされてきた文化もいい意味で多様で、子どもの教育はそれらと密接につながっている。
これまで、カタリバが地域に拠点をつくるたびに、その地域で生きてきた人たちが何を大切にしてきたか、逆に課題はなにか、まずは知るということからはじめてきた。
そうすると、少しずつ仕事に魂が吹き込まれ、数年かけて本当に子どもたちの行動変化に貢献できているな、と思えるチームに育ってくる。
仕事を形式化して一気に広げる株式会社のようなやり方もあると思う。しかし私が代表である以上、そのやり方はできない。例えば働く人の家族の心配もしあえるような関係性の組織規模を維持したい。それでできる120%の仕事をストレッチしながらやっていきたい。
そんな想いもあり、直営拠点を全国に広げ続けることは難しいと思っている。
ただ、同じ思いで取り組む、全国のがんばる人を、精一杯応援することならできるかもしれない。
私たち以外にも、全国にはそれぞれのやり方で、地域の中で10代の居場所や10代の探究伴走をしようとする方々がいる。
教育のNPO経営、特に採算が取れない領域でこそ届けられる仕事の領域で取り組む人たちがモチベーションを保つことがどれだけ難しいか、同じ経験をしてきたので私はよくわかる。特に、走り出したばかりの頃は、すべてが足らなくてたいへんなんだろうと思う。
この20年、3年以内に組織運営をやめてしまう人も何チームも見てきた。しかしそれは、非常にもったいないことだと思う。
現在、それぞれの地域で個々に孤独に頑張っている人たちを、いい形で応援することはできるのではないかと走り出してみることにした。
そんな流れの中でETIC.さんと協働し、【10代を応援する人を応援する事業】を立ち上げることになった。
休眠預金も活用させていただけることになり(JANPIAによる資金分配団体決定のリリースはこちら)、今は応援させていただく団体を公募できるよう、急ピッチで準備をしている。
今回、10代の子どもたちを支える居場所事業の立ち上げを支援する。その中でも、特に地方で取り組む団体を応援したいと思っている。
地域と都市部、子どもたちの機会格差
まだ日本には少ないけれど、都市部で育つ子どもたちには、学校以外の場所で誰かと出会ったり、居場所にしたりする選択肢が多くある。オルタナティブな居場所を提供するNPOの数自体、地域間格差がある。未就学や小学校低学年の子どもたちを対象に活動するNPOはあっても、10代が対象となると、全く支援リソースがない地域も多い。
特に「思春期10代にとっての居場所」と呼べるような場所が、学校以外に見当たらない。
こうなると、異質性のある他者との出会いや刺激的な体験は、どうしても縁遠い話になってしまう。「今はネットもある」とはいえ、同質性の高い人たちとのつながりに閉じやすい部分もある。中高生にとって自分の人生の少し先を歩む、新たな視点をもらえる「ロールモデル」は見つかりにくい。
カタリバが長年関わってきた岩手県の大槌町も、昔はそうした地域の一つだった。
人口約10000人の大槌町には大学がない。一番近い県内の大学でさえも、電車とバスで片道3時間以上かかる。大学生の姿を見たり、大学の文化祭やイベントに電車で行ってみたりする。都会では当たり前のそうした日常は、この町では手に入らないものだった。
東日本大震災後、私はこの町に住みながら、ボランティアの若者たちに参加してもらいながら、放課後に立ち寄れる居場所をつくり、学習支援をしていた。
「勉強は嫌い。テストでは下から3番目以内」と話す花さん(仮称)は、毎日のように私たちが運営する拠点に一番にやってきた。最後までずっとおしゃべりしたり、勉強したりして過ごしていた。家族に関する悩みがあり、学校でも自分の居場所がみつからない子だった。
ある日、東京で開催したワークショップ旅行に連れて行った。その時、代々木の夜空を見上げて花さんはこうつぶやいた。
「支援されてばっかりで、何か私もできることないかなと思っていたけど、大槌町にあって東京にないものをやっと見つけた。大槌は街灯もなくて真っ暗だから、星がよく見える。私が、私のことを応援してくれている人たちに星をガイドできるようになりたい」
この子の興味をどう伸ばしてあげられるだろう?
