毎日連載する小説「青のかなた」 第50回
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朝之は他の面々にもポキを取り分けてあげていた。皿を受け取った思南が、朝之に笑顔を返している。
「ありがとう、トモ」
何気ないその言葉に、箸を持つ光の手が止まった。今の思南の言葉、声のやわらかさは、どこかで聞いた覚えがある。
そうだ。パラオに来た翌日、スーパーの駐車場で思南が恋人と電話していたときだった。彼はやさしい声で、電話の相手を「トモ」と呼んだはずだ。
光の視線に気づいたのか、思南がこちらを見た。目が合うと、彼は光の言いたいことをすべて理解したみたいに微笑む。
「気づいた?」
「……うん」
思南は隣にいる朝之の顔を見た。朝之も笑顔でそれに応えている。
「トモ。今、光に話してもいい?」
「うん。もちろん」
二人の様子は、その雰囲気だけ見ると友達同士と変わらない。それでも、何か違う……しっかりとした繋がりがあるのを感じた。
「光、彼が『トモ』だよ。僕の一番大切な人」
思南が言った。一番大切な人。友達という意味では、きっとないだろう。
「パラオでできた友達や、職場の人たち……みんなは僕とトモが仲良しの友達と思っているよ。知っているのはレイと風花だけ。パラオは日本や台湾よりもずっと狭いから、本当のことは言わない」
「うん。俺もスーも、自分たちの関係を恥ずかしいとは思ってないんだけど、みんなを驚かせたいわけじゃないから」
二人の話を、レイと風花も何気ないことのように聞いている。「仲良しの四人のうち二人がくっついただけ」と自然に受け止めているような感じだった。
「驚かせてごめんね」
思南が申し訳なさそうな顔をするので、光は慌てて首を横に振った。
「確かに驚いたけど……二人が一緒にいるところは、見ていてしっくりくる」
そう話すと、今度は思南の方がつぶらな目を大きく開いて驚いた顔をする。
「あ……『しっくり』って、意味わかる?」
「うん。わかるよ、わかる」
思南はにっこり笑った。嬉しそうな顔だ。光の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「嬉しい。ありがとう、光」
思いを込めるように、思南の手が光の背中をトントンと軽く叩く。こんなふうに誰かにハグされるのははじめてだ。ちょっと戸惑ったけれど、光も彼の背中にそっと手を当てて応えた。
「でも、どうして話してくれたの? 秘密にすることもできたのに」
思南の体が離れると、光は言った。
「そうだね。でも、光がパラオに来る前から、話してもいいって思ってたよ」
「来る前って……まだ会ったこともないのに、どうして?」
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