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東京タワーの箱をつくりたい。

「オカンが死んだら開けて下さい」。そう書かれた紙の箱。

リリーフランキーさんの作品、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」に出てくるその箱には、「ボク」が幼いころに欲しがっていた古いお札、通帳と印鑑、生命保険証、手紙など様々なものが入っていた。「オカン」が亡くなったあと、「ボク」が箱を開けて一つひとつ取り出しながら生前の母を思い出すシーンは、何度読んでも涙が止まらない。

はじめてこの本を読んだとき、私はもう元夫と別居していて、いずれは離婚することを決めていた。「東京タワー」に出てくる「オカン」も、女手ひとつで息子であるリリーさんを育ててきた女性だ。

「オカン」は自分の命がそう長くないとわかったときに、後のことをたくすのは息子しかいないため、この箱を早くから用意していた。

もしも自分に何かあれば…死ぬとか、死なないまでも寝たきりになるとか、認知症になるとか…そんなときは私も「オカン」同様、夫がいないので、すべて子どもたちに対応してもらうことになる。

連絡してほしい人、通帳と印鑑のある場所、保険のこと、毎月の支払いのこと、解約が必要なもの。さらには、そのときにできあがっている原稿があれば納品してほしいし…と伝えたいことを数えはじめればきりがない。

「東京タワー」を読んだときから、私もこういう箱をつくらなければと思うようになった。ただ、当時はまだ今よりも若くて自分に何かあるとは考えにくく、ずっと先のばしにしてきての今。

いよいよ、その箱をつくろうと考えている。いや、箱の前に、まずは箱の中に入れるノートをつくろうか。そうなるとエンディングノートみたいなものになるのかと思い、一度書店に行ってみた。いくつか並んでいたエンディングノートを開いてみると、いずれも必要事項の連絡というよりは、自分のおいたちや思い出を記入するページが大半で、私が思っていたものとはちょっと違っていた。

自分のことを伝えたいのではなく、後に残された子どもたちが困ることのないようにしておきたい。そして、仕事先にも迷惑をかけたくない。そのためのノートであり、箱を用意したいのだ。普通のノートに書き込んでいくか、パソコンに保存していくか。伝えたい内容はどんどんと変わっていくだろうし、データで保存する方が変更がきく。いや、それでは「東京タワー」の箱を作ることはできない。

……ん?

私は必要なことを伝えたいのではなく、箱を作りたいのだろうか。あの感動の場面を再現したいのだろうか。そうなのかも知れない。息子を泣かせたい。自分を思い出してもらいたいのかも。

それはともかく、我が家の(わずかばかりの)お金のありかも子どもたちは知らないし、保険のことも知らない。今話したところで忘れてしまうだろうから、最重要事項のメモをつくるところからはじめてみよう。そして、それを空き箱に入れ、少しずつ伝えたいことがあればその箱の中にほうりこんでいくスタイルがいい。あれも、これもと、最終的にダンボールにならなければいいけれど 笑。まずはその一歩からはじめてみることにする。

そして箱に書くのだ。「オカンが死んだら開けて下さい」と。


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