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桜前線レポート 第1139話・3.28

「12時まで2時間余りか」時計を見る。まもなく10時になろうとしていた。大切な約束である。急がなければならない。こうして俺はあわただしく準備を始めた。「えっと、だな」俺は思って居た時間よりも2時間も進んでいることに改めて気づく。これは非常にピンチだ。4時間で準備するつもりが2時間で行わなければならない。だから8時だと思っていたのに10時だと知った時にはあまりにもショックのあまり、何が何だかわからない状態、頭が白くなった。

 だが、冷静さを戻せば戻すほど、この2時間のロスタイムは俺にさらなるプレッシャーを与える。「落ち着こう、まだ2時間あるではないか」もう口に出して自分自身を追い詰めないようにした。大きく深呼吸する。これで少しは落ち着くかと思ったが、そうはいかなかった。必死になって準備を進めるがこういう時に限って空回りをしてしまう。冷静にやればすぐ終わるような作業が余計に時間がかかる。俺はときおり時計を見た。時間が少しずつだが進んでいるのがわかる。

「くそ、時が止まってほしい」俺は思わず弱音を吐く。吐きつつもそんな感情にふけっている時間はない。時は一刻一刻進む。こればかりはどうすることもできない。焦ろうが冷静になろうが時は進むのだ。

 俺は気を取り直して準備を進めていく。4時間あるときにはゆっくりと準備をすればよいと思っていた。途中でコーヒーかお茶を飲みながらマイペースで準備をすれば十分間に合う時間である。だがそれが許されない時間になった今、焦ってはいるが、それでもペースを上げればどうにかなりそうな気がしてきた。

「焦るな、時間はまだ一時間以上ある」俺はそう心に言い聞かせたが、その時に思わず時計を見る。時刻はあと1時間になろうとしていた。あっという間に半分の時が過ぎていく...…。

「何をもたもたしているんだ!」俺は自分自身に檄を入れた。とりあえず動かして少しでも前に出よう。それしかない。俺は必死だ。すでに半分の時間が経過したが、おそらくまだ準備の進捗は半分も進んでいない。このままでは間に合わないようだ。
「気合を入れるぞ!」俺は気合を入れなおした。これまでは焦ってばかりで帰って気持ちが上ずっているようだ。だから遅い、だがそうではないのだ。「とにかく急げ、時間を気にするな、急げ」俺は何度も言い聞かせながら集中していく。

 するとどうだろうと単に俺の速度が速まったようだ。準備は着実に進んでいった。「今まで何をモタモタしていたんだろう」と、疑うほどの速度がアップ、あとわずかで準備が終わりそうだ。

「よしあとわずか、これが最後間に合ってくれ」俺は時計を見たかったが、怖いから見られない。こうして最後まで終わり準備はすべて終わった。
「どのくらい?」俺は時計を見る。10分前であった。俺は思わず大きく深呼吸をする。全身からしびれるような電機が走ると急に力が抜けていく。

「おう、できたか」それから10分後、予定通りの時間にひとりの男が入ってきた。「ああ、できた、どうにかな」俺は男にそういうと出来上がったものを見せる。男は完成したそのものを一瞥した。「ほう、これはなかなかやるな。お前にそんな才能があるとは」といって口元を緩める。

 こうして男が用意した車に、俺は準備が完成したものとともに乗り込む。
「お前のおかげで、今年はよいことになりそうだ。感謝するぜ」ドアを閉めエンジンをかけながら男は俺に礼を言う。俺は「いやいや、俺これが得意だから」といいながら手を頭の後ろに置いた。

 男は車を動かし始める。「みんなは先に集まっているのか?」俺が男に質問をした。男はハンドルを握り真剣なまなざしで前を見ている。そしてゆっくりと口を動かす。「ああ、他のメンバーは先に現地に向かった。まあお前の場合は、今回の事情があるからみんな気にはしていない」

 そこまでいうと男はアクセルを踏んで車を加速させた。

「すぐそこだ。みんな待っている急げ!」男に急かされるように俺は車を降りると、手には準備をしていたものを両手で大事に抱えている。こうして男の後ろをついていく。ちょうど周りではシートを敷き、そこに座っている人がいた。俺とは直接の接点はないが、彼らはみんな嬉しそうだ。
 そう思っていたら、正面に俺を待っていたメンバーがいた。「よっ!待っていました」の声。すでにアルコールを飲んでいるのか赤い顔をしたメンバーもいた。俺は思わず白い歯を見せる。

 こうして俺は花見用の弁当を無事に人数分完成させ届けることができた。本来なら俺はこのまま帰るのだが、今日は俺の仲間である。だから桜の木の下でこのまま宴会に参加するのであった。

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