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ダーウィンとフランケンシュタイン、19世紀の奇妙な夢、そして未来へ

自然科学と特撮、どちらの記事が人気あるのかな~と思いつつ、今回は変化球です。

1752年、アメリカ建国の父として知られるベンジャミン・フランクリンは、雷の正体が電気であることを実験によって証明します。         1780年、イタリアのルイージ・ガルバーニは、死んだカエルの脚に二種類の金属を接触させるとピクピク動く現象を発見し、「生命は電気である」と提唱して「動物電気」という言葉を産み出しました。           それに対し、イギリスのアレッサンドロ・ボルタは電池を発明して「電気の源はカエルの脚ではなく、二種類の金属の中にある」と発表します。1800年のことでした。                           現在、ガルバーニは電流を検出する「ガルバノメーター(検流計)」にその名を残し、電圧の単位である「ボルト」はボルタにちなんでいます。   19世紀は、それまで知られていた静電気と違い「電源」である電池から絶え間なく流れる電気、すなわち「電流」を人類が手に入れたところから幕を開けるのです。

進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンは野心的な科学者たちのパトロンであり、彼らの集会場所として自分の屋敷を提供していました。街灯の無い時代、メンバーは月明りを頼りに帰宅するため、満月の日が集会に選ばれた事から「ルナ協会(ルナ・ソサエティー)」と名づけられます。創立時の顔ぶれには蒸気機関を改良した(発明ではない)ジェームズ・ワットや、陶器で有名なウエッジウッドも名を連ねていますが、近隣住民には研究内容がサッパリ理解されず、「胡散臭い連中がたむろして黒魔術のような事をしている」という噂が流れました。

1816年、詩人のパーシー・シェリーは不倫相手のメアリーと彼女が産んだ子供を伴い、スイスのレマン湖畔に引きこもっていました。貴族であるシェリーは世間の非難に耐えられず、各地を転々とした後、同じく詩人で友人であるバイロンの別荘を訪れたのです。そこにはバイロンの愛人と主治医のポリドリもいました。退屈しきったシェリーとバイロンは、毎日のように様々な話題で議論を重ねていましたが、彼らの耳に出所不明の怪しげな噂が飛び込みました。

「ルナ協会を主宰するダーウィン博士が、スパゲティのかけらに電気を流して生命を吹き込んだところ、それはピクピクと痙攣したらしい・・・」 (実はエラズマス・ダーウィンは1802年に亡くなっているのですが、スキャンダルまみれの彼らには情報を更新する余裕も無かったようです)

まだ19歳で神経過敏だったメアリーはその夜、悪夢を見ます。      青年科学者が死体を接ぎ合わせた怪物に落雷を浴びせる。目覚めた怪物はベッドに横たわる彼をじっと見下ろして・・・             メアリーは恐怖を払拭するためにあえてこの夢に向き合い、一年かけて小説に書きあげました。それが「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」で、1818年に匿名で出版されます。その少し前にシェリーの妻が自殺し、メアリーは正式にシェリーと結婚して、後世では「フランケンシュタイン」の作者はシェリー夫人として認知されるようになりました。

自分達の知らないところで科学が発展し、世界が様相を変えようとする時、漠然と感じる「言葉で言い表せない不安」が悪夢となり、「物語」に昇華されるのは「フランケンシュタイン」が「最古のSF」と呼ばれる所以でしょう。メアリーの父親は無政府主義者の作家ですが、娘の不倫にオロオロするだけで何も出来ず、その一方でシェリーに借金を申し込んでいました。高尚な議論を好んだシェリーも自ら離婚に踏み切ったことは一度もなく、メアリーの生活が楽になったのはシェリー家の遺産相続が親族に認められてからです。父と夫が「インテリ系のダメ男」というプロフィールを見るに、青年科学者フランケンシュタインが産み出した怪物は、メアリー自身の姿が投影されているように思えます。

今回は未読の方の為に小説の内容は伏せますが、私の中で「フランケンシュタイン」は「ブレードランナー」という映画(1982年:リドリー・スコット監督)とワンセットになっています。レプリカント(人造人間)のリーダーであるバッティは、自分の死期を悟り、主人公のデッカードに告白します。「・・・私達は君達の知らない多くのものを見た。多くの体験をした・・・しかし、私達が死ねばそれらは永久に失われてしまう・・・君達に聞いて欲しかった。私達を見て欲しかった・・・それだけなんだ・・・」       そう語り終えた後、バッテイは眠るように寿命を迎えます。「ブレードランナー」は、創造主に名前さえ与えられなかったフランケンシュタインの怪物の墓碑銘なのです。



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