そう思っていた時、たまたま近くに調査研究に来ていた科学者の方と出会った。もしかしたら・・と、花さんにこの科学者の先生を紹介した。先生は、ゆっくり花さんの話を聞き、対話してくださった。
花さんは高校を卒業するまでに夜空のガイドイベントを何回も実施し、周りの人にも喜ばれながら、少しずつ自信を身につけていったように見えた。
「科学者の先生と約束したから」と言いながら学習にも前向きに取り組み、ある日「学年で20番になったよ!」と嬉しそうに駆け込んできた。その顔を、今でも覚えている。
第三者の大人の関わりと居場所が必要
思春期の10代は、子どもと大人の中間地点。「自由になりたい」「自分らしくありたい」という思いで、一番近くにいる家族や大人への反発心を持つ一方で、自分だけで自立することはできないというアンバランスさがある。
そのアンバランスさゆえのフラストレーションの中で「つながる」安心感を得るために、仲間と空気を読み合い、集団に合わせるために行動してしまう特性を持っている。
だからこそ、学校にいる仲間とは違う視点で、「みんなと違ってもいいんだよ」と言ってくれる人が必要だ。決して学校を批判したいわけではない。学校という場所とは別に、自分の見方・考え方をリフレーミングする機会や、第三者の大人と関わる機会が必要だ。
学校ではうまくいいところを伸ばせない子も、家庭環境が少し大変な子も。他に居場所があったり、ナナメの関係の人との出会いがあることで、夢が見つかるかもしれない。そんな仕掛けを戦略的につくっていけないだろうか。
学校での人間関係に死にたいほど悩んでいる子がいれば「大丈夫?話を聞くよ」と寄り添う。他者の目が気になってやりたいことができない子どもがいれば「そんな言葉は気にしなくていい。やってみようよ」と背中を押す。
方向性を探していた数年前、北欧のフィンランドにヒントを探しに行ってきた。フィンランドでは、自転車圏内に学校以外の10代のための児童館のような施設が当たり前のようにたくさんあった。そこでは、【ユースワーカー】という専門職の人たちが働いていた。ユースワーカーが担う、ユースワークという仕事。それは、日本の未就学から小学校低学年の子どもたちのための児童館で働く人たちとはまた違う、だけど、学校の先生とも違う。学校でも家庭でもないサードプレイスで、思春期世代に伴走することを専門としている仕事だった。
なるほど、私たちがしてきた取り組みはユースワークとして分野なのか。
そして、ユースのための居場所は、ユースセンターというのか。
格差と分断が静かに広がる日本においても、“ユースワーク”という仕事と、地域ごとの多様性を踏まえて運用される“ユースセンター”が広がることが必要だと思う。
家庭でも学校でもない。だけど安心安全を感じられる第三の誰かとの出会いができるユースセンターが加速度的にひろがるために、私たちができることを探したい。それが私の想いとしてある。
地域で10代に関わる仲間を見つけたい
10代を「誘い出す」「伴走する」ことには、独特の専門性が必要だ。居場所のつくりかた、10代との関わり方の技術やモラル、10代目線で参加したいと思えるようなデザインまで。カタリバがこれまで20年かけて見つけてきたものを、色々な人に、地域に開いていきたい。もちろんそれは完成形ではないけれど、お役に立てることはあるのではと思っている。
カタリバでは、被災地域の子どもたちや、経済的に困っている家庭の子どもたち、また、不登校の子どもたちなど、一見すると困難な状況に置かれた子どもたちを支援している。
しかし私は、できるだけそういった子どもたちを「かわいそうだから支援する」と思わないようにしたい。
また、「この地域のために」子どもを育てたいとは思いたくない。子どもたちは、誰のものでもない自分だけの人生を生きる、いち個人である。ただ、一個人として生きていく上で、自分をはぐくむ文化や人は、きっと貴重な教育資源になりうる。
どんな子どもたちにも、本来のばせる羽根がある。もしかすると、今経験していることのすべてが、数年後の自分をつくる、重要なベースになるかもしれない。社会をつくる、大切な力になるかもしれない。
「子どもたち」を真ん中に置きながら、それぞれの羽根をのばすために。地域に住む人が、その地域の子どもたちの状況に目をこらし、いま必要な手助けをする。
もっともっと子どもたちが羽根を伸ばせるように、ある種のお節介に、”ユースワーカー“として関わりたいという方は、ぜひ一緒にチャレンジしてくれたらうれしいなと思っている。
自分でもやってみたいと思った方へ
「地域と都市部、子どもたちの機会格差を埋めるチャレンジをしてみたい」と思う方。居場所事業の立ち上げや、新規事業づくりに興味を持ってくださる方。そんな方々向けに、詳しいお話をする機会をつくろうと考えています。
11/8追記:「ユースセンター起業塾」HPを公開しました。
現在、トークイベント(11/21に開催)、助成検討団体向けのオンライン説明会(11/25・12/4に開催)の参加者を募集しています。
公募要領等の詳細は11月22日頃に、登録いただいた方宛にメールでご連絡します。ご希望の方は下記フォームに連絡先をご記入いただけるとうれしいです。
※そんな団体の方々を支える側の職員として参画したいという方は、ぜひこちらの採用イベント(10/24と10/29で開催)にご参加ください。
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